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買い物

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その日の午後、美菜は銀座に買い物に出かけた。
平日、仕事で都内に出ている美菜にとっては、通り道の銀座は買い物をする上で
都合がよかった。
美菜が今住んでいる柏からは1時間ちょっとの距離だ。

駅前のコンビニでペットボトルのお茶を買って電車に乗り込んだ。丁度よく区間急行に
乗ることが出来た。
椅子に座って外を流れる景色を観ながら、美菜はナミの事を考えていた(最近、1人で
考えることといえば、大抵が彼女の事だったが・・)。

彼女が現れてから数ヶ月、美菜の生活にも変化が生じ始めていた。

本来生意気で我がままだった美菜の性格はすっかりなりを潜め、人前では控えめな態度をとる様になった。
仕事をしていても、友達と会っていても、ナミは常に美菜の事を見ており、他人に対しちょっとでも傲慢な素振りを見せると、その事で美菜を責め、より厳しくいたぶるのだ。
職場の人間や友人達は、元気のない美菜を心配してくれたが、ナミの事を話す訳には
いかなかった。
つい最近まで週一ペースで合コンをしていた仲間は、すっかり付き合いの悪くなった
美菜を見限り連絡して来なくなった。

服装も変わった。
若い頃から自分の容姿には自信があり、社会人になってからも派手で露出度の高い格好をする事が多かったが、ナミがそれを許さない為に、落ち着いた柄のものを選ぶ様に
なった。

最初は気持ちにゆとりもなかった為、家にあった古いジーンズなどを引っ張り出して
着ていたが、もともとお洒落が好きだった美菜は、そんな制限の中でも次第にこだわりを持って服を選ぶ様になっていった。

これは、ナミに対するささやかな抵抗だったのかもしれない。
今日もデニムの上下というシンプルな格好だが、どれもブランド品の質の良いもので
揃えている。
ナミも、その様な服を選んでいる限り、干渉してこなかった。

〝よし、今日もセンスの良い春物の服を調達するぞ。〝

美菜は自分を奮い立たせるために心の中で呟いた。

ナミに聞かせる為に。
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