転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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3巻

3-8

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 俺がレイに注意しようと思ったその時、レイの後ろに人影が現れた。その人物は、おもむろにレイのこめかみを、両側から拳でサンドする。

「イタタタタタ!!」
「遊ばないで、大人しく入れ」

 拳をぐりぐりしながら、寮長が忌々いまいましげにレイを見下ろす。

「ごめんなさい、ごめんなさい!」

 レイがうめきながら謝ると、寮長は舌打ちして解放した。

「このフロ自体は素晴らしいが、おきてが必要なようだな」

 ため息を吐く寮長に、俺もこっくりと頷いた。

「僕もまさにそう思っていたところです」
「随分と賑やかだね」

 笑いを含んだ声に目を向けると、デュラント先輩が湯船に入るところだった。
 肌の色シロっ!!
 それでも、お風呂で血流が良くなってきたのだろう。いつもの青白い顔よりかは、肌がほんのり色づいて見える。
 へぇ、病弱といっても、やはり薄く筋肉がついているんだな。
 俺が感心していると、職人たちがいきなり湯船から立ち上がった。その勢いで湯船の湯がザバンと揺れる。

「申し訳ありませんです! ライオネル殿下と一緒の湯船に浸かるなんて!」

 プチパニックを起こして、三年生たちも立ち上がる。

「お、俺たちも出ます!!」

 皆が立つので、湯船の水位が急激に下がった。

「その必要はない」

 通りの良い声が、もくよくに反響した。

「そんなことをされては、私が困る。ゆっくり一緒に浸かろう。そうしてくれなければ、私は今度からこのオフロを使うことができない」

 さすがデュラント先輩。そんなことを言われたら、出るわけにもいかない。
 職人や先輩たちは、ギクシャクとしながら湯船に腰を下ろし始めた。しかし、緊張のためか、いちように彫像のごとく固まっている。

「気にするな気にするな。身分なきまなが、我が校の特色だろう。裸の付き合いをすれば、一層団結力が増すというものだ」

 マクベアー先輩がそう言って「ガッハッハ」と笑うと、寮長はため息を吐いてひたいに手をやる。

「マクベアー先輩はもう少し気にしてくださいよ」

 そこでようやく、皆に小さな笑いが起きた。デュラント先輩は薄く微笑み、安堵の息を吐く。

「それにしても、オフロというのはしんから温まる気がするね。木のいい匂いもする」

 デュラント先輩は手で湯をすくうと、俺に顔を向ける。

「寝る前に入ると安眠できますよ。それから、今度は良い匂いの花袋を浮かべましょう。心が落ち着いて疲れが取れます」

 俺がそう言うと、デュラント先輩は頷いて微笑む。

「申請書に書いてあったものだね? さすがほっにんだ。随分オフロに詳しい」

 それから少し考える仕草を見せ、寮長を振り返った。

「ルーク」
「はい、何です?」

 中腰の姿勢で、寮長が近づく。

「先ほど聞こえてきたが、オフロにはおきてが必要だと言っていただろう? フィル君をオフロ指導官にしてみてはどうかな」
「は……えぇ!?」

 寮長は頷きかけて、驚いた顔で俺を見る。どういうことだ? と目で問われても、俺にだってわからない。小さく首を振る。

「まだ入って間もない一年生ですよ?」

 困惑する寮長に、デュラント先輩は頷く。

「確かに言う通りだが、彼ほどオフロに詳しい子はいないだろう。その入学して間もない子が、これほどまでの事業を成している。評価すべきだ」

 いやいや、確かにお風呂のおきてやら何やらは必要だが、役職なんていらないって。面倒が多そうだし。
 寮長に任せてたら決まっちゃうな。デュラント先輩の前じゃ、イエスマンなんだから。
 仕方なく控えめながらも、しっかりと断ってみることにした。

「僕は遠慮します。まだ学校に慣れていませんし、先輩方を指導なんてできません」
「そうか……では、マクベアー。お前がオフロの指導官をやれ」

 急に話を振られ、マクベアー先輩は頭の上にはてなマークを浮かべた。

「あぁ? 何だ? 指導官? 俺はフロに関しちゃ何もわからないぞ」

 頭をかくマクベアー先輩に、デュラント先輩はそうだろうなと頷く。

「指導官を監督するフィル君がいるから平気だ」
「「えぇぇっ!?」」

 俺と寮長の声がそろう。もくよくに反響して、洗い場にいた皆までこちらを見た。
 いやいや、なんか役職上がってない?

「監督官はおきてや、オフロの入り方を指導官に教えるだけでいい。それをもとに、マクベアーは定期的に問題ないか確認してくれ。これなら学業にさして影響も出ないだろう?」

 ニコリと微笑まれて、俺はあわあわとマクベアー先輩に助けを求める。

「一年が監督官てマズイですよね? 一年に教えられるなんて嫌でしょう? マクベアー先輩」

 だが、マクベアー先輩はキョトンとして俺を見下ろした。

「何がマズイんだ? いやぁ、むしろフィルが監督してくれるなら安心だ。俺も頑張るから、よろしく頼むなっ!」

 快活に笑いながら、頭をもしゃもしゃとされる。
 そうだった。この人、器がデカかったーっ!!

「マクベアー相手なら、皆大人しくおきてを守るだろう。フィル君、これでもダメかな?」

 デュラント先輩はそう言って、にっこりと微笑む。周りの人も、事の成り行きをじっと見守っていた。
 こんな外堀から埋められて、断れるわけがないじゃないか。

「僕で、務まるなら……」

 俺が小さな声で言うと、皆は「おぉ」と、どよめいて拍手をした。


 湯船から出た俺は、出口の扉に向かって歩く。
 ……何でだ。どうしてこうなった。こんなはずじゃなかったのに。
 指導官を断ったら、さらに上の監督官になってしまった。
 頭がクラクラする。これはのぼせたのではなく、精神的ショックから来るものだろう。
 俺がため息を吐いていると、毛玉猫のホタルがコロコロとこちらへ転がってきた。

【フィル様ーっ!】

 毛が濡れて一回り小さくなったホタルは、ぷるんとして可愛い。

【召喚獣用のお風呂、良かったですっ!】

 興奮が抑えきれないらしく、俺の足元に来てまりみたいにてんてんと跳ねる。
 俺はそんなホタルを、落ち着かせるように撫でた。
 ボールみたいに転がって移動するホタルは、とても汚れやすい。綺麗にするためによくお風呂に入れてあげているから、ホタルは入浴するのが大好きだ。
 他の召喚獣たちは、入ることはあっても、そこまで好きってわけじゃないようなんだよね。
 コクヨウなんか温泉に行った時、意地でもホタルの上から降りなかったもんな。
 というわけで、今回はホタルのみ、召喚獣用のお風呂に入湯だ。

「一匹で大丈夫って言ってたけど、平気だった?」

 俺が聞くと、ホタルはコクリと頷いた。

【はいです! ナターシャさんが、もう一回綺麗に洗ってくれたです!】
「……ナターシャさん?」

 女性の名前が出てきて、はて? と首を傾げる。
 そういや、俺が洗った時より艶々つやつやしているな。しかも、せっけんのいい香りがする。
 洗い場には、グレスハート印の自然派せっけんを用意しておいた。植物油とハーブを混ぜて作った、環境に優しいせっけんだ。肌に優しく、汚れも落ちる優れものである。
 ホタルを洗うのにせっけんが欲しくて、グレスハートのせっけん屋と共同開発したのだ。
 だが今日は汚れていなかったので、軽く洗って召喚獣用の湯船に置いてきた。
 どれだけ洗われたんだろう。めっちゃピカピカなんだけど。

「ナターシャさんて、誰?」

 ホタルを抱っこして聞くと、ホタルは元気に答えた。

【アストラス大猿のナターシャさんです!】
「…………え」

 アストラス大猿っ! え、お風呂入ってんの!?
 いや、お風呂造りの一番の功労者だけどさ。彼女らメスじゃん!
 ハッ! いやいや、召喚獣だから関係ないのか。
 若干動揺しながら、ついたてで死角になった召喚獣用の湯船をおそるおそるのぞく。
 そこには大きな泡の塊が三つあった。
 …………いや、違う。
 アストラス大猿のおばちゃん三匹が、せっけんで泡だらけになりながらキャッキャと楽しげに声を上げていた。

【こりゃあ良いねぇ】
【ますます美猿になっちゃうんじゃないかい?】
【あんら、嫌だ!】

 そう言って「ウホホホ」と笑い合う。

「…………」

 俺は無言のまま、くるりときびすを返した。
 見ちゃならんものを見た気がする。


 知らなかった。ここ、いつの間にか混浴になっていたのか……。

「フィル様、どうなさいました?」

 声をかけられて顔を上げると、薄手の紺色ガウンを着たカイルが立っていた。濡れた前髪を邪魔そうにかき上げ、水滴を払う。
 どっかのセクシーアイドルかっ!
 いや、蝙蝠こうもりの獣人の証ともなる背中の翼を隠すためには、ガウンを着るしかないのだが……。

「ご気分でも?」

 心配そうな顔をするカイルに首を振って、召喚獣用の湯船を指さす。

「アストラス大猿さんたちが……入ってた」

 それだけで察したのか、カイルが「そうですか……」と静かに頷いた。

「あ! カイル!」

 そこへ、レイとトーマが手を振りながらやって来た。

「すっかり長湯しちゃったよぉ」

 トーマがパタパタと手で顔をあおぐ。二人は少しのぼせたのか、顔が真っ赤だった。

「カイルは個室のオフロに入ってたんだよな? どうだった?」

 興味ありげなレイの質問に、カイルは微笑んだ。

「ああ、とても良かった。区切られた空間だから、ゆっくり落ち着いて入れる」

 その言葉を聞いて、俺は少し安心した。
 個室風呂は、足を伸ばせる広さの湯船と一畳ほどのスペースのみ。
 落ち着いた雰囲気を心がけたが、狭いんじゃないかと心配だった。
 喜んでもらえたなら、個室を作って良かったな。
 申請書を出すときに、『誰かと一緒に湯船に入るのは抵抗がある人もいるから、個室を設けてみてはどうか』と提案したんだよね。
 予約制にはなるが、王族や貴族もいるので、この提案はすぐ受け入れられた。
 しかし、実はその提案、王侯貴族のためだけに出したものではない。
 カイルは学校で獣人であることを隠しているから、背中の翼を誰かに見られないために、もくよくは使っていなかった。グレスハートにいた頃と同じく、外で水浴びをしていたようだ。
 カイルは水浴びに慣れていると言っても、グラント大陸は季節によっては雪が降るほど寒い土地だ。それに外でも、見られる可能性が全くないとは言い切れない。
 だから、もくよく内に個室を作ってあげられないか、と思ったのだ。
 よほど嬉しいのか、カイルにしては珍しくずっとニコニコしている。俺も嬉しくなっていると、ふと隣で、レイが顔をムズムズさせていた。

「どうしたの? レイ」
「俺も個室入ってくるっ!」

 レイは少年らしいキラキラした瞳で叫んだ。

「え、レイ。あれだけ入ったのにまだ入るの?」

 トーマが驚くと、レイはチッチッチと舌打ちをする。

「個室だったらどんなに水しぶきを立てようが、寮長に文句言われないだろ」

 個室でも騒いだら怒られると思うのだが……。第一、ああいうのって、何人かで騒ぐから楽しいんじゃないか? 一人でバシャバシャして面白いものかな?

「もう、個室で騒ぐなっておきても作るよー」

 俺が呆れ顔でくぎを刺すと、レイはニヤリと笑った。

「だけど、まだそのおきてはできてないだろう?」

 その口ぶりに、俺たちはため息を吐く。
 まったく、悪知恵が働くなぁ。
 何も言わないのを了承と受け取ったのか、レイは鼻歌交じりで個室へと向かう。

「よーし飛び込んでやるーっ!」
「まったく、しょうがないね」

 俺がレイの背中を見ながら苦笑すると、トーマとカイルも笑った。

「でも、個室が好評で安心したよ。狭いかなぁと思ったから」

 カイルは首を振り、にこりと微笑む。

「いいえ。それがまた居心地良いのです。本当に気持ちのいい水風呂でした」

 そのカイルの言葉を聞いて、俺とトーマは目をパチクリさせて固まった。
 トーマが一呼吸置いて、引っくり返ったような声を上げる。

「えっ! 水!?」
「カイル……水風呂に入ったの?」

 俺の問いに、当然とばかりにコックリ頷く。
 マジか。川から引いてきた水は、相当冷たいだろうに……。

「お湯より水のほうがパリッとして好きなんで、かけいの中のカンカン草を抜きました。出るときには戻しましたが」
「そ、そう……」

 忘れてた。カイルは、お湯で翼がふやけるのが嫌だって、前に言ってたっけ。
 個室用のかけいは他の湯船に繋がっているかけいと別だから、カンカン草を取れば冷たい川の水になるのだけど……。
 何も冷水じゃなくてもいいと思うんだけどなぁ。

「じゃあ……レイは……」

 トーマの言葉を受けて、俺たちは個室に目を向ける。
 ボチャンッ! という音の直後に聞こえてきたのは……。

「ギャッ! 冷たーっっ!!」

 レイの慌てふためく声と、バシャバシャと暴れるような水音だった。
 だよね。カンカン草を戻したって、すぐに湯船は熱くならないよね。

「こらーっ! レイ・クライス! またお前か!」

 木風呂から出てきた寮長が、プンスカしながらこちらにやってくるのが見えた。


   ◇ ◇ ◇


【フィルさま~! お城からお手紙が来てるっす!】

 夕食を食べて食堂から戻ってくると、テンガが二つの封筒をひらひらと振っていた。
 グレスハートの城には、俺専用の手紙箱が設置してある。その箱の中には俺から出した手紙の棚と、俺宛に送る手紙の棚があって、テンガの空間移動によって手紙のやりとりをしていた。
 郵便屋もいるのだが、届くまでに何週間もかかってしまうので、この方法をとっている。

「ありがとう」

 手紙を受け取って、テンガの頭を撫でた。ベッドで寝ているコクヨウの隣に腰を下ろすと、届いた手紙の名前を見る。

「えっと……あ! 父さんの返事、もう来てる。こっちの分厚いのはアルフォンス兄さんか……」

 俺の呟きに、コクヨウは頭を持ち上げ鼻息を吐いた。

【またか。毎度毎度、よく書くことがあるものだ】

 俺はくすりと笑って、コクヨウの上にいたコハクを胸ポケットに入れた。
 ランプはついているが、手紙を読むには薄暗い。

「コハク、明るくして」

 コハクはポケットから顔を出すと、ピッと敬礼する。

【りょーかいっ!】

 まぶしくないくらいに調節してもらったその光のもとで、封筒から手紙を取り出す。
 まずはアルフォンス兄さんの手紙を読もうかな。
 アルフォンス兄さんの手紙は、定例報告に近い。家族に起こった出来事や、その周りの人の出来事。それから俺がいなくて寂しいってことと、俺の近況への質問だ。
 コクヨウは呆れていたが、俺は結構楽しみだったりする。
 ほぼ二、三日置きに送られてくるので、日々の生活の何てことない内容が書かれている。例えばヒューバート兄さんが食べ過ぎでお腹を壊しただの、レイラ姉さんがマナー教習で泣いているだの。
 だが、身内新聞みたいでなかなか面白いし、家族の近況がわかるのは楽しかった。

【今日は何が書いてあったですか?】

 ホタルが足元までやってきて、ワクワクと俺を見上げた。俺は微笑んで手紙を開く。
 冒頭に書かれた『いなくて寂しい』ってやつと、最後の『いつ帰ってくるか』って催促はカットして……。

「えっとね今回の話題は……。ヒューバート兄さんが、自分は大分強くなったはずだって言い出して、グランドール将軍に試合を挑んだんだって……!?」

 俺が読みながら驚くと、コクヨウはしばし口を開けていた。

【無謀な……勝てるわけなかろう】

 コクヨウの目から見ても、グランドール将軍は強い人間という認識らしい。
 うん、確かになぁ。まずスケさんに勝ってから、グランドール将軍に挑むべきだよね。スケさんだって、その実力はグランドール将軍に次ぐくらいなんだから。
 何も中ボスをすっ飛ばして、ラスボスに挑まなくてもいいのに。

【フィル様。フィル様の先輩の大きい人でも勝てないですか?】

 ホタルに聞かれて、俺はうーんとうなる。

「マクベアー先輩が、グランドール将軍に?」

 マクベアー先輩も相当強いけど、相手がグランドール将軍だろう?

「無理じゃないかなぁ」

 前にスケさんが「あの人、年々強くなってるんですよ。人じゃないんじゃないですかね?」って、真剣に話していたことがあった。

【じゃあ、ヒューバート様と大きい人ではどーっすか?】

 尻尾をぶんぶんと振って聞くテンガに、コクヨウは首を振る。

【カイルの話では、マクベアーとやらは剣技にけていると聞く。ヒューバートでは勝てぬだろう。あやつの剣は単純明快すぎる】

 うん。我が兄ながら実に単純明快です。
 剣術大会で場慣れしているマクベアー先輩に勝つのは、難しいんじゃないかなと思う。
 だが、テンガは納得できないのか、ベッドにしがみついてコクヨウに訴える。

【えぇ! ヒューバート様だって鍛えてるっすよ? 歳だって上っす!】
【よいか。体格や年齢が問題なのではない。剣技が上手ければ、フィルのようにガリガリでも大人を倒すことは可能なのだ】

 コクヨウは先生が説明するかのように、腕をちょいちょいと動かす。

【へぇ、ガリガリでもいいんっすね!】
【ガリガリでもいいです!】

 俺を見ながら頷くテンガとホタルに、何とも言えない気持ちになる。
 ガリガリ、ガリガリって……。平均だからっ!

【それでヒューバート様の勝負は、どーなったって書いてあるっすか?】

 テンガに聞かれ、俺は忘れてたと手紙の続きに目を通す。

「んー、またたく間に返り討ちにあったみたい」
【やはりな】

 コクヨウは予想通りでつまらんとばかりに、再び丸まって寝に入る。テンガもホタルも残念そうな声を出し、くるりと背を向けた。負けたとわかって興味がなくなったようだ。
 仕方なく一人で手紙の続きを読み始める。

『そう言えば女子寮のもくよくも改修することになったらしいね。女子寮は男子寮より新しいはずだが、それでも改修を決めたことには驚きだ。さすがフィルだね。兄としてとても誇らしいよ』

 ……そうなんだよね。ようやく一段落ついたと思ったのに。
 頭を下げて、ハァァーっと深いため息を吐く。

【……?】

 その息でコハクの頭の羽毛が揺れたらしく、何の風かと見上げられた。
 俺は、ごめんごめんと指でコハクを撫でる。
 男子寮の改修作業が終わったと思ったら、今度は女子寮を頼まれるなんてなぁ。
 いくつであっても、女の子はお年頃らしい。
 男子のほうがツヤツヤピカピカでいい匂いでは、とても近くにいられないとクレームが出たのだ。
 その原因がお風呂であることが判明し、女子寮も改修することになったのである。
 そんな理由で学校側に申請が通るのか? と思ったのだが、意外にもあっさり受理された。
 なんでも女子寮にはお金持ちの娘さんがいて、寄付として改修費を全額持ってくれたのだとか。
 おかげでいちいち木を育てることなく、パドルーの木材を買うことができた。
 まぁ、今回俺の出番は少ないから、まだいいのかなぁ。
 男子寮で使った設計図はあるし、前回の職人さんがまたやってくれるので、作業内容はわかっている。
 俺の仕事はマクベアー先輩とコンクリートを作って、あとは木のつぎの設計図を見せて職人さんに教えるくらい。
 ……ハッ! これで高等部とか初等部とかも改修って言い出したらどうしよう! 
 いや、高等部はゆくゆく進学するつもりだから、改修してもいいの……かな?
 もしそうなったとしても、何とか俺が介入しない方法で済ませたい。
 俺はうなりながらアルフォンス兄さんの手紙を封筒に戻した。

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