種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

アグネス廃坑

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特に何事もなく酒場の営業時間まで働き終えると、レノは炭鉱で住み込みで働いているゴンゾウを迎えに行く。転移魔方陣を使用してゴンゾウを迎えると、アルトが持ってきた依頼の事を彼に伝える。


「……アグネス炭鉱?」
「うん……何か知ってる?」
「……親方から、聞いたことある。昔はよく「金剛石」が取れたらしい。だけど、掘り尽くしてもう何も残っていない、と聞いた」
「金剛石……」


この世界の金剛石とは「ダイヤモンド」ではなく、途轍もない硬度を誇る鉱石である。加工を行えば巨人族が愛用する頑丈で重量のある武器が製造可能であり、それなりに希少品のため、高価に取り扱われている。


「そこの廃坑の位置は知ってる?」
「……俺が今働いている鉱山の、隣の隣」
「近いのか遠いのか……それなら頑張れば一日でたどり着けるかな」
「わふっ!!なら、明日の朝に皆で行きましょう!!」
「あ~……悪いけど今回はあたし達は手伝わないよ。冷たい事を言うようだけど、あんまり王国とは関わりたくないからね……」
「今が稼ぎ時っすからね」
「……仕方ない」



――近々、闘人都市の間では剣乱武闘を再会されるという話が持ち切りであり、実際に破壊された闘技場の修復が終了し、警備の面も大幅に強化されている。前回は勇者に変わる新戦力を引き込むために王国主催で行われたが、今回は六種族が均等に資金を提供し、腐敗竜やバジリスクのような強大な相手が再度現れたときに対処するために大陸中の実力者を集める。


但し、今回は王国が主催という訳ではなく、あくまでも六種族の協力の下で開催される事が宣言されているため、参加者の引き抜きは早い者勝ちになる。また、今回の優勝賞品は金銭の類だけではなく、各種族の秘宝を差し出す形となった。


バジリスクの一件で森人族は責任を問い質されたが、彼らはあくまでも深淵の森を領地としていたムメイ(族長の本名)の責任であると宣言し、仮に彼女が救いを求めようと森人族の代表であるレフィーアは一切協力しない事を宣言する。

今までの傾向からセンチュリオンが各地に封印されている最大警戒レベルの「危険種」を呼び起こし、混乱を招き起こしている節があるのは確かであり、彼等の目的は分からないが次の狙いは「聖導教会」そして「闘人都市」であるのは間違いなく、この二つは重点的に警戒が強められていた。

聖導教会を強襲した理由は未だに分からないが、明らかに危険を犯してまで聖導教会総本部に侵入し、さらには聖堂を襲った理由が気ががりではが、主犯であるカトレアは既にジャンヌの手に浄化されたため、結局は理由までは掴めなかった。



「剣乱武闘の再開か……どんな大会だったけ?」
「あんたは途中で抜け出したからね。参加証は高く売れたよ」
「人の物を勝手に……まあ、別にいいけど」
「大会期間中しか価値が無いんだよ?売り払うしかないだろうし……一応は参加受付のギリギリまで待ったんだけどね。ちなみに獅子型の魔人族に金貨3枚で売れたよ」
「確か、ライオネル?ていう人だったっす」


剣乱武闘に参加するには特別な「参加証」が必要であり、大会参加希望の者には喉から手が出るほどに求める代物である。場合によっては大会前に価値が数十倍まで引きあがり、大会に興味が無くても参加証を大量に買い取り、剣乱武闘出場の目的の一般冒険者や騎士や兵士を狙い、彼らに元の値段の数十倍の値段で売り払う輩も多く、偽物の参加証までも出回っている。

だが、最近になって参加証の偽装も難しくなり、騙される者も減少する。その一方で参加証を賭け事の対象として取り扱う闇ギルドも多く、以前にレノも参加したことがある地下闘技場が良い例である。


「大会ですか……私も参加したいです!!」
「俺も……家族の仕送りのために参加したい」


今回は六種族側からそれぞれが優勝賞品を提供しており、6つの豪華な賞品が確定されている。下手に安価な賞品を出せば種族の恥を晒すため、賞品自体は大きく期待できる。


「……レノは参加しないの?」
「俺が出たらナナがうるさい」


前々からレミアの身体に眠る「ナナ」から下手な動きはしない様に注意されており、レノの行動次第で全世界のハーフエルフの扱いに影響が生じると何度も警告されている。そのため、前回の聖導教会で2人の勇者とカトレア(正確に言えば戦闘不能)を撃破した功績を上げたレノではあるが、今回の件は世間には知らされていない。

但し、あくまでも世間には情報が行き届いていないだけなので一部の重要人たちには彼の行動は伝えられている。バルトロス国王もこれを知っており、彼に今回の功績を祝って新しい勲章を与えてくれた(レノとしてはどうでもいいが)。


「身分を詐称すればあんたもいいところまでいけるんじゃないかい?もしかしたら、魔術部門なら一番を取れるかもしれないよ」
「そんな危険な真似出来るか……」
「……女の子の状態ならばれないかも」
「ああ、なるほど……って、それだと魔法使えないだろ」


ソフィアの状態ならばあまり知られていないため、問題なく出場できるかもしれないがこの状態だと肉弾戦だけが強いられるため、魔術師専門の「魔術部門」には参加できない。



――しばらくの間は雑談を繰り返した後、明日の早朝に出発する事が決まり、ゴンゾウは炭鉱に戻って親方に事情を伝え、仕事を途中で抜け出すのを謝罪し、今まで働いていた分の給金を頂いて酒場に戻る事にする。


それぞれが万全の準備を終え、先にレノが先行してアグネス廃坑に移動し、転移魔方陣でポチ子とゴンゾウを迎え入れる手筈を取る事が決まった。
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