夢追い旅

夢人

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新しい流れ

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 突然、舅の取締役からメールが入り、横浜のM商事の支社の支社長室に朝一番に来るように連絡が入った。横浜は、前の社長の相談役の部屋があるところで、今更ここを日参する取締役はいない。彼は会長のポジションも与えられず、そのまま取締役でもない相談役に閉じ込められた。ただ、彼が完全に葬られなかったのは、創業者一族の一人で、一定の株式数をバックに持っていたと言われる。
「鈴木です」
 受付に伝えると、支社長室ではなく相談役室に通された。
「わざわざ悪い」
 取締役が、相談役と並んでソファにかけている。
 こういう時は、黙って成り行きを見るのが賢い。
「君とは初めてだな。墓守のような役だからな」
 相談役から口を開いた。
「昔は、君の舅に上手く罠をかけられた。私の周りにましな男はいなかったんだ。銀座のママが・・・いまさら言っても始まらないな」
「不思議に思っている?」
 昔のような野獣の目を舅はしている。
「どこまで調べた?」
「国崎さんのご存じの話ですか?」
「彼もまだ決心がつかないでいる」
「私にはまだ呑み込めないんです」
「それはそうだ」
 舅がゲラ原稿をテーブルに置く。
 目が活字を追っている。例の赤坂プロジェクトを書いている経済誌ではない。どちらかというと暴露記事の好きな業界誌である。
「国税が赤坂プロジェクトを脱税として目を付けた」
「得意の仕掛けじゃないのですね?」
「残念ながら、会長も無理をし過ぎた」
「ということは、社長派に?」
「会長派も社長派もない。土台の会社が危ない」
 でも、舅はここでも綱渡りをしようとしている。
「会長は藤尾に何か知られている。だから、あんな芝居を打った。国崎さんに情報を知られまいとして、私に轟との繋ぎを依頼した。私もその時は、さしたることではないと深い詮索もしなかった」
 いや、柳沢の女に夢中になっていたのだ。
「今答えは求めない。この記事が出たらもう一度話し合おう」





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