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第一部 四季姫覚醒の巻

第六章 対石追跡 13

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十三
 大事な白神石を弄(もてあそ)びすぎた、報いか。
 白神石は、宵月夜の手に渡ってしまった。
「ちくしょー、空が飛べる奴は有利だな!」
 流石に、空中にいる相手と、球技はできない。手も足も出ず、榎たちは焦った。
「宵月夜さま、お見事ですぞ!」
 八咫(やた)が満足気に、宵月夜へ向かって飛んで行く。
「四季姫なんぞと遊んでいる場合か、八咫」
 宵月夜は不機嫌そうに、八咫を睨みつけた。八咫は身を竦ませる。
「すみませぬ! ですが、宵月夜さまがお探しの石、ついに手に入りましたな!」
 喜ぶ八咫と、手に持つ白神石を交互に見て、宵月夜はつまらなさそうに鼻を鳴らした。
「こんな石、俺は要らん」
 なんと、宵月夜が石を地上へ棄てた。榎は慌てて、落ちてきた石を受け止める。
「どうしてだよ、白神石、ずっと探してたんだろう?」
「そいつが白神石だと? 笑わせんなよ。石ですらねえよ。勝手に動いただろう?」
 榎たちはショックを受ける。本物の白神石は、動かないのか。
「石やないなら、この丸っこいもんは、何やっちゅうねん!?」
 怒声を上げる柊を、宵月夜は冷ややかな目で睨み下ろした。
「そいつは〝石もどき〟。綺麗な石の振りをして人間を惑わし、時には山の奥へ誘い込んで食ってしまう、中等妖怪だ」
「妖怪!? しかも、人を食うって……!」
 榎は、手に掴んだ石もどきに視線を落とした。突然、石に横一文字の割れ目が入り、大きく開いた。中は真っ赤で、側面に細かい牙がびっしりと並んでいる。どうやら、口らしい。
 長い舌が伸びてきて、榎の顔を舐めようとした。思わず腕を伸ばして遠ざけ、石もどきから逃れる。
 怖さと気持ち悪さで、榎の全身に鳥肌が立った。
「そいつの正体と特徴は教えてやった。前に助けられた、借りは返したぜ。あとは自力で、何とかするんだな」
 突っ撥ねる調子で、宵月夜は言い放った。
「ちょっと待てよ! この状況で情報を教えてもらったところで、あたしにどうしろと……!?」
 とても親切とは思えない借りの返され方に、榎は怒る。
 だが、宵月夜に絡んでいる余裕はなかった。榎の隙を狙って、石もどきが噛み付こうと狙ってきた。
「えのちゃん、早く棄てて!」
 椿の声で我に返った。石もどきを投げ捨てようとしたが、腕を振り回しても、落ちてくれない。
「駄目だ、吸い付いて、手から離れない!」
 石もどきはガジガジと歯を噛み合わせて、音を立ててきた。このまま離れなければ、榎は齧られてしまう。
「榎さん、お顔から手をお放しになって!」
 奏が、榎の側に駆け寄ってきた。手には変わらず、金属バットを握り締めている。
 石もどきを、さっきと同じ要領で打ち飛ばすつもりか。榎は言われた通りに、手を思いっきり伸ばして、首を逸らせた。
「食らいなさい、妖怪。新兵器の威力!」
 奏は、バットの柄の先端に取り付けられた、ボタンらしい突起物を押した。
 直後。バットが電流を帯び始めて、バリバリと火花が散った。
 榎は、嫌な予感に襲われた。慌てて奏を止めようとしたが、間に合わない。
 奏が、石もどきめがけて、電気を帯びたバットで殴りつける。石もどきは電気に感電して、悲鳴を上げた。
 石もどきに触れていた榎も、例外ではない。流れてきた電流をまともに食らい、体を強烈に痺れさせた。
「触れたものすべてを痺れさせる、サンダーソードですわ! 少し、電流が強すぎたかしら。人体には危険かもしれませんわね」
 石もどきは体から黒い煙をあげて、地面へ落ちた。同時に、榎も倒れた。まだ、体が痺れている。
 夏姫に変身して、防御力が高まっているから、命に別状はなさそうだ。生身だったら、感電死していたかもしれない。
 相変わらず、奏の行動は傍若無人だ。
「えのちゃん、生きてる? 大丈夫……?」
 心配した椿と柊が、恐る恐る、榎に近づいてきた。
「妖怪に止(とど)め、代わりに刺したろか?」
 非常時にも拘らず、馬鹿にしてくる柊への怒りを原動力に、榎は起き上がった。
「いい、あたしがやる……」
 こんな酷い目に遭って、さらに、いいところまで持って行かれてたまるか。
 榎は痺れる体に喝を入れ、何とか立ち上がり、剣を構えた。
「食らえ、〝竹水の斬撃・雷電〟!」
 体に電気を帯びた榎は、外に抜けていこうとする電流を操作し、新たなる技を編み出した。正直言って、二度と使いたくない技だが。
 更なる電流を浴びた石もどきは、真っ黒焦げの炭になり、風に吹かれて消滅した。
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