種族統合 ~宝玉編~

カタナヅキ

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英雄編

魔人王襲来

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鳳凰学園の正門に到着し、ソフィアは砂煙を巻き上げながら急停止する。数年ぶりの鳳凰学園はドーム状の結界によって囲まれており、既に呪詛によって黒色に染まっている。後方を確認し、アルトとジャンヌが遅れて到着し、軽い息切れを起こしている。


「大丈夫?」
「問題ない……これが、僕たちの学園なのか……!?」
「……酷い」


間近で学園を確認し、アルトは歯を食い縛る。彼にとってもこの学園は様々な思い出が詰まった場所であり、よりにもよってこの場所を利用したロスト・ナンバーズに怒りを抱く。その一方でジャンヌは結界から感じられる僅かな呪詛に気付き、これ以上に結界に呪詛が蓄積したら周囲にも影響が生まれてしまう。

三人は結界を確認し、事前に渡された結界石の欠片の指輪を取り出す。アイリィの話によればこの指輪を装備していれば問題なく結界内に侵入する事が出来るが、その前に呪詛に侵されないために準備を整える必要がある。


「魔鎧(フラム)」


ボウッ!!


ソフィアの両腕に「蒼炎」を生成し、アイリィの言う通りに全身で魔鎧を纏う想像をしながら実行してみる。これまでの訓練と長年の魔力操作を極めたお蔭か、予想よりもすんなりと両腕の炎が全身に広がり、彼女の身体が炎というよりは淡い蒼の光に覆われる。漫画的な表現に例えるなら「オーラ」を全身に纏う事に成功した。


「おおっ……!?」
「す、すごい……ここまではっきりと魔力を実体化させるとは!?」
「ふうっ……これでいいのかな」


全身を魔鎧で完全武装を行い、ソフィアは自分の身体を確認し、両腕に集中させていた時よりも魔力が拡散してしまい、全体の強度が低下している。それでも、これならば呪詛に対して完全に防御が可能であり、きっと結界内に侵入しても問題ないだろう。

だが、この状態では全身を防御できても肉体強化も行えず、純粋な身体能力で戦闘をしなければならない。それでも今のソフィアの純粋な運動能力は巨人族や獣人族に匹敵し、十分に戦えるだろうが、やはり早々に呪詛を何とかしなければならない。ソフィアは完全武装を解除し、アルトとジャンヌに向き直る。


「さてと……準備はいい?」
「ああ……僕たちの学園を取り戻そう」
「問題ありません……ここで決着を付けましょう」


アイリィから受け取った羊皮紙を取り出し、一枚ずつ全員が握りしめ、まずはソフィアが地面に設置して魔力を送り込む。その瞬間、羊皮紙に刻み込まれた召喚魔法陣が光り輝き、何も存在しない空間に一瞬にしてゴンゾウが出現する。


ドスンッ!!


「ぬおっ!?こ、ここは……」
「うわっ!?」
「ほ、本当に現れました……」
「でも、もう少し現れる位置を改善する必要があるかな……」


突然、瞬間移動をしてきたゴンゾウにソフィアは押し潰されてしまい、慌てて彼はその場を退くと、驚いた表情で周囲を見渡す。ゴンゾウは懐からアイリィから受け取った羊皮紙を取り出し、何時の間にか書き込まれていた召喚魔方陣が消えてなくなっており、地面に設置された羊皮紙も同様に消えていた。普通の転移魔方陣と違い、どうやらアイリィの召喚魔方陣は一度しか扱えない。


「すまん、ソフィア……」
「いいよ、気にしないで……でも、これからは少し体重管理も気を付けようか」
「あの、移動した時はどんな感じだったんですか?」


腰を抑えながら立ち上がるソフィアにゴンゾウが頭を下げると、ジャンヌが興味本位で尋ねてくる。


「……よく、分からない。気が付いたら、ここにいた」
「転移魔方陣特有の景色の変化もなかったの?」
「ああ、本当に一瞬で、ここに移動していた」
「そうか……興味深い魔方陣だな、解析して王国の転移魔方陣に組み込みたいが……」
「今は他の人間を呼び出すのが先でしょうが」
「そ、そうだな」



――アルトとジャンヌは地面に羊皮紙を設置し、すぐにソフィア同様に魔力を送り込んで他の2人を呼び出す。ゴンゾウ同様に2人とも驚愕し、どちらも騎士団に連絡を伝えた所で一瞬にして移動移動したという。



センリとアイリィを除く全員が集合し、学園の正門を振り返る。どんどんと結界内の呪詛が蔓延しているのか、最初に見た時よりも黒色化が進んでおり、一刻の猶予も無い。


「……では、作戦通り我々はここで待機しています。王子、どうかお気を付けて」
「ああ……大丈夫だ。今回はソフィアもジャンヌも居る。三人の聖剣所有者が揃ったらどうなるかを彼らに見せつけてこよう」
「そうですね……今回はソフィアさんもいるので何となく安心出来ます」
「なんか買いかぶり過ぎじゃない?」
「そんな事はありませんよ。貴女がいるかどうかで、気持ちが随分と違います」


ジャンヌの発言にソフィアは頭を搔き、頼りに思われるのは嬉しいが、他者から期待されるというのはどうにも慣れず、正門を確認して侵入するには封鎖している鉄柵を突破しなければならない。


「じゃあ、3、2、1のタイミングで突入するよ?」
「タイミング……?良く分からないが、問題ない」
「分かりました」


今更ながらこの世界に英語の浸透していない事を思い出し、その割には魔法名が英語に使われている事に疑問を抱きながらも、ソフィア達は正門に歩み寄ろうとした瞬間、一瞬だけ正門の真正面の空間に「歪み」が生じ、ソフィアは咄嗟にアルトとジャンヌを抱えて後方に飛び移る。


「うわっ!?」
「きゃっ!?」
「ソフィアッ――!?」


ズガァアアアアンッ!!


突然の彼女の行動に2人は上手く着地できずに後方に転倒し、全員が彼女の行動に驚愕する。その直後、先ほどまでソフィア達がいた地面に大きな砂埃が生じ、まるで巨大な刃で抉られたような亀裂が誕生する。瞬時に全員が前方の空間を確認し、そこには有りえぬ光景が映し出されていた。



――全身が2メートルを越える黒甲冑のフルプレートで覆った鎧の騎士が現れ、その手には大剣が握り締められており、地面に向けて振り落とした状態で佇んでいる。何よりも異様なのはその全身から溢れる黒色の魔力の光であり、ソフィアの「魔鎧」の完全武装を彷彿させる。



黒甲冑の騎士は大剣を持ち上げ、呆然としているソフィア達に視線を向け、剣先を向けると、


『ほうっ……今の一撃を避けるとは、大会の時から気にはしていたが流石はあの女の契約者だな』


その声を聴いた瞬間、ギガノは心当たりがあるのか大きく目を見開くが、すぐに違和感を抱く。何度か聞いたことがある声で間違いないのだが、彼の知っている「あの男」と比べても随分と流調に話している。


「何者だ!?ロスト・ナンバーズの手先か!?」
『ふむっ……お前とは何度か邂逅した事があるはずだが、アルト王子?』
「この声音……まさか、貴様は!?」


ギガノはすぐに皆を庇うように前に出ると、自身の「巨闘拳」を装着して構える。だが、もしも眼の前の人物が彼が知る「あの男」ならば自分の武器では到底どうしようもできない。何せ、相手は実体を持たない存在であり、世界で最も硬度を誇る鎧に憑依している事で生きながらえた存在である。


『ギガノ将軍か……久しぶりだな、お前とは何度か交戦したが、随分と年老いたな』
「……何故、ここに居る」
「将軍?」


冷汗を流しながら、王国最強の称号を持つはずのギガノが焦燥感を抱いている事に全員が気が付き、一体何者なのかと全員が視線を向けると、彼はゆっくりと口を開き、



「魔人族の代表……魔人王」



その名を告げた瞬間、黒甲冑の騎士の雰囲気が変化し、全身を覆う黒色の魔力が揺らめき、



『今はリーリス様を守護する騎士、ロスト・ナンバーズのゼロだ』
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