種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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腐敗竜編

腐敗竜の異変

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ジャンヌは「レーヴァティン」を腰に差し込み、レノ達が待っている訓練場に直行する。既に教皇の指示があったのか、ワルキューレ騎士団も武装を整えており、彼女が辿り着いた頃にはレノ達も準備を終えていた。

「転移魔方陣」を使用すれば腐敗竜が住処としている村の近くまでは移動できるが、それでも到着するには馬車でも半日近くかかる。腐敗竜が生み出した卵の孵化をするまでぎりぎり到達できる時間帯であり、六種族の連合軍が来る前に勝負を終わらせなければならない。

王国側にジャンヌたちが「聖剣」を所持しているという情報は伝わっておらず、既に連絡は送ってはいるが、一刻も早く腐敗竜を討伐しなければならないのは変わらない。相手は伝説の魔物に対し、聖導教会が派遣できるのは「剛腕のテン」率いるワルキューレ300名だけであり、レノたちも含めたとしても心許ない。



――この世界の「竜種」つまりドラゴンと呼ばれる存在は、数は非常に少ないが長命であり、一匹の若い竜を殺すために数千人の兵士を犠牲にしなければ討伐できないという。


そして、今回の相手は「腐敗竜(ドラゴンゾンビ)」は竜種の中でも特別な存在であり、さらに厄介なことに大きな傷を与えれば呪詛が体内から漏れだして周囲に拡散する。


仮に腐敗竜の心臓部を破壊した場合、周囲数百キロ圏内に呪詛が蔓延し、大勢の生物が死亡してアンデットと変化する。人間だけではなく、動物や植物、果てには昆虫の類まで呪詛に侵され、まさにこの世の地獄と化す事が予測される。



――腐敗竜を最小限の被害で倒す方法はただ一つ、呪詛が拡散する前に「聖剣」で浄化させる事だけなのだ。



ジャンヌ率いるワルキューレ騎士団は転移魔方陣を使用して腐敗竜の住処から比較的に近い村に転移し、事前に用意されていた聖導教会の白馬に乗って移動を開始する。

ちなみにジャンヌを除いたレノ達には移動手段は事前に用意されておらず、彼らだけは街の者達に借りた馬車に乗って移動を行うことになる。出来れば「カラドボルグ」を所持しているレノもジャンヌと同様に同させたいが、ゴーレム・キングを倒した際の彼の疲労具合を思いだし、恩人である彼に負担を負わせないため、ジャンヌは自らの力だけで決着を付けるつもりだった。




――しかし、同時刻に腐敗竜の方にも異変が起きていた。




「――グォオオオオオッ……」


周囲一体が枯れ木に覆われた村に一匹の巨大な竜が身体を休ませている。その竜の傍には1メートル弱の大きな「卵」が無数に並んでおり、まるで地面から栄養を奪うように脈動する音まで聞こえる。

嘗ては村の周囲は美しい緑の自然に覆われていたが、既に森林は枯れ果て、全ての木々は葉を散らしており、地面すらも罅割れている。さらには竜の全身から腐敗臭が充満しており、既に生息していた動物や魔物も死に絶え、竜の餌と化す。


「グルルルッ……」


腐敗した肉体でありながら、竜は自分の前に放置している動物の死骸を咀嚼し、栄養を溜めこむ。この竜こそが世界を何度も絶滅の危機に陥れた伝説の「腐敗竜」である。既に数多くの卵を生み出したお蔭で体力を使い果たしており、腐敗竜は疲労していた。だが、十分な休息とこの腐り果てた大地のお蔭で少しずつ力を取り戻している。


「クゴォオオオオッ……」


バサァアアッ!!


所々穴が破れた羽根を広げ、それだけで周囲に風が吹き荒れる。腐敗竜の体長は10メートルを軽く超え、これまでの歴史上でも出現した個体の中でも一番の巨体だった。


「グァアアアアアアアッ……!!」


欠伸をするようにドラゴンゾンビは大きく口を広げ、そのまま睡眠を取ろうと地面に倒れこもうとした時、


「……あ~……くっさい、くっさい」
「グルッ……!?」


何時の間にか腐敗竜の前には漆黒のフードを纏った何者かが建っており、腐敗竜は大きく瞼を見開く。


「これが伝説の竜ねえ……ただの腐った竜じゃねえか」
「グロロロッ……!!」


腐敗竜は身体を起き上げ、目の前の得体のしれない敵を相手に警戒行動を取る。だが、相手はフードの上から鼻を抑える動作を行い、


「マドカの姉貴も面倒な事を……いや、兄貴か?まあいい……こいつを埋め込めればいいんだな」


何者かブツブツと呟きながら懐から「黒色の魔石」を取り出し、腐敗竜に向けて放り投げる。


「グロッ!?」


バクッ!!


腐敗竜は咄嗟に放り込まれた魔石を飲み込み、そのまま体内に吸収する。フードの人物はそれを確認し、溜息を吐く。


「あの死霊使いのジジイ……こんな事に俺を使い走りにしやがって……あ~あ、下っ端は辛いねぇっ……」
「グロォオオオオオッ!!」



ズガァアアアアッ!!



変な物を喰わされたとばかりに激昂した腐敗竜は大きく腕を振り上げ、漆黒のフードの人物に目掛けて振り落すが、腕を上げるとそこには確かに先ほどまで存在したはずのフードの男の姿が消えていた。


「グロッ……!?」
「はっ……当たらなけりゃ意味はねえっすよ」
「グォオオオッ……!?」


何時のまにか腐敗竜から離れた枯れ木の上に立っており、美しい水晶を想像させる魔道具を手にしている。


「役目は終わったし……帰るとしますかね」
「グロロロロロッ!!」


ビュンッ!!


腐敗竜は尻尾を振り上げ、枯れ木に向けて放つが、彼は懐から水晶のような物を取り出し、


「転移」


ブンッ――!!


バキィイイイッ!!


「グロォッ!?」


尻尾が枯れ木を貫く前に何者かの姿が掻き消え、直後に異変が起きる。


ボコボコッ……!!


「グロォッ……!?」


腐敗竜の身体が膨れ上がり、徐々にその肉体が大きく変化していく――
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