転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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4巻

4-5

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 木々の隙間から漏れる日差しは、森に入る時とは角度が変わっていた。あと数時間経てば、日が暮れるだろう。
 怪我をしているクロードさんがいるため、俺たちはお互いの聞きたいことを話しながら、ゆっくりと湖に戻っていた。
 コクヨウを先頭に、俺とラミア、セリナさんとナタリーさん、クロードさんとカイルという二列で進む。

「やっぱり聖属性の動物の探索だったんだね。無事で良かったよ」

 ラミアたちが森にいた経緯を聞きながら、俺は微笑む。

「えぇ、そうね。本当に、運が良かったわ」

 彼女は笑みを浮かべ、少し目を伏せた。
 やはりこの事件、レイたちの言っていた通り、ギルドレイク大司教が関わっているのかなぁ。
 ラミアたちはそうだとは言わないけど……って、怪しくても話さないか。内部のことだものな。

「ねぇ、フィル君、質問してもいい?」

 後ろを歩くセリナさんに声をかけられ、俺はチラリと彼女を振り向いた。

「何です?」
「さっきフィル君、七歳って言ったじゃない? 最年少での入学者ってことでしょ。それって潜在的な能力に関係なく、優秀ってことよね?」

 あまりにもストレートな質問すぎて、俺は苦笑した。

「ちゃんと試験を受けて入りましたよ。自然に愛されている自覚はありませんが、その辺りは試験とは全く関係ないです。というか……僕の他に、首席で合格した優秀な七歳がいますよ」

 セリナさんはぎょっとして、最後尾のカイルを振り向いた。

「まさか、カイル君!? 君、七歳とか言わないよね?」

 急に話題を振られたカイルは、焦って首を振った。

「いえ、俺は十二歳です。どちらかと言えば、勉強より剣術が得意なほうで」
「良かった。年相応だわ」

 ホッとするセリナさんとは対照的に、クロードさんは眉間にシワを寄せた。

「しかし、潜在的に力があったり、剣術が得意だったりしても学生だ。少年がたった二人で来るなんて……」

 ゼノさんに聞いてラミアたちの捜索に来たと話したら、クロードさんが一番驚いてたもんな。

【我もいるのだから問題ない。退屈しのぎにはなったな】

 コクヨウは先ほどの戦闘を思い出したのか、楽しげに尻尾を揺らしてご機嫌だ。
 あれで……退屈しのぎ。結構ヒヤリとしたところがあったんだけど。

「それでも、捜索に来てくれて助かったわ。でなければ、軍の救助が来るまで、あの場所から動けなかったでしょう」

 ラミアの言葉に、ナタリーさんが沈痛なおもちで頷く。

「そうですね。クロードさんの足も、悪化していたかもしれないです」

 クロードさんは、ラミアをかばった際に山犬の角が足に刺さって負傷したのだという。
 幸い、例の風はまとっていなかったらしいが、それでも相当痛かったはずだ。
 ラミアの召喚獣によって止血はされていても、れて熱を持っていた。
 完全に治癒できていないあの状態のままだと、間違いなく悪化していただろう。

「足の痛みはどうです?」

 俺が振り返ってクロードさんに聞くと、彼は微笑んだ。

「君がしてくれた処置のおかげか、不思議なことにあまり痛みを感じない。この杖もとても歩きやすいし」

 そう言って、松葉杖を見つめる。
 松葉杖は、滝の冷水でれた足を冷やしている間、ヒスイに頼んで作ってもらったものだ。
 完全に骨が折れてはいないようだったが、ヒビが入っている可能性もあったので、俺はテンガを召喚して包帯を出してもらい、動かないように添え木をガッチリ固定した。
 衝撃吸収の綿も巻き込んだから足にかかる負担が軽減され、その分、痛みを感じにくいはずだ。

「もうそろそろ湖です。そこで休憩できると思いますよ」

 俺が言うと、辺りに注意を払いながら進んでいた神官たちは、ホッとしたように頷いた。

「滝でフィル君たちが言ってたけど、本当に山犬は現れなかったね」

 セリナさんはそう言って、チラリと今通って来た道を振り返る。

「安心するのは早いわ。まだ森を出ていないのよ」

 ナタリーさんの厳しい言葉に、セリナさんは小さく息を吐いた。

「わかってますよぅ。でも、山犬どころか、小動物さえ出てきませんよ」
「そうだけど……」

 ナタリーさんも同じように感じていたらしく、反論できずに口をつぐんだ。
 多分コクヨウがいるから、動物が出てこないんだよなぁ……。
 俺はトテトテと前を歩く子狼の後ろ姿を見つめた。その足さばきが可愛いくて、思わずほっこりする。
 だが、森の動物はきっと、一定の距離をたもって様子をうかがっているのだろう。
 ナタリーさんは俺のところまで早歩きで追いつくと、意を決したように言った。

「やはり、フィル君たちが…………魔獣を倒したんですか?」

 ジッと見つめて、ゴクリと大きくのどを鳴らす。
 セリナさんやクロードさんも気になるらしく、俺がどう答えるか待っていた。
 その辺りは、できればうやむやにしたかったけど、やっぱりダメか。
 俺は小さくため息を吐く。

「湖に到着する前に、言っておこうと思っていたんですけど……」

 俺はゆっくりと歩みを止めて、皆を振り返った。

「魔獣退治について、話すことはできません。僕たちが捜索に行ったことも、内密にしておいてもらいたいんです」

 ナタリーさんは、大きく目を見開いた。

「どうしてです? そう言うってことは、倒したのですよね?」

 俺は困った顔で、ナタリーさんを見上げた。

「僕たちが仮に、魔獣を倒したとしたら……どうなります?」
「幼い学生が魔獣を倒し、ラミア様を救出したとあれば、この国だけでなく世界的に名が通りますよ!」

 そう言って、彼女は興奮気味に手を広げる。
 …………だよねぇ。
 どう説明すれば理解してもらえるかと考えていると、ラミアが俺に向かって指を組んで祈る。

「わかりました。神に誓ってあなた方の意思を尊重し、お望みの通りにします」
「え! ラミア様!?」

 驚くナタリーさんを、ラミアはぐ見つめる。

「彼らは一般の学生で、平穏を望んでいるのです。このことが広まれば、聖教会が放っておくでしょうか? 何事もなく学生生活を送れると?」
「あ……」

 ナタリーさんは小さく声を漏らした。

「助けられた私たちが、彼らの生活をおびやかしてはいけません」

 威厳のある言葉に、ナタリーさんはシュンと肩を落とした。

「すみません」

 そう言って、俺とカイルに頭を下げる。
 俺は優しく微笑んだ。

「いえいえ。わかってもらえて、嬉しいです」
「私もラミア様に同意しますが、ゼノは魔獣に遭遇したとステア王国に知らせているのですよね?」

 クロードさんが困り顔で眉を下げ、セリナさんが息を呑む。

「ハッ! 魔獣はもういないのに、どうしよう! あとで探索に向かって魔獣が見つからなくても、私たち、嘘つき呼ばわりされないよね?」

 セリナさんがあわあわと、ラミアのコートをつかむ。
 そんな神官たちに、俺は「はい」と手を挙げた。

「それなんですが、今回のことはラミアたちの功績にしちゃったほうが良いかな、と思うんですけど?」

 俺が首を傾げてにこっと笑うと、神官たちはキョトンと目をまたたかせた。

「魔獣を退治したってことを?」

 ラミアに尋ねられて、俺はコックリと頷く。

「僕たちが表に立つわけにいかないんだから、それが一番いいよ」

 あごに手をやって考えていたカイルも、俺に同意した。

「確かに……そのほうが良いかもしれませんね。兵に救助を求めて騒ぎになったことも、魔獣を倒したことでそうさいされるでしょう」
「ね!」

 俺とカイルが頷き合うさまを、神官たちは呆気にとられたように見つめる。

「それで君たちがいいのなら……こちらとしてはありがたいが……」

 クロードさんの言葉に、セリナさんやナタリーさんもぎこちなく頷いた。

「よし、話がまとまったところで、湖まであと少し頑張りましょう」

 声をかけて、俺たちは再び湖に向かって歩き始めた。
 俺の隣を歩くラミアが、うつむき加減でつぶやく。

「少人数で行った私たちが、魔獣を退治したなんて……。皆が納得してくれるかしら?」

 独り言のように発せられたその声は、不安げに揺れていた。

「得体の知れない僕たちよりは、しんぴょうせいがあると思うよ」
「それは私が妖精と同化できる、ひめだから?」

 ちょう気味に言ったラミアは、今にも泣いてしまいそうだった。

「私には何の力もないのに……」

 それはこぼすつもりのない言葉だったのだろう。自分でも驚いたらしく、慌てて口をふさいで顔をらす。
 やっぱり……ひめの重責は、計り知れないんだろうな。とくにラミアは真面目な性格っぽいから、期待に応えようとし過ぎちゃうのかもしれない。
 俺はラミアに向かって、小さく笑った。

「力がなくてもいいんだよ」
「え……?」

 ラミアは驚いた顔で、俺を見る。思ってもみない台詞せりふだったらしい。

「ラミアは真面目で、優しいよね。他の人のことを常に考えてる」
「会ったばかりなのに、何でそんなこと言えるの?」

 当惑するラミアに、俺はニコッと微笑んだ。

「知り合って間もないけど、言動でわかるよ。ラミアは他人の気持ちに寄り添える人だ。だから、それだけでいいんだよ。できることだけで」
「フィル……」

 ラミアが目を見開いて、俺を見つめる。ラミアの透き通った瞳は、とても綺麗だった。
 そんな俺とラミアの間に、突然セリナさんが割り入ってきた。

「フィル君。ラミア姉様は見た目少女でも、中身は二十一歳なんだから!」
「……知ってます」

 セリナさんにジトリと睨まれて、俺は困惑する。
 何で睨まれてんだろう。俺、何か変なことしたかな?

「年が近いような気になって、口説いたらダメよ!」
「は?」

 目をまたたかせる俺を置いて、セリナさんは話し続ける。

「ラミア姉様はひめなんだから! そりゃ、クリティア聖教会は結婚可能な宗教ではあるけど、姉様はする気はないって言ってるし、何より私が認めた人じゃないと……ハッ!」

 ペラペラと話していたセリナさんは、不穏な空気を感じてラミアを振り返った。

「セリナ、こっちにいらっしゃい」

 にっこり微笑んだラミアに連れられ、セリナさんが列の後方へ行く。
 湖に着くまでの数十分、セリナさんは懇々こんとお説教をされていた。
 いったい……何だったんだ?


   ◇ ◇ ◇


 ステア王立学校の休息日、私――ライオネル・デュラントは、実家でもある王宮に帰っていた。
 王宮の廊下から窓の外を眺めると、ちょうど庭師が花を植え替えているところだった。冬に備え、寒さやしもに強い種類の花にしているのだ。
 もうそんな時期か……。
 そういえば、以前訪れた時に見た風景と今とでは、庭の景色や色合いが変わっていた。葉の鮮やかな色付きは、秋の盛りを感じさせる。
 王宮に帰ってきたのは、どのくらいぶりだろうか?
 以前は休息日の度に、祖母や両親に挨拶に来ていたのに。今はほとんど、寮で過ごしている。
 フィル・テイラ君が入学してからというもの、日々があっという間に過ぎてゆく。
 この前は『オフロ』というものを造った。私は見ているだけだったけれど、あれは本当に面白いものだ。造り方や様式ももちろんだが、オフロ自体も大変素晴らしかった。
 我がステア王国では、今まで湯にかるという文化はなかった。
 だが、オフロに入るようになって以来、睡眠の質がいい。なかなか眠れない体質だったのに寝つきが良くなり、そのおかげか体調を崩すことも少なくなった。
 マクベアーも疲れが取れると言っていたし、先日オフロができたばかりの女子寮でも好評だと聞く。
 これまで色々な書物を読んできたが、フィル君の知識は私の知らないことばかりだ。
 入学式の時は随分小さな生徒が入ってきたものだと思ったが、今はこの学校に来てくれたことに感謝している。
 今日はお祖母ばあ様に、寮で起こった色々な話を聞かせよう。きっと興味を持つはずだ。
 小さく笑って庭から廊下に視線を戻すと、前方から三人歩いてくるのが見えた。
 白地に青が入った服を着ているのを見るに、クリティア聖教会の神官のようだ。身につけている装飾や胸元の石の色から、司教や大司教だとわかった。しかも、見覚えのある人物がいる。
 あれは確か、ギルドレイク大司教だ。小さい頃、何度か会ったことがある。
 向こうもこちらに気づいたらしく、隣を歩く司教に向けていたけわしい表情を一変させた。にこやかに近づいてくると、うやうやしくこうべを垂れる。

「これはこれはライオネル殿下、お久しゅうございます。数年会わぬうちに、随分成長されましたな。しかし聡明なお顔立ちは、全くお変わりにならない」

 そう言って、にっこりと口角を引き上げる。仮面のごとく、貼りつけられた笑みだった。
 ――思い出した。私は昔から、彼のこの笑い方が好きではなかった。
 裏表あるのが悪いと言っているわけではない。社交界に、作り笑いは必須だ。
 しかし彼の場合、それとはまた違う質を感じていた。
 私は微笑み、ゆっくりと頷いた。

「ありがとう。ギルドレイク大司教も、色々と多忙だと聞いています。そんな貴方あなたが、我が国を訪れているとは知りませんでした。今日はどのようなご用向きで?」

 彼が身分によって対応を極端に変える性質たちであることは、噂に聞いていた。身分べっを良しとしないステア王国の考えを、理解できないということも。
 大きなパーティーの時以外、単独でこちらに来ることもなかったのに、いったいどうしたのだろうか?
 ギルドレイクは笑顔を貼りつけたまま、口を開いた。

「実は少し前から、クリティア聖教会ステア王国支部の視察に来ていたのです。しかし、きゅうきょ本部に戻らなければならず、その前に女王陛下にご挨拶を、と」

 支部の視察……? いつも他の者任せだと聞いたが……。
 不思議に思ったものの、それは顔には出さなかった。

「そうでしたか。では、もう帰国されるのですね」
「ええ、もう少しいるつもりだっただけに、実に残念です。また来ることがあれば、殿下とゆっくりお話をさせていただきたいものですな」
「ええ、その時を楽しみにしています」

 微笑むと、ギルドレイクは再びうやうやしくこうべを垂れた。
 ギルドレイクと別れ、えっけんの間へ向かう。
 彼が挨拶をしに行ったばかりであれば、えっけんの間か、奥にあるしょさいにお祖母様がいるはずだ。

「女王陛下、ライオネル殿下がいらっしゃいました」

 近衛兵が扉を開くと、玉座にはステア王国の女王テレーズ・デュラントがいた。
 私の父方の祖母で、よわい七十であるが、とてもそうは見えない。
 少女のようにれんな笑顔を見せると、玉座から立ち上がった。

「ライオネル、よく来ました」

 淡い黄色のドレスを揺らしながら、ゆっくりと階段を下りてくる。
 私は早歩きで近づき、小柄な彼女を優しく抱きしめた。

「こちらに顔を出せず、申し訳ありません」
「良いのよ。それだけ学生生活が充実しているということでしょう。さぁ、向こうのしょさいで話を聞かせてちょうだい」

 嬉しそうに微笑んで、しょさいへといざなう。
 当初、私が学校に通うことに、両親は難色を示していた。病弱なため、寮生活についていけないだろうと思ってのことらしい。
 だが、私の意思を尊重してくれたのが、祖母テレーズだ。同じ年頃の子と学び、生活することに意義があると口添えしてくれた。

「たくさん話したいことがあるんです」
「ええ、表情からわかるわ。学生生活を楽しんでいるようね。聞くのが楽しみだわ」

 目尻にしわを作り、嬉しそうに笑う。
 玉座の裏手にある扉を開け、祖母専用のしょさいに向かう。もともとここはしょさいではなかったのだが、祖母が部屋を造り変えてしまった。
 中には机と、ゆったり座れる長椅子がある。窓以外の壁際には本棚が並んでいて、天井まで本で埋め尽くされていた。
 うちの家系は本好きが多いのだが、お祖母様は特にその気質が強い。今もなお探究心おうせいなようで、以前にはなかった本が棚に並べられていた。
 長椅子に座り、用意されたお茶でのどうるおす。

「そう言えば、先ほど廊下でギルドレイク大司教と会いましたが……」

 彼の名前を出すと、彼女は困った顔で微笑んだ。どうやら、彼の目的は挨拶だけではなかったようだ。

「何かあったのですか?」

 お祖母様は少し間を置いて、息を一つ吐いた。

「先日、北の森で聖教会が聖属性の動物の調査を行ったのよ」

 聖属性の動物の調査は、時折行われることだ。

「北の森に、聖属性の動物がいるのですか?」
「わからないわ。けいこくにいるとの情報を受け、下調べもしたと言うから許可したのだけれど……。森の探索中に、山犬の群れと魔獣に襲われたらしくて……」

 表情を曇らせたお祖母様の言葉に、思わず息を呑む。

「魔獣?」

 北の森に魔獣がいるなんて、初めて聞いた。中に分け入る人が少ないから、知られていなかったのだろうか?
 北の見張り台は、あくまで他国の進軍の有無を確認するためのものだ。
 だが、魔獣が出るようになったのであれば、何かしら対策を立てなければならない。

「しかし、下調べが行われたとおっしゃいましたよね?」
「調べが不十分だったのか、それとも意図してか……」

 お祖母様のため息に、私は眉をひそめる。

「意図的……ということは、魔獣がいるとわかっていて、調査隊を送ったということですか?」
「調査隊の五人のうち一人は、ひめラミアだったというわ。なくもないでしょう」

 五人という人数の少なさにも驚いたが、ひめの名前が出てさらにきょうがくした。
 各国を渡り布教活動をしていることの多い彼女が、何故なぜ調査隊などに加わっていたのか。
 その理由はわからないが、お祖母様の言う『意図』の意味は察することができた。
 ひめの人気は目覚ましい。しかし、光の当たるところには当然影があり、邪魔に思う者も少なからずいるのだ。

「それで、ひめは無事なのですか?」

 お祖母様は微笑んで頷いた。
 それを見て、ホッと胸を撫で下ろす。

「魔獣からよく逃げられましたね」
「いえ。何でもその人数で、魔獣を倒したのだとか」

 お祖母様が小さく笑うので、冗談かと思った。

「……魔獣を、ですか?」
「ええ、クリティア聖教会の信者は、さすがひめ様だとたたえているそうよ。それが真実かどうかは、私にはわからないけれど」

 お祖母様同様、自分もにわかには信じられない。
 聖教会の神官には、聖属性の浄化系の能力を持つ動物を召喚獣にしている者がいる。そんな召喚獣がいれば、退治することも可能だろうが……。しかし、それにしては人数が少なすぎる。
 ひめの妖精同化能力は、それほどすごいものなのだろうか?
 考え込んでいると、お祖母様は手を小さく叩いた。それから、にっこりと微笑む。

「この話はここまでにしましょう。それよりも、学校の話を聞きかせて欲しいわ」

 まだ自分の中で消化しきれないものがあるが、このまま考えても推測の域を出ることはないだろう。

「最近どういったことがあったの?」

 促され、先ほどお祖母様に話そうと思っていた話題を口にする。

「面白い新入生が入ったのです。フィル・テイラという学生なのですが……」
「フィル・テイラ?」

 名前を聞いて、お祖母様の瞳が少しだけ反応する。

「知っていますか?」
「ええ。新しい学生の書類には、全て目を通しているから。彼の噂は学校長や先生方から色々と……目立つ生徒だとか……?」

 あぁ、そうか。優秀な彼ならば、教師から話がいくことも充分あり得る。色々と話そうと思っていたのだが……。
 すると、私の手を握り、お祖母様が優しく微笑んだ。

貴方あなたの目から見てどんな子なのか、とても興味があるわ。ぜひ聞かせてちょうだい」

 私が少なからず落胆したのを、悟られてしまったらしい。
 自分の子供っぽさに苦笑して、私はフィル君がいかに面白い生徒であるかを話し始めた。

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