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漁火

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次の日曜日、美菜は期待と緊張で破裂しそうな胸を抑えながら、学校に向かった。

こっそり秘密の練習をしてみんなを驚かせたい、と嘘をついて、待ち合わせは体育館の裏にした。もちろん、人目に付かない為だ。冴子が習字教室が終わった後が良いと、夕方を希望した事も、摩耶にとっては好都合だった。

摩耶が縄跳びを持って体育館の裏に回ると、冴子は先に来ていた。
彼女は、赤い短パンに白いセーターに紺のハイソックスという格好だった。縄跳びをする為、動きやすい服装にしたのだろうが、短パンから覗く細い足が、早くも摩耶を刺激してしまっていた。
摩耶は、そんな心の内を冴子に悟られない様に気持ちを抑えながら、声をかけた。

「サエちゃん、今日はよろしくねっ!」

摩耶と冴子は早速練習を始めた。暗くなるまでに、さほど時間は残っていなかった。
冴子は一通り跳び終えると、摩耶に近寄ってきてアドバイスを始めた。

間近で見る冴子は、やはり綺麗だった。手足は、蹴れば折れてしまいそうに細い。
そして、摩耶の中で例の力が囁き始めた。

「サエちゃんをイジメちゃえ。。イタイ事しちゃえ。。」

〝ダ、ダメ!〝

摩耶はその声に逆らった。

〝サエちゃんを、こんな良い子をイジメるなんて私には出来ない!〝

悪魔の囁きに必死で抵抗する摩耶の良心。その激しい心の戦いに、摩耶の幼い体は悲鳴を上げ始めた。締め付けるような胸の苦しさ。。

摩耶はついに耐えかねて泣き出してしまった。嗚咽が止まらない。

冴子は、急に泣き出した摩耶に驚いて側にやってくると、腰を屈めて摩耶の顔を下から覗き込んだ。

「マヤちゃん、どうしたの?大丈夫?」
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