種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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第四部隊編

毒耐性

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訓練を早めに切り上げ、ソフィアは黒猫酒場に戻ると丁度「カゲマル」が王国の報告を終えて酒場を訪ねており、彼女から先ほど奇襲を仕掛けてきた「黒装束」の男の事を話すと、


「それは拙者たちとは違う隠密の人間でござるな。拙者たちは代々王国に仕える影の一族でござるが、他の種族にも使える影も存在するでそうでござる」
「そうなの?」
「拙者も話に聞くだけで会ったことは無いでござるよ。ただ、その者たちがソフィア殿を襲ったというのが気になるでござるな……」


ソフィアの正体(レノ)を知っている者は限りなく少なく、バルを含む黒猫酒場の女部下達、王国側ではリノン、ポチ子、ゴンゾウ、ジャンヌ、あとはアルトだけであり、聖導教会ではヨウカとテン、あとはコトミぐらいしか知らないはずであり(結構知られている)、深淵の森の刺客だとしてもエルフである彼等がわざわざ人間の刺客を送り込むとは思えない。


「考えられるとしたら、ソフィア殿の正体を知らずに襲い掛かったのではないでござるか?」
「つまり……私の正体も知らずに襲撃したの?」
「そうとしか考えられぬでござるな……しかし、2人がかりで婦女子1人を襲うとは……隠密の恥知らずでござる!!」
「そうかな……?」


この世界の「忍者」とはどういう存在として扱われているのかは分からないが、現実世界での本物の忍者は結構あくどい事も普通に行っている。だが、カゲマルの反応から察するに彼等にも一種の誇りというものは存在するらしい。


「しかし……ソフィア殿が尾行されたとなると、これからの行動が心配でござるな……拙者もやはり護衛に」
「いや、それはいい」
「あうっ……断るのが速いでござるよ」
「カゲマルと一緒だと、色々と報告されそうで面倒」
「拙者を何だと思っているでござる!?」
「王国側の忍」
「そのまんまでござる!!」


実際にカゲマルは定期的にソフィア達の元へ訪れては王国側に報告を行っているのも事実であり、以前にソフィアが好きな果物の事をカゲマル知ると、後日に王国側から大量の果物が送り込まれた事もあった。


「そうだ。このクナイを持ってたんだけど……」
「おお、どれどれ……」


ソフィアは先ほどの忍から回収して置いたクナイを取り出し、カゲマルに渡すと、彼女は何処からか虫眼鏡を取りだして調べ始め、


「……ただのクナイでござるな。市販の物だと思うでござる」
「市販!?」
「結構売ってるでござるよ?」


まさか忍者道具のクナイが一般にも販売されているなど思いもよらず、ソフィアは驚愕するがカゲマルは平然と答える。


「まあ、流石に拙者たちのような本物と比べれば随分と切れ味が落ちるでござるが……随分と使い込まれているでござるな」
「へえ……そんな事まで分かるんだ」
「忍者道具に関する事なら自信があるでござるっ」
「何の話をしてるんだい?」


「えっへん!」と口にしながら胸を踏ん反り返るカゲマルを尻目に、ソフィアはクナイを受け取ると、不意に上の階段から2人の会話を聞きつけたバルが姿を現し、すんすんと鼻を鳴らす。


「……変な匂いだね。何を持ってるんだい?」
「匂い?」
「そう言えば……そのクナイから何か臭うでござるな」


2人がソフィアの手に持っているクナイに顔を近づけ、同時に鼻を摘む。ソフィアには分からないが、獣人族であるバルと訓練で嗅覚も鍛えているカゲマルだけに嗅ぎ取れる臭いが漂っているらしい。


「こいつは……あんたの反応から察するにエルフが扱う魔植物(プラント)系の毒じゃないね。何かの魔獣の毒か何かかい?」
「この臭い……ポイズン・ドックの牙から抽出される毒でござるな。体内に一滴でも注入されれば、一瞬でお陀仏でござる。しかも、これはクナイの中に仕込まれているようでござるな……」
「物騒な物を持ち出したね……うちの子たちが間違って遊び半分で手を出したらどうするんだい?」
「拙者のじゃないでござるよ!ソフィア殿に襲い掛かったという襲撃者の所持品で……」
「襲撃って……また面倒事を持ってきたのかい?」


面倒そうな顔を浮かべるバルにソフィアは顔を反らし、取りあえずはこのまま放置するのは危険のため、クナイを黒衣の包帯で巻いてカゲマルに預ける。


「これは拙者が処分して置くでござるが……ソフィア殿もこれからは気を付けて行動しないといけないでござるよ?もしも、このクナイの毒が体内に入り込んでいたらハーフエルフと言えど耐えられないでござるよ?」
「大丈夫。ある程度の毒の耐性は持ってるから」
「何が大丈夫なんだい!?というか、何でそんな耐性(もの)を持ってんだい!!」
「昔ちょっとね」


まだ幼少の頃、深淵の森で狩りを行っている時にフレイにあらゆる毒の耐性を身に着けるため、彼女から魔獣や植物などから毒薬と解毒薬を作る方法も教え込まれており、体内に何度も毒薬と解毒薬を流し込むように強要された。

最初の内は毒薬に身体が蝕まれ、途轍もない苦痛に襲われたが、すぐに解毒薬を流し込んで解毒する。この工程を何度か繰り返すと、森人族の肉体が瞬時に毒の抗体を生み出すようになり、解毒薬を使用しなくてもある程度の毒を克服する身体に作り替える事が出来る。

そのため、ソフィアの肉体には強い毒耐性が存在し、先ほどのポイズン・ドックの毒であろうと彼女には効果が無い。
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