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第33話 予選 sideエル

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 魔法陣が収まると、隣にいた筈のゲインの姿がなくなっていた。

(どうやら散り散りになってしまったようだ。ゲインなら心配せずとも大丈夫だろう。問題は私自身だ。目的を達成する為に、なんとしても勝たなければいけない)

 辺りを見回すとどうやら市場のようだ。果物やお肉を売っている屋台が並んでおり、屋台の主人や一般人は道の端で観戦している。声は聞こえないが、私に手を振ってくれている人達が何人か確認できる。壁や建築物を見ると膜の様なものがうっすらと張り付いている様に見える。この膜が被害を未然に防ぐ為の魔障防壁みたいだ。私が10年位前にお試しで魔術大会に出場した時は、安全対策などなかった為、少し新鮮な気分になった。対戦相手の姿は見えない。『いないのか?』そう思った矢先、後ろから不気味な笑い声が複数聞こえた。

「ヒヒッ、おやおやぁ? どうやら、僕は大変運が良いらしい。こんなところで、学友でライバルのエルメンテさんに逢えるなんて」

 私は声のした方へ振り向くと、数人の男達が立っていた。誰だったか? なんとなく見覚えがある様な気がしないでもない。私の名を呼んだ男は黄色い目に少しくすんだブラウンの髪色で、片方の前髪が異様に伸びた優男だ。指でクルクルとその伸びた髪を弄っている。取り巻きだろうか? 後ろに4程人を従えている。魔術学校で一緒になった人だろうか? 私は当時、図書館に引きこもっていたので学友など作った記憶はない。だが、相手は私の事を知ってる様だ。一応聞いてみる事にした。

「ごめん。誰だ……っけ?」
「ぼ、僕を忘れたと? 魔術学校のランキングで順位を争ったこの僕! ティメリントを忘れたと言うのか! 君のせいで万年2位だった。ライバルのこの僕を!?」
「ライ……バル? 私に……ライバルなん……ていない」

 私がそう言うと口をティメリントは口を耳に届くのではないか? という程歪め馬鹿笑いしだした。

「ヒヒッ……ヒヒヒヒヒアハヒヒヒ! 殺す殺す殺す殺す! 絶対に殺す! 僕をコケにした奴は全員死刑だ! 杖も持っていないお前などすぐにあの世行きだ! やれ! お前達! エルメンテを殺せ!」

 ティメリントがそう言うと、後ろに控えていた4人が一斉に私に襲いかかってきた。
 4人ともどうやら剣士の様だ。剣士達の斬撃が私に迫るが、ゲインと比べると凄まじくすっとろい攻撃だ。私は無詠唱でエアリアル・ダイブを詠唱し2メートル程距離をとる。よく見ると剣士達の動きが、おかしい事に気づく。統率が全く取れておらず、剣を引きずりながら近づいてくる。

「な、何!? 何故杖もなしに魔法が使える!? それにその魔法はなんだ!」
「精神操作……系の魔法で操ってい……る?」
「この僕が話かけているんだぞ!! 質問に答えろ!」
「グラビティ・スタンプ」

 私は喚き散らしているティメリントを無視し、迫ってきている剣士達に向かってグラビティ・スタンプを放つ。すると、剣士達は一瞬で顔面を地面に叩きつけられ、そのまま動かなくなった。

「そんな馬鹿な! 4人を一斉に!? しかもたった一撃で!?」

 私はゆっくりと歩きながら、ティメリントとの距離を詰める。

「ひぃぃ! た、助けて! じ、実はあの剣士達に脅されてたんだ!」
「嘘……だね。あの剣士達は何ら……かの精神操作系の魔法を受けてた」
「さささ、流石、エルメンテ様! おみそれしました! ど、どうでしょう? い、今からでも僕とチームを組まないか? 貴女の強力無比な魔法と僕の精神魔法があれば――」

 その言葉を聞き、私の中で怒りの炎が燃えがった。瞬間的に無詠唱でAEWを発動させ、炎の剣を掴み左腕を斬り落す。

「ぎゃああああああ!?!! 僕の、僕の左腕がああああああああ!!」

 ティメリントは叫びを上げながら、地面をのたうち回る。斬りつけた傷口が焼け焦げているからだ。その為の出血はないが、地獄の様な激痛に襲われている様だ。

「あの剣士……達の分と、あ……なたのワッペンを渡して。さもない……と本当に殺す」
「……だずげで、ごろざないで」

 上から下から液体を漏らしながら命乞いをするティメリント。

「ハァ……、ワッペン! 早く!」
「びぃ゛ぃ゛!!」

 ティメリントは右のポッケから5つのワッペンを落とし、私がそれを拾うと情けない叫び声を上げながら、切り落とした左手を持って逃げていった。

「何……だったんだろ……あれ」

 私は、5つのワッペンを拾い集めローブの中へしまうと、ゲインを探す為歩きだした。
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