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第5章 約束の地へ
action 3 突入
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光の考えた作戦というのは、こうだった。
道の左側を伸びる、ガードレール。
まず、その上をあずみが走る。
走って交差点まで近づき、そこで大ジャンプ。
交差点を渡った左の角には、ガソリンスタンドがある。
あずみはそこまでジャンプして、給油装置を破壊。
ガソリンを道路にぶちまけ、そのまま坂道を駆け上がり、丘の上の大学の正門へと全力疾走。
その間に僕らはニコチン爆弾や花火を駆使してゴキブリ人間を遠ざけながら、交差点に接近。
射程距離まで近づいたところで、地面に流れたガソリンに向け、僕が銃弾を発射。
光の先ほどの実験からもわかるように、油紙みたいなゴキブリの翅はよく燃える。
いったん火がつけばこっちのもので、僕らは火炎地獄の炎が収まるまで安全なところで待機し、敵がほぼ丸焼けになったのを見届けてから前進を再開。
先に進んでいるあずみと大学の門の前で合流する。
とまあ、こういうわけだった。
「あずみちゃん、ちょっと大変だけど、いけるかな?」
すでにガードレールの上に片足立ちしてバランスを取っているあずみに向かって、気づかわしげに光がたずねた。
「平気ですよ、このくらい」
バレリーナのように高々と右足を上げ、あずみが笑った。
短いスカートが脚の付け根まで後退し、むっちりとした生の太腿が丸見えになる。
「うほ」
一平の眼が、潜望鏡よろしく3センチほど飛び出すのがわかった。
もうすでに両手で股間を押えているのはどういうわけだ。
「アキラ君は? 準備はいい?」
僕は返事の代わりにごついM19を肩のあたりまで掲げて見せた。
今度は的が大きいので、幾分気持ちが楽だった。
なにしろ、地面に広がったガソリンに弾を当てればいいだけなのだ。
ワニの口の中の手榴弾を狙うのとは、わけが違う。
「はずすことはまずないとは思うけど、ひとつだけ注意して」
サングラスの奥からじっと僕を見つめながら、ゆっくりと噛んで含めるみたいに光が言った。
「発砲するのは、あずみちゃんがガソリンスタンドを離脱するのを見届けてから。いい? あわてる必要はないの。撃つのは、彼女が向こう側の坂道を上がり出してからでいいんだからね」
「もちろんです」
僕は胸を張ってみせた。
いくら僕がヘタレだといっても、そんなへまをしでかすはずがない。
あずみがまだスタンド内にいるうちに発砲したりしたら、彼女が炎に巻き込まれてしまうのだ。
僕にとり、あずみの命は何にも代えがたい大切なものである。
もしすべてがうまくいって、あずみが元の身体に戻ったら、あいつのいうように、兄と妹ではなく、別の新しい関係に足を踏み入れてもいいかな、と真剣に考え始めてもいる。
それには障害も多いだろうけど、楽しいことは、もっともっといっぱいあるはずだ。
なのにこの手であずみを危険にさらすようなことがあったら、それは僕自身の存在意義を否定するようなものではないか。
そうだろう?
「一平は準備OK? あたしも援護するけど、ゴキ人間を近づけないように頑張るんだよ」
「任せな」
肩にレールガンを担ぎ、両手にニコチン液入りのペットボトルを提げて一平がうなずいた。
「爆弾はあとこの2本しかないから、これ使いきったら、次はねずみ花火と爆竹投下だぜ」
「アキラ君の射撃の腕から考えて、50メートルくらいまで接近する必要があると思うの。まあ、ほんというと一平のほうが銃の扱いには慣れてるんだろうけど、今のアキラ君から銃を取り上げたら何もなくなっちゃうし、一平には自家製レールガンがあるからね」
事実とはいえ、光の言葉に僕はちょっぴり傷ついた。
銃を取り上げたら、僕には何も残らない。
しかも、その射撃の腕前すら、小学生以下なのだ。
まったくもって、ポンコツにもほどがある。
が、くよくよしている場合ではなかった。
進行方向の路面には、交差点のほうから飛翔してきたゴキ人間がすでに数体、待ち構えている。
「レディ・ゴー!」
光が大きく右腕を振った。
「あずみ、行きます!」
ガードレールの上で、あずみがダッシュした。
速い。
ふつうに運動場のトラックを走るみたいな感じで、長い脚を前後に伸ばし、どんどんスピードを上げていく。
「さっすが、あずみちゃん」
光が感嘆の声を上げた時、ゴキ人間のひとりが翅をばたつかせ、いきなり飛びかかってきた。
光のコートの袂からヨーヨーが飛び出した。
空中で頭を断ち切られ、あらぬ方向に吹っ飛ぶゴキ人間。
「さあ、あたしたちも行くよ!」
光の号令に、
「おう!」
僕と一平は、そろって拳を振り上げた。
こうして、進軍は開始されたのだ。
道の左側を伸びる、ガードレール。
まず、その上をあずみが走る。
走って交差点まで近づき、そこで大ジャンプ。
交差点を渡った左の角には、ガソリンスタンドがある。
あずみはそこまでジャンプして、給油装置を破壊。
ガソリンを道路にぶちまけ、そのまま坂道を駆け上がり、丘の上の大学の正門へと全力疾走。
その間に僕らはニコチン爆弾や花火を駆使してゴキブリ人間を遠ざけながら、交差点に接近。
射程距離まで近づいたところで、地面に流れたガソリンに向け、僕が銃弾を発射。
光の先ほどの実験からもわかるように、油紙みたいなゴキブリの翅はよく燃える。
いったん火がつけばこっちのもので、僕らは火炎地獄の炎が収まるまで安全なところで待機し、敵がほぼ丸焼けになったのを見届けてから前進を再開。
先に進んでいるあずみと大学の門の前で合流する。
とまあ、こういうわけだった。
「あずみちゃん、ちょっと大変だけど、いけるかな?」
すでにガードレールの上に片足立ちしてバランスを取っているあずみに向かって、気づかわしげに光がたずねた。
「平気ですよ、このくらい」
バレリーナのように高々と右足を上げ、あずみが笑った。
短いスカートが脚の付け根まで後退し、むっちりとした生の太腿が丸見えになる。
「うほ」
一平の眼が、潜望鏡よろしく3センチほど飛び出すのがわかった。
もうすでに両手で股間を押えているのはどういうわけだ。
「アキラ君は? 準備はいい?」
僕は返事の代わりにごついM19を肩のあたりまで掲げて見せた。
今度は的が大きいので、幾分気持ちが楽だった。
なにしろ、地面に広がったガソリンに弾を当てればいいだけなのだ。
ワニの口の中の手榴弾を狙うのとは、わけが違う。
「はずすことはまずないとは思うけど、ひとつだけ注意して」
サングラスの奥からじっと僕を見つめながら、ゆっくりと噛んで含めるみたいに光が言った。
「発砲するのは、あずみちゃんがガソリンスタンドを離脱するのを見届けてから。いい? あわてる必要はないの。撃つのは、彼女が向こう側の坂道を上がり出してからでいいんだからね」
「もちろんです」
僕は胸を張ってみせた。
いくら僕がヘタレだといっても、そんなへまをしでかすはずがない。
あずみがまだスタンド内にいるうちに発砲したりしたら、彼女が炎に巻き込まれてしまうのだ。
僕にとり、あずみの命は何にも代えがたい大切なものである。
もしすべてがうまくいって、あずみが元の身体に戻ったら、あいつのいうように、兄と妹ではなく、別の新しい関係に足を踏み入れてもいいかな、と真剣に考え始めてもいる。
それには障害も多いだろうけど、楽しいことは、もっともっといっぱいあるはずだ。
なのにこの手であずみを危険にさらすようなことがあったら、それは僕自身の存在意義を否定するようなものではないか。
そうだろう?
「一平は準備OK? あたしも援護するけど、ゴキ人間を近づけないように頑張るんだよ」
「任せな」
肩にレールガンを担ぎ、両手にニコチン液入りのペットボトルを提げて一平がうなずいた。
「爆弾はあとこの2本しかないから、これ使いきったら、次はねずみ花火と爆竹投下だぜ」
「アキラ君の射撃の腕から考えて、50メートルくらいまで接近する必要があると思うの。まあ、ほんというと一平のほうが銃の扱いには慣れてるんだろうけど、今のアキラ君から銃を取り上げたら何もなくなっちゃうし、一平には自家製レールガンがあるからね」
事実とはいえ、光の言葉に僕はちょっぴり傷ついた。
銃を取り上げたら、僕には何も残らない。
しかも、その射撃の腕前すら、小学生以下なのだ。
まったくもって、ポンコツにもほどがある。
が、くよくよしている場合ではなかった。
進行方向の路面には、交差点のほうから飛翔してきたゴキ人間がすでに数体、待ち構えている。
「レディ・ゴー!」
光が大きく右腕を振った。
「あずみ、行きます!」
ガードレールの上で、あずみがダッシュした。
速い。
ふつうに運動場のトラックを走るみたいな感じで、長い脚を前後に伸ばし、どんどんスピードを上げていく。
「さっすが、あずみちゃん」
光が感嘆の声を上げた時、ゴキ人間のひとりが翅をばたつかせ、いきなり飛びかかってきた。
光のコートの袂からヨーヨーが飛び出した。
空中で頭を断ち切られ、あらぬ方向に吹っ飛ぶゴキ人間。
「さあ、あたしたちも行くよ!」
光の号令に、
「おう!」
僕と一平は、そろって拳を振り上げた。
こうして、進軍は開始されたのだ。
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