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美の伝道師

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○月○日○曜日
銀座 ウエノ ユカリ ビューティクリニック本社役員室


「社長、お呼びでございますか。」

その日、専務の高田が社長室に呼び出されたのは、深夜遅くの事だった。

高田が一礼して社長室に入ると、社長の上野由香理が、奥のソファに腰掛けているのが目に入った。

「ご苦労様。遅くに悪いわね。」

「とんでもございません。」

高田は、恭しく再度頭を下げた。

由香理は高田を見上げると、手にしていた写真週刊誌を彼の方に差し出した。

「どう思う?この記事。」

高田はその週刊誌を受け取った。
そのページには講演会で熱弁を奮う由香理の写真が掲載されていた。

ああこれか。。

高田は既にこの記事を読んでいた。そこには、今や社会現象となった゛ジャッジ゛に関する話題が載せられていた。


゛美の伝道師、ジャッジのお目に叶わず?!゛

という見出しで始まるその内容は、ウエノ ユカリビューティクリニックに対する皮肉めいたものだった。

「はい。。」

高田は由香理の方に顔を向けた。
「エステ界で実質1人勝ちしている我が社ですから、やっかみや誹謗中傷はある程度やむを得ないと思いますが、それにしてもこの記事は酷いですね。うちの会員から1人も犠牲者が出ていない理由が、我が社のエステが効果がないからだ、なんて。。」

「そうね。確かに酷い話だわ。そもそも、゛美女のシリアルナンバー゛を世論が指示し始めてるところに問題があるんだけどね。でも。。」

由香理はソファから立ち上がると、高田の前を通って窓際に歩いていった。

「いずれにしても、このまま放っておく事はできないわ。うちのイメージダウンに繋がる要素は全て排除しないと。今までもそうしてきたのだから。」

高田は、窓から眼下の夜景を見つめる由香理を見た。

美しい横顔だった。
由香理がこの会社を立ち上げて、もう10年以上経つが、彼女の美貌は創業当時から少しも色褪せる事はなかった。いや、30代半ばを迎えてますます大人の魅力を備えた由香理の美しさは、今でも確実に進化し続けている。
まさに美の伝道師だ。

由香理は、高田の方を振り返ると、ゆっくりと近づいてきた。

「うちの会員の子から、特に選りすぐりの子を2~3人、極秘にセレクトしてくれるかしら?最近入会したモデルの子も何人かいたわよね。」

「はい。それは構いませんが。。CMですか?」

高田が訊ねると、由香理は腕を組んで厳しい表情で答えた。

「そう。。CMよ。とびきりの。。セレクトした子達には、説得して足に焼き印を押させるの。」
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