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第16話 俺、勇者とお話する
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翌朝、6時くらいにホームを出た俺は、待ち合わせのギルド前へ向う。
外は既に市場の人々が客を呼び込もうと張り切る声が聞こえる。
「よ! おはようさん、随分早いな」
勇者がギルド前で俺を待っていた。
「お師匠様! 今日からよろしくお願いします!」
勇者が元気よく俺に挨拶を返してくる。
「港町のクルードヘ行き、船に乗って魔法大国ルギームへ行きます。そこに次の悪魔の反応があるようなんです」
「悪魔の反応? そんなものがわかるのか? 今更で悪いんだけど、名前教えてくれる?」
「はい! 僕のパッシブスキル? ってスキルみたいです。 僕の名前はアーサー・クレイドルって言います! 改めてお師匠様! よろしくお願いします!」
「アーサー……ねぇ。それとパッシブスキルとスキルは別物なんだけど……。まぁ、いいや」
やはり、思った通りハガセンの勇者と同名であった。
俺は、更に突っ込んだ質問をしてみる事にした。
「出身は? どうやって勇者になった?」
「出身はこの大陸ではなく第3大陸の王都出身で、ある朝神様から啓示を受け勇者になれました! 誠心誠意! 人々を守る為、頑張りたいです!」
アーサーの自己PRを聞きながら俺は衝撃を受けた。
ハガセンの設定と違っていたのだ。
名前こそ同じだが第3大陸、王都、神からの啓示、この様な設定はなかった記憶がある。
俺は平静を装い最後の質問をする。
「そ……そうか、頑張ろうな……。これで最後の質問にするな? お前地図とか一切持ってない様に見えるんだけど、どうして道知ってるの?」
アーサーは俺の質問にドヤ顔をしつつ口を開いた。
「神の啓示を受けた時に千里眼とテレパスのスキルを授かり、この全大陸の地理が頭の中へ入ってきました! そのお陰です!」
俺はアーサーの答えに寒気を感じる。
やはりあの球体はアーサーを使い、俺を監視していたのだ。設定も恐らく作り変えたか、挿げ替えられた記憶だろう。早急に何とかしなければならない。
「アーサー、差し支え無ければ鑑定スキル使ってお前のステータス見てもいいか?」
アーサーは俺の問いに即答えた。
「勿論です、どうぞ!」
俺は鑑定スキルを起動させると、アーサーのレベルやスキル諸々が脳裏に浮かぶ
俺はアーサーのスキルを覗いていくと、最後に見え覚えのない欄が最後にあり首を傾げる。
なんだ? 一切閲覧出来ない欄が一つだけある。 それに、この全大陸地理完全理解ってのも初めて見る。つーか、思った通り雑魚いなぁ。何だこのステの低さは? ハガセンの初期ステでもこんなのよりよっぽど高かったぞ。今の今まで良く死なずに生きてこれたな……。
首を傾げているとアーサーが不安な顔をし、俺を見上げていた。
「な、何か、僕のスキルにおかしな点でもあったんでしょうか?」
「いや、大丈夫だ。しかし、まだまだだな。これから俺が強くしてやるからな。う~ん、千里眼とテレパスだが、恐らくお前には使いこなせないだろうと思う。俺がもっと良いスキルをお前にやろう」
よし、我ながらナイスフォロー。疑いをかけることなくヤバメのスキルを消す方向へ持っていけたぞ。
アーサーは一瞬、困惑したみたいだが『もっと良いスキル』という俺の台詞が聞こえた事で二ヘラ顔になった。
何てわかりやすい奴なんだ。絶対嘘つかない、いやつけないタイプだな間違いない。
俺は一度立ち止まり、アーサーの額に手を当てるとスキル譲渡の為にギフトを起動させ、上書きを開始した。
まず『千里眼』を『限界突破』へ変更し、次に『テレパス』を『超感覚』に変更する。
「よし、終わったぞ」
俺はアーサーの額から手を離し様子を見る。
「どうやら何ともないみたいだな」
「お師匠様! きっと、つかいこなしてみせます!」
「よっしゃ! じゃ、クルードへ向かうとしよう」
俺がアーサーと再び歩き出そうとしたその時、向こうから剣士風の女性が息を切らし、こちらへ走ってくる。
「お願いします! 助けて下さい!」
女性は金髪の髪を三つ編みにし、胸部と腰、を重点的に守る為の軽装甲冑を身に着けている。
顔からして、恐らくまだ10代そこそこの小娘といった感じだ。彼女はアーサーにすがりついている。
「どうしたんですか!? 一体何が!?」
「酒に酔った男に無理やりちょっかい出されて困ってるんです!」
「任せて下さい! 僕が退治してみせます!」
アーサーが気合いを入れていると、再び向こうから身の丈2メートルを超す大男が走ってくるのが見えた。オーソドックスなフルプレートの甲冑に身を包み、大男の背中には身の丈と同じ位のデカさを誇る大剣が背負われている。
男は無言で大剣を掴むと、アーサーに向かって振り上げる。
「お、お前なんて怖くないぞ! お、お姉さん離して下さい! 危ないですよ!」
アーサーのレベルでは力負け不可避だな。しゃーない、助けてやるか。
俺はアーサーと大男の間に割って入ると、男が今しがた振りかぶった大剣の無骨な刃先を、人差し指と親指で受け止める。
「何だてめぇは? いきなり出てきてこんな鉄塊振り回そうってのか? あ?」
「ッ!?」
「――う、嘘だろ!? グイルノの熊殺しの大剣をたった2本の指で、草でも摘むかの様に受け止めるなんて――」
「あれ? アンタ等知り合いなの?」
「クソッ! 寄越せ!」
アーサーにすがりついていた女はアーサーの腰に付いていた剣を鞘ごと外すと、姿がかき消え大男の側に再び現れた。
「あーッ!? お母様から頂いた剣がー!?」
女の手にはアーサーが装備していた、無駄に装飾された派手な剣が握られている。
「ふん! 私達が大盗賊団アルーシャ一家とよく見抜いたね!?」
「いや、何も言ってねぇし。あんたが勝手にバラしただけだし」
「見抜いた褒美としてこの剣は貰っていくよ!」
「いや、だからあんたが勝手に――」
「やれ! グイルノ!!」
「ッ!!」
女と大男の足に白い魔法陣が現れ、2人の姿は消え去った。
「何だったんだ……? 今のは?」
「ぼぼ、僕の剣ーッ!!」
アーサーは目に涙を浮かべ、俺の肩を揺らす。
「あれはお母様から勇者になった記念にもらった剣なんですー! 取り返しに行きましょう!」
「あれディメンションワープだろ? どこに行くか完全ランダムなんだよなぁ。今から追っても見当もつかんぞ? それに俺はこの国に来たばっかで、地理も疎いし……」
「そ、そんなぁ……」
アーサーはその場に尻もちをついてしまった。
やべ、せっかく旅を開始したって所なのに、やっぱやめますとか言われたら困る。代替案をだすか。
「そ、そう気を落とすなって! 俺が代わりの剣やるから!」
「で、でも……」
「お前の持ってた剣より100万倍強い剣なのになー。クルードへ着いたらあげても良いんだけどなぁ~」
尻もちを付いていたアーサーが速攻で立ち上がった。
「本当ですか!?」
「え? お、おう……」
「いざ、ゆかん! クルードへ!」
「切り替えはや過ぎィ! お、おいコラ! 勝手に走り出すなー!」
俺は走り出したアーサーに追従するのだった。
外は既に市場の人々が客を呼び込もうと張り切る声が聞こえる。
「よ! おはようさん、随分早いな」
勇者がギルド前で俺を待っていた。
「お師匠様! 今日からよろしくお願いします!」
勇者が元気よく俺に挨拶を返してくる。
「港町のクルードヘ行き、船に乗って魔法大国ルギームへ行きます。そこに次の悪魔の反応があるようなんです」
「悪魔の反応? そんなものがわかるのか? 今更で悪いんだけど、名前教えてくれる?」
「はい! 僕のパッシブスキル? ってスキルみたいです。 僕の名前はアーサー・クレイドルって言います! 改めてお師匠様! よろしくお願いします!」
「アーサー……ねぇ。それとパッシブスキルとスキルは別物なんだけど……。まぁ、いいや」
やはり、思った通りハガセンの勇者と同名であった。
俺は、更に突っ込んだ質問をしてみる事にした。
「出身は? どうやって勇者になった?」
「出身はこの大陸ではなく第3大陸の王都出身で、ある朝神様から啓示を受け勇者になれました! 誠心誠意! 人々を守る為、頑張りたいです!」
アーサーの自己PRを聞きながら俺は衝撃を受けた。
ハガセンの設定と違っていたのだ。
名前こそ同じだが第3大陸、王都、神からの啓示、この様な設定はなかった記憶がある。
俺は平静を装い最後の質問をする。
「そ……そうか、頑張ろうな……。これで最後の質問にするな? お前地図とか一切持ってない様に見えるんだけど、どうして道知ってるの?」
アーサーは俺の質問にドヤ顔をしつつ口を開いた。
「神の啓示を受けた時に千里眼とテレパスのスキルを授かり、この全大陸の地理が頭の中へ入ってきました! そのお陰です!」
俺はアーサーの答えに寒気を感じる。
やはりあの球体はアーサーを使い、俺を監視していたのだ。設定も恐らく作り変えたか、挿げ替えられた記憶だろう。早急に何とかしなければならない。
「アーサー、差し支え無ければ鑑定スキル使ってお前のステータス見てもいいか?」
アーサーは俺の問いに即答えた。
「勿論です、どうぞ!」
俺は鑑定スキルを起動させると、アーサーのレベルやスキル諸々が脳裏に浮かぶ
俺はアーサーのスキルを覗いていくと、最後に見え覚えのない欄が最後にあり首を傾げる。
なんだ? 一切閲覧出来ない欄が一つだけある。 それに、この全大陸地理完全理解ってのも初めて見る。つーか、思った通り雑魚いなぁ。何だこのステの低さは? ハガセンの初期ステでもこんなのよりよっぽど高かったぞ。今の今まで良く死なずに生きてこれたな……。
首を傾げているとアーサーが不安な顔をし、俺を見上げていた。
「な、何か、僕のスキルにおかしな点でもあったんでしょうか?」
「いや、大丈夫だ。しかし、まだまだだな。これから俺が強くしてやるからな。う~ん、千里眼とテレパスだが、恐らくお前には使いこなせないだろうと思う。俺がもっと良いスキルをお前にやろう」
よし、我ながらナイスフォロー。疑いをかけることなくヤバメのスキルを消す方向へ持っていけたぞ。
アーサーは一瞬、困惑したみたいだが『もっと良いスキル』という俺の台詞が聞こえた事で二ヘラ顔になった。
何てわかりやすい奴なんだ。絶対嘘つかない、いやつけないタイプだな間違いない。
俺は一度立ち止まり、アーサーの額に手を当てるとスキル譲渡の為にギフトを起動させ、上書きを開始した。
まず『千里眼』を『限界突破』へ変更し、次に『テレパス』を『超感覚』に変更する。
「よし、終わったぞ」
俺はアーサーの額から手を離し様子を見る。
「どうやら何ともないみたいだな」
「お師匠様! きっと、つかいこなしてみせます!」
「よっしゃ! じゃ、クルードへ向かうとしよう」
俺がアーサーと再び歩き出そうとしたその時、向こうから剣士風の女性が息を切らし、こちらへ走ってくる。
「お願いします! 助けて下さい!」
女性は金髪の髪を三つ編みにし、胸部と腰、を重点的に守る為の軽装甲冑を身に着けている。
顔からして、恐らくまだ10代そこそこの小娘といった感じだ。彼女はアーサーにすがりついている。
「どうしたんですか!? 一体何が!?」
「酒に酔った男に無理やりちょっかい出されて困ってるんです!」
「任せて下さい! 僕が退治してみせます!」
アーサーが気合いを入れていると、再び向こうから身の丈2メートルを超す大男が走ってくるのが見えた。オーソドックスなフルプレートの甲冑に身を包み、大男の背中には身の丈と同じ位のデカさを誇る大剣が背負われている。
男は無言で大剣を掴むと、アーサーに向かって振り上げる。
「お、お前なんて怖くないぞ! お、お姉さん離して下さい! 危ないですよ!」
アーサーのレベルでは力負け不可避だな。しゃーない、助けてやるか。
俺はアーサーと大男の間に割って入ると、男が今しがた振りかぶった大剣の無骨な刃先を、人差し指と親指で受け止める。
「何だてめぇは? いきなり出てきてこんな鉄塊振り回そうってのか? あ?」
「ッ!?」
「――う、嘘だろ!? グイルノの熊殺しの大剣をたった2本の指で、草でも摘むかの様に受け止めるなんて――」
「あれ? アンタ等知り合いなの?」
「クソッ! 寄越せ!」
アーサーにすがりついていた女はアーサーの腰に付いていた剣を鞘ごと外すと、姿がかき消え大男の側に再び現れた。
「あーッ!? お母様から頂いた剣がー!?」
女の手にはアーサーが装備していた、無駄に装飾された派手な剣が握られている。
「ふん! 私達が大盗賊団アルーシャ一家とよく見抜いたね!?」
「いや、何も言ってねぇし。あんたが勝手にバラしただけだし」
「見抜いた褒美としてこの剣は貰っていくよ!」
「いや、だからあんたが勝手に――」
「やれ! グイルノ!!」
「ッ!!」
女と大男の足に白い魔法陣が現れ、2人の姿は消え去った。
「何だったんだ……? 今のは?」
「ぼぼ、僕の剣ーッ!!」
アーサーは目に涙を浮かべ、俺の肩を揺らす。
「あれはお母様から勇者になった記念にもらった剣なんですー! 取り返しに行きましょう!」
「あれディメンションワープだろ? どこに行くか完全ランダムなんだよなぁ。今から追っても見当もつかんぞ? それに俺はこの国に来たばっかで、地理も疎いし……」
「そ、そんなぁ……」
アーサーはその場に尻もちをついてしまった。
やべ、せっかく旅を開始したって所なのに、やっぱやめますとか言われたら困る。代替案をだすか。
「そ、そう気を落とすなって! 俺が代わりの剣やるから!」
「で、でも……」
「お前の持ってた剣より100万倍強い剣なのになー。クルードへ着いたらあげても良いんだけどなぁ~」
尻もちを付いていたアーサーが速攻で立ち上がった。
「本当ですか!?」
「え? お、おう……」
「いざ、ゆかん! クルードへ!」
「切り替えはや過ぎィ! お、おいコラ! 勝手に走り出すなー!」
俺は走り出したアーサーに追従するのだった。
応援ありがとうございます!
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