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第24話 俺、宴会

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「リヴァイアサン討伐を祝してカンパーイ!!」

 もう何度目の乾杯コールだろうか、正直おぼえていない。アーサーはガニーとニーピアに挟まれ、ベロンベロンに酔っ払っている。どうやらあの二人は酒豪のようで、まるでジュースでも飲むかの様にグビグビ飲んでいる。不運にも、そんな2人に挟まれ断るという事を知らないであろうアーサーは、早々にリタイアする事となった。

 俺はというと、さっきから飲んでいるのだが酒による酔いも状態異常と判断されるらしく、耐性のせいで一切酔えないでいた。

「う~ん、激しく味気ない。俺も酔いたい」
「あの、ちょっとすいません。ゲイン殿ちょっといいですか?」

 俺が泣き言をボソッと呟いていると、ノイスに呼ばれた為彼に付いていく。外にはエルメンテとノイスが待っていた。

「何だ? 話って? エルメンテもどうした?」
「本当に感謝しています。あとは、エリクサーを作ってくれる、優秀な錬金術師を探すだけです。エルメンテなら知ってるのではと思いまして」
「エリクサーぐらいなら作れるけど?」

 一瞬の静寂がこの場を支配した。

「「えええええええぇえええぇ!?!!?」」

 相当予想外だったのか、エルメンテまで一緒になって叫んでいる。

「失礼な、何だその反応は? さてはお前ら、俺が戦闘狂か何かだと思ってたな?」
「エリクサーの作り方は魔法大国の聖典にのみ記させていると聞きます! 本当なんですか!?」

 何処かで聞いた全く同じ話を、ノイスの口から聞くはめになった。少し気になった為、逆に聞いてみる事にする。
「おうよ。エルメンテも言ってたけど、その聖典って何なんだ?」

 エルメンテが俺を見ながら口を開く。

「――遥か1000年前、小村だったルギームに1人の老人現れり、その老人類まれな知識と力と精神を持つ。老人は大賢者となりて、この全世界にスキルの恩恵を成就される。その恩恵を一心に受し、ルギームは後に繁栄を極め、魔法大国ルギームとなる。ふぅ……」

 エルメンテが悠長に喋り終わると、一息ついて元の口調に戻る。

「大賢者様が持っていた……全てのスキルが載っているとされる写本。それが聖典……って言われてる」

 衝撃の事実をまたも叩きつけられ俺は、思考停止する。

「何……だと……? 間違いなくそいつは……だとしたら辻褄が合う。なるほどな、だからこの世界で他の奴らがスキルが使えるわけか。その大賢者様は今も生きてるのか?」

 エルメンテは俺の質問にコクッ頷いた。

「会う必要があるな。その大賢者とやらに」
「たぶん、無理だと……思う。大賢者様は……いつからかルギームにある……塔に閉じ籠る…ようになった。出てくるのは……大切な行事やお祭りの……時……だけ」
「丁度、次の目的地は魔法大国ルギームだ。エルメンテ、お前が無理だと言っても俺が行けば開けてくれると思う。そんな気がする。たぶん」

 ノイスとエルメンテは顔を見合わせる。

「魔法大国ルギームへ行かれるのですか? その騎士の姿で?」
「うん? その通りだけど何か問題でも?」
「魔法大国ルギーム裏の顔がある……魔法狂いの魔法狂いによる……魔法狂いの為の国……。その……姿で行ったらたぶん迫害を受ける……。そして、私の……大っ嫌いな家族がいる故郷でもある」

 思いもよらぬ事を言われ、俺はこれまた驚愕する。

「何だそりゃ! この格好の何が悪いんだ?」
「あの国は大賢者様の影響を最も色濃く受けた国なのです。その為魔法使いこそが最強だと、魔法使い以外のジョブは皆ゴミだと信じて疑わないらしいのです」
「く、狂ってやがる。なるほどな、魔法狂いの国ね」
「だから、あの国に入る時は必ずローブを羽織るのが常識となっています」
「ローブだって? 俺の外格にローブなんて……いや、一体だけ居たか。でも、あいつかぁ~」

 思わず独り言を愚痴ってしまい、ハッとする俺。

「ローブ持っていないのですか?」
「ゲフンゲフン、い、いやいやあるよ。ありますとも! ところでエリクサーだがどうする? 今すぐ作りに掛かろうか?」

 俺は無理やり話題を変更する。

「今すぐ!? いや、しかし、設備はどうするのです?」
「まぁまぁ、いいからいいから。俺を信じろって。燐を貸してくれ」
「あ、はい……どうぞ」

 俺は燐を受け取り、インベントリからルームキーを取り出すとその場で回す。何もない空間に扉が現れ、俺はノブに手を掛ける。

「悪いけど、この中は俺しか入れないんだ。ちょっとそのまま待っててくれ」
「――ゲイン殿……貴方は一体?」

 俺はドアを押し中へと入っていく。一瞬目の前が光ると既にそこはギルドルームのエントランスだった。

「さて、う~んどの辺りだったかな?」

 俺はインベントリを開き目当ての物を探していると、ずっと沈黙していたネメシスが口を開いた。

「一言宜しいでしょうか? 何故、あの者にそこまでするのですか?それにわざわざ、エリクサーなど差し上げなくともゲイン様にはエクストラヒールがあります。あれならばすぐに元に戻せる筈です」
「うんとなぁ、まず1つ目アーサーのジョブ勇者の調査の為、どうするか考えてた所に、あいつ等が接触してきた。しかも第一声はお強いですよねだぞ? 間違いなくあのダンジョンを攻略中かもしくは、攻略するつもりだったんだろう。アーサーの勇者のジョブも解明出来たし、その恩返しだな。そして、2つ目お前はエクストラヒールをすれば元に戻ると言った。その通りだ。だけどなエクストラヒールにもたった1つだけ治せない状態異常がある」

 ネメシスの真剣な顔が脳裏に浮かぶ。

「あの者の妹は既に亡くなっていると?」
「恐らくな。あの様子じゃ、ずっと大陸中を駆けずり回ってたに違いない。勿論、様子を見に戻ったりもしていないだろう」
「ですが、エリクサーでは死者を蘇らせなおかつ、状態異常を回復などできません。それが可能なのは上位のハイエリクサーだけ。――まさか!」
「そのまさかだ。ノイスにハイエリクサーを渡す」

 ネメシスのいつも鋭い表情が更に鋭くなる。

「本気ですか? ハイエリクサーはゲイン様でも、そこまで所持していなかった筈です」
「良いじゃないか。一応、世話になったし宿屋の飯も奢って貰ったんだから。これはそのお返しでもあるんだよ」

 ネメシスが諦めた様に頭をゆっくりと左右に降っている。

「もう何も言いません。ゲイン様がどうしてもと言うのなら、それに従います」
「お! ツンデレか? 可愛い奴め。」

 カシャンという音と共に目の前が真っ暗になった。

「あのすいません。目にシャッターあるなんて知らなかったんだけど? ネメシスさん、前が見えません。機嫌直して頂けませんか? 冗談です冗談」

 またカシャンと音がし、視界が元に戻った。

「ふぅ、焦った。あ! そういや次の目的地で、ネメシスお前とヤルダバオトⅧ式とは一旦お別れだ」
「心得ております。アルテミスとウルガイスⅥ式ですね」
「そ、そうだ。アルテミスだ。あのアルテミスだ」

 ウルガイスⅥ式とは俺が所持している外格の一体で唯一ローブっぽいものを羽織っている。ノースリーブで鋼鉄の腕がまる出しなのでローブと言っていいのかいささか疑問だが。が、しかし問題はそこではない、ウルガイスⅥ式に搭載されている超高性能AIアルテミスに問題があるのだ。アルテミスの人格は褐色スキンヘッドで、頬にハートマークのタトゥーが彫ってあり、グラサンを掛けたオネェ系なのだ。無駄に渋い声で話す。しかも、ヤルダバオトⅧ式よりも2段階程レアリティが下がるので、全てのステータスが下がり、ヤルダバオトⅧ式のパッシブスキルも全て使えなくなる。
 フルメタラーの強みは強力な外格に身を包む事で、各ステータスアップと外格毎に効果は違うが、パッシブスキルを得られる事だろう。フルメタラーは完全に外格に依存する為、強みであると同時に弱点でもあるのだ。唯一の救いはお喋りな点を除いて、ネメシスと同じくAIとしては優秀で、パッシブスキルも中々使えるという事だろう。ウルガイスⅥ式のパッシブスキルはMP無限と魔法物理耐性のみだが、ほぼカンストになるのと、相手を束縛もしくはそのまま絞め殺す事が可能なスレイプニルと、味方に攻防バフを常時与える事ができる機械兵の思いやりの4つのだ。

「じゃ、ハイエリクサー見つけて、とっとと渡すかね」

 俺はインベントリのソート機能を使い、ハイエリクサーを取り出すとギルドルームを後にする。

「はい、お待たせ。これがハ……ゲフンゲフン、エリクサーだ」

 俺は扉を出てすぐにノイスにハイエリクサーを手渡す。

「これで……ようやく妹を救える。本当にありがとうございます! よし!」

 ノイスは皆と所へと戻ると、大きな声を張り上げ宣言する。

「皆聞いてくれ! かねてからの計画通り僕は今日! 今ここで永劫の探求者の解散を宣言する。長い間、僕のわがままに付き合ってくれて本当に感謝している!」
「そうか、そういやそうだったな! お疲れさん! ノイス!」
「長かったですね。妹さんといつか一緒に飲みたいですわ」
「俺は、どうしようかな。地元に帰って畑でも耕すかな」
「私……もどうしよう……まだ……決めてない」
「どういう事だ? 説明しろ」

 置いてきぼりを喰った為、俺はノイスに説明を求める。

「はい、妹を助けられるその時になったら、解散しようと皆と決めていたんですよ。もう我々はエルメンテとイルゾールを除き、とうに冒険者の適応年齢を過ぎているんですよ」
「そういえばイルゾールとエルメンテは酒飲んでなかったな。お前ら未成年だったのか」
「さぁ、ゲイン殿も一緒に飲みましょう」

 そうして、永劫の探求者の面々とどんちゃん騒ぎをしながら夜は更けていった。
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