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第一部 四季姫覚醒の巻
第六章 対石追跡 14
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十四
「石は偽物だったし、散々だな……」
体を張って頑張ったにも拘らず、目的の白神石は見つからなかった。がっかりだ。
近くにはあるかもしれないが、手掛かりは消えた。探索は振り出しに戻る。
榎たちが途方に暮れていると、急に、宵月夜が妙な反応を見せた。
「感じる……近くに、あいつがいる!」
緊迫した様子で、宵月夜は山を抜けて、更に向こうへと飛んでいった。
「どないしたんや、宵月夜は」
「あいつ、まさか、本物を見つけたんじゃ……!」
もしやと思い、榎たちは焦る。
「……感じるわ。えのちゃん、ひいちゃん、追いかけましょう!」
椿の声を合図に、榎たちは山を駆け下りた。
だが、相手は空を飛ぶ鳥人間だ。素早さでは、とうてい敵いっこない。
「走って行っても、追いつけないか……!」
榎は懸命に走るも、限界があった。特に、体力のない椿は、既にへたばりかかっていた。
「椿、おんぶや。うちの背中に乗り。乗っけて走るから、その間に笛吹いて、宵月夜を足止めするんや!」
柊は立ち止まり、椿の前で屈みこんだ。
妙案だった。だが、他に宵月夜を足止めする手立てがない。
「わかったわ、やってみる!」
椿は柊の背中に乗った。柊は負担が増えたにも拘らず、今までと同じ速度で山道を走って行く。かなりの体力だ。
榎も素早く、後を追いかけた。
「お願い、止まって! 〝足枷(あしかせ)の風(かぜ)〟!」
呼吸を整え、椿が音色を奏でる。風が上空に密集し、宵月夜めがけて吹き荒れた。渦を巻いた風が宵月夜を包み込み、進路を妨害する。
宵月夜は苛立ち、軽い風を起こして相殺(そうさい)させた。椿は諦めずに、何度も何度も、重ね掛けをして動きを止めた。
今のうちだ。榎たちは全速力で追い抜き、宵月夜が向かっていた方角へ突っ走った。
「この先って……花春寺か!?」
突き当たった場所は、椿の家があるお寺――花春寺へ続く上り坂の入り口だった。
気のせいかと思っていたが、間違いではなかった。寺へ近付くにつれて、白光勾玉の輝きが強くなっていく。
榎たちは、坂道を駆け上った。
「せやけど、灯台下暗しやな。椿んちに、白神石があるんか?」
「でも、椿たち、今まで気付かなかったし、何も感じなかったわ……」
心当たりがない。気付いていなかっただけで、毎日当然の如く、接触していた可能性もあるのだろうか。
「待てよ、丸くて白い石って、どっかで見た気が……」
榎は走りながら、ふと、記憶の中を探った。
「思い出した、叔母さんが大事に使っていた、漬物石!」
声を上げる。椿の母――桜が裏庭で漬けている、糠(ぬか)付けの重石になっている石が、白くてまん丸だった。
たとえ違っていたとしても、思い当たる節は他にない。
榎たちは狙いを定めて、一直線に如月家の裏庭へと直行した。
寺の境内を抜けて、家の勝手口へ。黄色い桶が視界に入ってきた。
桶の上に置かれた、不自然に丸い、白い石。榎はラストスパートをかけ、石めがけて飛びついた。
だが、あと一歩、及ばなかった。
僅差で、上空から降り立った宵月夜に、石を奪われた。榎は勢い余って、地面に倒れこむ。
「ようやく見つけたぞ、朝」
石を大事に抱え、宵月夜は達成感に溢れた表情を浮かべた。
「ちくしょう、先を越された! 宵月夜、その石を渡せ!」
「馬鹿か。やっと手に入れた、念願の白神石。誰がお前らに渡すかよ」
宵月夜は鼻を鳴らし、上空へと飛び上がった。
「あかんて! 漬物(つけもん)は重石(おもし)が命やねんで! お前が退(ど)かしたせいで、漬かり具合が悪うなったら、どないするんや!」
「知るか! どうでもいいわ!」
柊の的外れな熱演に、宵月夜は本気で怒鳴っていた。
「どうでもええわけあるか! 漬物を笑う奴は、漬物に泣け!」
椿を下ろした柊は、薙刀を構えて上空に振りかざした。だが、刃の届かない高みにまで上られて、攻撃が届かない。
「ちょこまか飛び回るな! 〝氷柱の舞・降雹(こうひょう)〟!」
柊は技を発動した。空気中に、冷えた水分が集まり、凝固して巨大な氷が発生した。
大きな氷を、柊が薙刀で上空めがけて打ち飛ばす。宵月夜は紙一重で氷を避けたが、氷は更に上空で粉々に飛散。重力に任せて、尖った大量の氷の粒が降り注いだ。
避けきれずに氷の礫(つぶて)を浴びて、宵月夜は、大量の傷を負った。
「この、怪力女め……!」
血を飛び散らせながらも、大きなダメージには至っていない。宵月夜は力を抑えつつ、小さな風の塊を作り出し、柊めがけて攻撃しようとした。
「宵月夜、お願い、その石を渡して! 中にいる人――朝月夜が、苦しんでいるの」
柊の前に、突如、椿が立ち塞がった。声を張り上げて、宵月夜に必死で語りかける。
朝月夜の名に、反応した気がした。宵月夜は手を止め、風の塊も消え去った。
「あなたにとっては邪魔な存在かもしれないけれど、椿たちに、助けを求めてきたの。早く、外に出してあげたい。だから……」
椿の言葉に、宵月夜は思うところがあったらしい。しばらく、悲痛な声を聞いていた。
だが、すぐに態度を一変させて、舌を打った。
「お前らの知識は、その程度か。安易にこの封印を解けば、どれだけ恐ろしい出来事が待っているか……」
やはり、耳を貸しはしない。封印を解いて、朝月夜を解放すれば、次に封印される対象は、宵月夜だ。
宵月夜は吐き捨てて、白神石を持ったまま飛び去ってしまった。
飛んで行った先は、検討がつく。だが、短時間でかなりの体力を消耗した榎たちは、すでに満身創痍だった。
変身を解き、息を切らせて、如月家の裏庭で脱力した。
騒ぎに気付いて出てきた桜に声を掛けられても、落胆して返事すらできなかった。
「石は偽物だったし、散々だな……」
体を張って頑張ったにも拘らず、目的の白神石は見つからなかった。がっかりだ。
近くにはあるかもしれないが、手掛かりは消えた。探索は振り出しに戻る。
榎たちが途方に暮れていると、急に、宵月夜が妙な反応を見せた。
「感じる……近くに、あいつがいる!」
緊迫した様子で、宵月夜は山を抜けて、更に向こうへと飛んでいった。
「どないしたんや、宵月夜は」
「あいつ、まさか、本物を見つけたんじゃ……!」
もしやと思い、榎たちは焦る。
「……感じるわ。えのちゃん、ひいちゃん、追いかけましょう!」
椿の声を合図に、榎たちは山を駆け下りた。
だが、相手は空を飛ぶ鳥人間だ。素早さでは、とうてい敵いっこない。
「走って行っても、追いつけないか……!」
榎は懸命に走るも、限界があった。特に、体力のない椿は、既にへたばりかかっていた。
「椿、おんぶや。うちの背中に乗り。乗っけて走るから、その間に笛吹いて、宵月夜を足止めするんや!」
柊は立ち止まり、椿の前で屈みこんだ。
妙案だった。だが、他に宵月夜を足止めする手立てがない。
「わかったわ、やってみる!」
椿は柊の背中に乗った。柊は負担が増えたにも拘らず、今までと同じ速度で山道を走って行く。かなりの体力だ。
榎も素早く、後を追いかけた。
「お願い、止まって! 〝足枷(あしかせ)の風(かぜ)〟!」
呼吸を整え、椿が音色を奏でる。風が上空に密集し、宵月夜めがけて吹き荒れた。渦を巻いた風が宵月夜を包み込み、進路を妨害する。
宵月夜は苛立ち、軽い風を起こして相殺(そうさい)させた。椿は諦めずに、何度も何度も、重ね掛けをして動きを止めた。
今のうちだ。榎たちは全速力で追い抜き、宵月夜が向かっていた方角へ突っ走った。
「この先って……花春寺か!?」
突き当たった場所は、椿の家があるお寺――花春寺へ続く上り坂の入り口だった。
気のせいかと思っていたが、間違いではなかった。寺へ近付くにつれて、白光勾玉の輝きが強くなっていく。
榎たちは、坂道を駆け上った。
「せやけど、灯台下暗しやな。椿んちに、白神石があるんか?」
「でも、椿たち、今まで気付かなかったし、何も感じなかったわ……」
心当たりがない。気付いていなかっただけで、毎日当然の如く、接触していた可能性もあるのだろうか。
「待てよ、丸くて白い石って、どっかで見た気が……」
榎は走りながら、ふと、記憶の中を探った。
「思い出した、叔母さんが大事に使っていた、漬物石!」
声を上げる。椿の母――桜が裏庭で漬けている、糠(ぬか)付けの重石になっている石が、白くてまん丸だった。
たとえ違っていたとしても、思い当たる節は他にない。
榎たちは狙いを定めて、一直線に如月家の裏庭へと直行した。
寺の境内を抜けて、家の勝手口へ。黄色い桶が視界に入ってきた。
桶の上に置かれた、不自然に丸い、白い石。榎はラストスパートをかけ、石めがけて飛びついた。
だが、あと一歩、及ばなかった。
僅差で、上空から降り立った宵月夜に、石を奪われた。榎は勢い余って、地面に倒れこむ。
「ようやく見つけたぞ、朝」
石を大事に抱え、宵月夜は達成感に溢れた表情を浮かべた。
「ちくしょう、先を越された! 宵月夜、その石を渡せ!」
「馬鹿か。やっと手に入れた、念願の白神石。誰がお前らに渡すかよ」
宵月夜は鼻を鳴らし、上空へと飛び上がった。
「あかんて! 漬物(つけもん)は重石(おもし)が命やねんで! お前が退(ど)かしたせいで、漬かり具合が悪うなったら、どないするんや!」
「知るか! どうでもいいわ!」
柊の的外れな熱演に、宵月夜は本気で怒鳴っていた。
「どうでもええわけあるか! 漬物を笑う奴は、漬物に泣け!」
椿を下ろした柊は、薙刀を構えて上空に振りかざした。だが、刃の届かない高みにまで上られて、攻撃が届かない。
「ちょこまか飛び回るな! 〝氷柱の舞・降雹(こうひょう)〟!」
柊は技を発動した。空気中に、冷えた水分が集まり、凝固して巨大な氷が発生した。
大きな氷を、柊が薙刀で上空めがけて打ち飛ばす。宵月夜は紙一重で氷を避けたが、氷は更に上空で粉々に飛散。重力に任せて、尖った大量の氷の粒が降り注いだ。
避けきれずに氷の礫(つぶて)を浴びて、宵月夜は、大量の傷を負った。
「この、怪力女め……!」
血を飛び散らせながらも、大きなダメージには至っていない。宵月夜は力を抑えつつ、小さな風の塊を作り出し、柊めがけて攻撃しようとした。
「宵月夜、お願い、その石を渡して! 中にいる人――朝月夜が、苦しんでいるの」
柊の前に、突如、椿が立ち塞がった。声を張り上げて、宵月夜に必死で語りかける。
朝月夜の名に、反応した気がした。宵月夜は手を止め、風の塊も消え去った。
「あなたにとっては邪魔な存在かもしれないけれど、椿たちに、助けを求めてきたの。早く、外に出してあげたい。だから……」
椿の言葉に、宵月夜は思うところがあったらしい。しばらく、悲痛な声を聞いていた。
だが、すぐに態度を一変させて、舌を打った。
「お前らの知識は、その程度か。安易にこの封印を解けば、どれだけ恐ろしい出来事が待っているか……」
やはり、耳を貸しはしない。封印を解いて、朝月夜を解放すれば、次に封印される対象は、宵月夜だ。
宵月夜は吐き捨てて、白神石を持ったまま飛び去ってしまった。
飛んで行った先は、検討がつく。だが、短時間でかなりの体力を消耗した榎たちは、すでに満身創痍だった。
変身を解き、息を切らせて、如月家の裏庭で脱力した。
騒ぎに気付いて出てきた桜に声を掛けられても、落胆して返事すらできなかった。
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