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第15話 俺、勇者の師匠になる

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「ん……んぁ、ここは?」

 どうやら、勇者が目覚めた様だ。

「おはようさん! 頭大丈夫か? いきなりぶっ倒れるから、ビビったぞ」
「おのれ! 悪魔め! 不意打ちを狙うとは卑怯な!」

 勇者は飛び起きると剣を抜刀し、俺を斬りつけようとしてきた為、騒ぎ立てる勇者を羽交い締めにする。

「お前いい加減にしろよ!? 違うって何度も言ってるだろうが! 殺せたらとっくに殺してるわ!」
「では、本当に彼処で寝ていただけ?」
「あ……ああ、そうだよ。ちょっとした用事があったんだ。」

 勇者の顔色がみるみる青くなっていった。

「ごめんなさい! 僕、あなたの事を散々、悪魔と貶したばかりか斬りつけようと……」
「いや、全然なんともなかったし別にいいよ。わかってくれたなら」

 そう俺が言うと突然ベッドから飛び出し、そのまま俺に向かって土下座をする勇者。

「お願いします! どうか、僕の旅に同行して頂けないでしょうか!? 僕はあなたの様に強くならなくてはいけないんです!」
「は? 俺が勇者に同行!?」
(えっマジかぁ。どうしたもんかなぁ。ん? 待てよ? これって勇者をこっちへ引き込めるんじゃないか? 勇者の反応を見るに何も知らない様だ)

 素顔が見えないのを良いことに俺は漆黒の笑みを浮かべる。
 あの真っ白ミラーボールめ、俺はお前の思った通りに動くと思ったらそうは問屋がおろさんぞ。見てろよ見てろよ~、勇者を超絶強化して逆にけしかけてくれるわ。なんならこいつと共闘も良いかも知れんな。まさに俺は今ハガセン時代にけるifを体感している訳か――。フフフ……否が応でもテンション上がるな。神をほふらんとする奇跡のカーニバル開幕だ。

「仕方ないなぁ! じゃ、同行してあげましょう! 君はまだ、弱いからね! 俺が君を俺並みの強者にしてあげよう!」

 勇者の顔はパァーと明るくなる。

「よろしくお願いします! お師匠様!」
「うむ! 苦しゅうない! さ、じゃあ出るか」
「わかりました!」

 弟子となったと共に部屋を退出し、階段を降りギルドを彼と出ようと扉に手を掛けた所で、俺は肩を掴まれた。

「おい、待て! まだお前にイシスの件の報酬渡してないだろうが!」
「ああ、忘れてた。んで、報酬って何くれるの?」

 ヴァルガスが俺に黒いカードを手渡してくる。

「お前専用のギルドカードだ。黒い色はランク制限が一切ない証拠だ。なくすなよ?」
「そっか、色々ありがとうな。明日この街を発つ事にした」
「ふーん、どこ行くんだ?」

 隣にいる勇者が答える。

「港町のクルードへ、お師匠様も僕の旅に同行して貰う事になりました!」

 興味なさげにヴァルガスは頷いた。

「お前なら勇者の旅にもついていけるだろ。まぁ、精々死なん事だな」

 俺と勇者はギルドを出ると外はすっかり暗くなっていた。
 勇者を見ると目をキラキラさせて俺を見ている。

「お師匠様! やはりお師匠様は只者ではないのですね!? ランク制限解除のギルドカードなど初めて見ました!」
「まぁ、とりあえず明日の朝、ここで待ち合わせって事で。もう今日は、遅いからな」

 俺は勇者と別れるとホームを起動させ、自室へ入りアドレスを使いイシスさんを呼び出す。

「もしもし? 勇者どうなったの?」

 やはり勇者の事が気になってる様だ。

「ああ、その事なんだけど、俺勇者の旅に同行する事になった」
「……はぁ!? 同行してどうすんのよ! 何考えてんの!?」

 半狂乱になっているイシスを鎮めるために、俺は勇者に同行する理由を説明する。

「落ち着けって。あの勇者はな、恐らく球体が俺達を倒す為にこの世界へ呼び出したか作り出した存在だ。あいつは何も知らなかった。味方に引き込んで育てれば、絶対に戦力になると思ったんだ」
「ほんとに上手くいくの?」
「お前、俺を誰だと思ってんだ? 廃人ぞ? 我、廃人ぞ?」

 ブツという音が聞こえ、通信を切られた。

◆◆◆◆

 宇宙空間の様な場所で、白い球体がボードの様な物を覗いていた

「ハハッ、まさか試しに送り出してどうなるかと思えば、勇者を弟子にするとはね。本当に面白い人間だなぁ。この先どうなるか全く予想つかないよ。これだから、人間を観察するのはやめられないね」

 白い球体の不気味な笑い声が空間に響き続けた。
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