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奈緒美は、浴槽にぐったりと倒れ込んだ。太股の痛みはかなり落ち着いたが、起き上がる力は残っていなかった。

息を弾ませながら、奈緒美は先程頭の中に見えた、小さな亀裂から見える光の事を思い返していた。

あれは一体。。

実は、あの光が見えたのは、今回が初めてではなかった。
足に苦痛を味わい、それが我慢の限界に近ずき、痛さのあまり頭の中が真っ暗になると、決まって現れるのだ。

だが、いつも痛みが退くのに合わせて、亀裂が閉じてしまう。

あの裂け目から漏れる光は何なのだろう?
あの裂け目の向こうには何があるのだろう?

奈緒美には、いつも以上に、あの亀裂の向こう側を覗きたいという衝動が高まっていた。

どうすれば、あの裂け目が大きく開くのか。。
その答えは、この日明白になった。


もっと。。
もっと、我慢の限界を越える様な痛みを味わえば、きっと裂け目が開くに違いない。

奈緒美は、浴室の天井を眺めながら、確信した。

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