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輝美は、A3の右のドアにゆっくりと手をかけた。そして一気に取っ手を引っ張った。ロックはされていなかったが、ドアが開くとけたたましい音で洋楽が聞こえてきた。中には誰もいない。
輝美は、運転席のシートに片手を突いて中に手を伸ばすと、カーステレオのスイッチを切った。

そして輝美が起き上がろうとすると、いきなり何者かがドアを思い切り閉めた。

ドアに両足を思い切り挟まれた輝美は、悲鳴を上げながら、シートに倒れ込んだ。

輝美の両足に激痛が走る。

しまった!

自分の迂闊さを呪う輝美。だが、後悔しても遅かった。彼女を挟んでいるドアは、何かで固定されたらしく、ビクともしない。

輝美はシートの上に倒れたまま、空しく両手をバタつかせた。突如襲いかかった、ただならぬ状況に、輝美の怒りは次第に影を潜め、代わりに恐怖が心を支配し始めた。

自分はどうなるのだろう。

だが、輝美はまだ冷静な思考を失ってはいなかった。

そうだ!携帯で応援を呼べば。

輝美は右手をスカートのポケットに伸ばした。手を入れるとすぐに指に堅い物が触れた。

彼女はすかさず携帯を取り出した。落ち着け、落ち着け、と自分に言い聞かせながら、メモリに登録されている署のアドレスを呼び出す。

だが、夢中で携帯を操作している輝美は、自分の背後の窓が、静かに開き始めた事に気づいていなかった。

そして、画面に交通課の直通番号が表示され、発信ボタンを押そうとした輝美は、いきなり背後から携帯を持つ右腕を掴まれ、物凄い力で背中の上に捻じ曲げられた。

「きゃあああぁぁ~っ、い、痛いいぃぃぃ~っ!」

右腕が折れる程の痛みと恐怖に、悲痛な叫びを上げる輝美。きつく背中の上で捻られている右手からは握力が急速に消え失せ、輝美の携帯はシートの下に転げ落ちていった。

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