転生王子はダラけたい

朝比奈 和

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5巻

5-7

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「センスは置いておいて。身につけていて、おかしくないのがいいな」

 ずっと身につけることになるなら、やはりファッション性も必要だ。ファッションに詳しいわけではないから、特に気をつけなきゃ。しみじみと、そう思う。

「じゃあ、フィルは革のアクセサリーで……。カイルは何を作るの?」

 トーマの質問に、カイルは眉をひそめるとポツリと呟いた。

「革のベルト……」
「まさか……細長い革に穴をあけて、金具を付けておしまいじゃないよね?」

 カイルは手先は器用なのだが、ものすごくシンプルな物を作る。
 大抵の子は、物を作ると自分の持ち味を出そうとするものだ。名前を掘ってみたり、普通は四角くするところにカーブをつけてみたり。
 だがカイルの場合、あえて特徴を入れない、見本みたいなシンプルなものを作っている。
 先ほど手作りは味わいが出ると言ったが、カイルの場合、その味わいがかなり薄い。
 無個性が持ち味と言えば、そうなのかもしれないけれど……。

「駄目……ですかね?」

 うつむきがちに、上目遣いで俺を見つめる。
 ……捨てられた子犬みたいな仕草をするでない。そんなに個性を出すのが苦手か。

「いや、いいんだけどね。せっかくカイルだけの、この世界に一つだけのべルトでしょ? かっこいいの作ろうよ」

 俺が困り顔で言ったその時、トーマが「あ!」と言ってポンと手を打った。

「そうだ! 革に焼きごてで模様をつける方法を教わったじゃない? あれをやれば、かっこいいよ」

 さすが職人の子。いいアイデアだ。

「おぉ! それいいね」

 俺が笑顔で同意すると、カイルも「なるほど」と呟く。

「確かに模様の入ったベルトはかっこいいわね」

 ライラは想像したベルトが良いものだったのか、「うんうん」と頷いた。

「トーマは何を作るの?」

 アリスが微笑みながら尋ねると、トーマはニコッと笑う。

「布で召喚獣の洋服を作ってあげようかと思って。メアリーとエリザベスのおそろいの服」

 ベイル先輩に洋服の作り方を習って以来、トーマは召喚獣たちに可愛い洋服を着せることが楽しくてしょうがないらしい。まぁ、気持ちはわからないでもない。実際可愛いし。
 エリザベスたちも嬉しいのか、ドレスを着ている時は大人しいもんな。

「加工の時間内で作るから、多分簡単なものになっちゃうとは思うんだけど」

 しょうなトーマとしては、時間が足りなくて作りこめないと思っているのだろう。眉を下げて、残念そうに呟く。

「でも、きっと可愛いのが作れるわよ。トーマは手先が器用だもの」

 アリスの言葉に、トーマは照れたように頭をいた。

「んで、レイは?」

 ライラがついでとばかりに話を振ると、ソファの端でうなっていたレイは眉をひそめる。

「もうちょっと興味を示せ」
「だってねぇ……」

 ライラはそう言って、部屋の脇にある棚に目をやった。
 俺の作品同様、この部屋にもレイが加工の授業で制作した品が置いてあった。
 しかし、ペン立てはペンを入れたら倒れそうなので使えず、トレイは木を平らに削れずぼこぼこしているため、カップを載せると転がる仕様になっている。
 仕方ないので、レイの作品は棚にオブジェと一緒に飾ってある。
 ライラの言いたいことがわかったのか、レイは悔しそうに唇をむ。

「確かに、このままでは俺の単位が危うい。だからこの自由課題で盛り返す!」

 そう言って、レイは立ち上がった。

「本立てを作る! 彫刻して立派なの!」

 そんなレイに、皆は頭を抱える。
 ライラは長いため息をついて、レイを見上げた。

「親切心から言うけど。不器用なんだから、ったのはやめときなさいよ」
「だって、盛り返さないと……」

 レイはねて、口をとがらせる。

ったものに挑戦して失敗したら、意味がないだろう」

 さとすカイルの言葉に、俺も困り顔で頷く。

「簡単なのでいいと思うよ? 僕の革のアクセサリーは多分そんなに難しくないから、一緒に作ろう?」

 そう言った途端、レイは座っている俺にすがりついた。

「よろしくお願いしますっ!! 俺の単位がかかってるから!」

 …………責任重大だな。


   ◇ ◇ ◇


 そうして始まった加工の授業の自由制作。
 教室では、先生に工程チェックを受けた生徒から順に作業に入っていた。
 ざわめく教室の中、ジョエル・ボイド先生が俺とレイの前に立つ。
 栗毛色の髪に、ブルーの瞳。三十代半ばの、若く優しげな印象の男性だ。
 ボイド先生を見ると、教育番組のお兄さんを思い出す。
 子供の頃からいろいろな職人を訪ねては技法を学び、自分でも新しい技法を編み出しているらしい。若いのにかなりの腕を持つと噂の先生だ。
 本人も初回の授業の時、物を作ることと技法を考案することが好きなのだと話していたっけ。
 彼みたいな人を、発明家と言うのかもしれない。
 俺とレイが紙を差し出すと、「どれどれ」と楽しそうに受け取る。紙には作りたい物と、それにまつわる簡単な説明、自分たちなりに考えた工程予定などが書かれている。

「なるほど。ではレイ・クライス君は、フィル・テイラ君と同じものを作るんだね?」
「はい。鉱石のアクセサリーを作ろうと思っています」

 単位がかかっているせいか、レイは真剣な様子でコクリと頷く。

「ふむ……僕が見た限り、難しい工程はなさそうだが……」

 ボイド先生は工程表を確認しながら、あごに手をあててうなる。

「はい。鉱石に穴をあけてかわひもを通すアクセサリーにしたので、難しいのは鉱石に穴をあけるところくらいかと……。ボイド先生が穴をあける道具を持っていると、シエナ先生からうかがっているんですが……」

 俺が言うと、ボイド先生はにっこりと笑顔で頷いた。

「ああ、いいのがあるよ。鉱石に綺麗な穴をあけるため、削る部分の固定や、削る時の振動を軽減するのに随分と試行錯誤したけれどね」

 その時の苦労を思い出したのか感慨深げに話すボイド先生に、レイは目を大きく見開いた。

「ボイド先生が、穴をあける道具を作ったんですか? すごいですね!」

 不器用なレイにとっては、道具を作るということ自体が信じられないらしい。
 そんなレイに、ボイド先生は照れ笑いをした。

「そういうのを考えるのが、好きなんだよ。ちょっと待っていてくれるかい?」

 先生は教務室に戻ると、何やらいろいろなネジや取っ手がついた機械を台車に載せて運んできた。鉄製で、挟んで固定するような部分がついている。形からいってまんりきだろうか。

「うわぁ、何かカッコイイ」

 もうすでに作業を開始していたトーマが、持ってきた機械をのぞき込む。
 他の生徒も気になるのか、作業の手を止めてこちらを見ていた。
 男の子はこういう機械系好きだよな。気持ちはわかる。

「ここに挟んで固定するんですね?」

 まんりきらしき部分を指して聞いた俺に、ボイド先生は頷いた。

「材料の鉱石は持ってきているかな?」

 俺が鉱石の一つを渡すと、ボイド先生は一センチほどの鉱石を左右から挟んで固定する。
 そしてその上に当てるように、長さ五センチほどの細いドリルがついた部品を取り付けた。
 あのドリル、ぞう色だな。鉄じゃないのか? 材質は何だろう。
 部品には、ドリルを動かすための仕掛けがついていた。横にある取っ手を回すと、連動してドリルが回転する仕組みらしい。
 なるほど。まんりきにハンドドリルが固定されているってわけか。

「この棒で穴をあけるんですよね? 硬い鉱石に使用して、棒が折れないですか?」

 レイが心配そうに細いドリルを見つめている。
 確かに、そのドリルは直径二、三ミリくらいだ。何だかきゃしゃで心もとない。
 だが、ボイド先生は自信満々に微笑んだ。

「もちろんだよ。これは鉄よりも固いと言われている、トカントのくちばしを削ったものだ。これ以上丈夫で硬く、鉱石を適切に削れるものはない」
「トカントのくちばし! それなら最適ですね!」

 トーマは手を叩いて、先生を褒めたたえる。
 トカントはすずめくらいの小さな鳥で、ドルガド国の固有種だ。
 特徴として、硬い岩を砕くくらいくちばしが硬い。彼らが好んで食べるエサが、岩に穴をあけてみつく虫なのだそうだ。トカントはキツツキのようにくちばしで岩をつつき、その虫を食べるらしい。
 多分、そのためにくちばしを進化させたんだな。
 ボイド先生は細いドリルを見ながら、遠い目をする。

「この細さにするのが一番大変だったよ。トカントのくちばしを、別のトカントのくちばしで削ってね」

 それは……確かに気が遠くなるような話だ。鉄より硬いトカントのくちばしだもんな。通常はそうやって作るしかないのか。

「まぁ、とりあえずやってみせよう。いいかい? こうやってゆっくりと……」

 ボイド先生が、取っ手をゆっくり回転させていく。するとキュイキュイと音を立てながら棒が回転し、鉱石を少しずつ削っていった。本当に少しずつではあったが、確実にくぼみを作っている。
 それをのぞき込んでいた生徒たちから、感嘆の声が上がる。

「これを作る前は、穴をあけずに宝飾加工していることが多かったんだよ」

 ボイド先生は得意そうに、にっこり笑う。
 確かに、これはすごい。これなら簡単に誰でも穴があけられる。鉱石を使って楽することも考えたけど、こっちの世界の発明にれるのも大変勉強になるな。

「これだったら、クライス君もうまくいくと思うな」

 ボイド先生の笑顔に、レイはぜんやる気になって嬉しそうに頷いた。


 それから加工作業が始まった。
 しかしそこは不器用なレイ、何事もないわけがない。
 俺は穴をあける鉱石の数が多かったので、レイに順番を譲ったのだが……。
 レイは火と風と氷の鉱石三個に穴をあけるだけにもかかわらず、周りを巻き込む騒動を起こした。
 まんりきにうまく固定できずに教室のどっかに鉱石を弾き飛ばすわ、ドリルを速く回し過ぎて鉱石を破壊するわ……レイを見ていたら、自分が穴をあける前に気疲れしちゃったよ。
 俺はレイに続いて鉱石に穴をあけ終え、皆のいる作業台に戻る。

「ようやく終わったぁ」

 慣れないハンドドリルはすごく大変だった。まんりきで締めていても、振動で軸がぶれないように慎重にやる必要があったのだ。
 すでに鉱石をかわひもに通す工程に移っていたレイは、俺を見て笑う。

「フィルは削る鉱石の数が多すぎなんだよ。俺みたいに少なくすれば簡単なのに」

 ……数十分前の自分のさんをもう忘れてしまったのか。

「たくさんある鉱石を、一つにまとめるのが今回の目的だからね。鉱石の数に妥協はできないよ」

 俺は一つ息を吐いて、作業台に鉱石を並べる。
 今回、アクセサリーに使う鉱石は、火・氷・土・風・霧、それから先日課外授業で見つけた闇と砂と吸引だ。
 これでも数が多いのだが、様々な色の鉱石をつなげると色のバランスが微妙なため、同じ鉱石を複数入れることにした。大小合わせて、計十一個の鉱石を使う。
 今回は授業だからまんりきを使ったけど、自分で再度作る時はウォーターカッターで穴をあけたほうが楽そうだな。

「それより、レイはかわひもに通し終わった?」

 俺は自分の工程を進める前に、ひょいとレイの手元を見た。
 そして固まる。
 レイの手元には、こんがらがったかわひも団子があった。

「何それ……」
「ただ鉱石を通すだけじゃつまらないから、手を加えてみたんだけど……。気づいたらこうなってた」

 レイは不思議そうに、こんがらがったかわひも団子を見つめる。
 不思議なのはこっちだよ。
 何でやった本人が驚いているんだろう。鉱石がかわひもの中に入り込んじゃって、すっかり見えないじゃないか。どうやったらそうなるんだ。

「レイ、予定じゃそのままひもに鉱石を通すんじゃなかったっけ?」

 俺が呆れ顔で言うと、レイは少しねた表情になる。

「だって、フィルは革を編み込むんだろう? 俺もかっこいいのがいい」

 あぁ、だから急に何かやろうとしたのか。やれやれ……。

「大丈夫だよ。レイ自身がかっこいいんだから、アクセサリーは簡素なデザインのほうがいいよ」
「……フィルがそう言うなら、そうしとこうかな」

 俺の言葉に気を良くしたレイは、嬉々ききとしてかわひもほどき始める。

ほどけたら教えてね。一緒にやろう」

 頷くレイを見ながら『これ以上こんがらがりませんように……』と心の中で祈る。

「さて、僕も作らなきゃ」

 鉱石の能力を使いやすくするため、今回作るのはブレスレットだ。
 グレスハートで鉱石の実験をした時に気がついたのだが、複数の鉱石を掲げ、それらに関連性のある言葉を言ったとしても、同時に発動されることはない。発動するのは、自分の中のイメージと一致した鉱石だけだ。
 例えば、「ふぶく」には「風吹く」と「吹雪く」という漢字があてられるが、風の鉱石と氷の鉱石を一緒に掲げて「ふぶく」と言っても、風をイメージしながらならば、風の鉱石だけが発動される。
 俺の場合、漢字を意識することでイメージがより強く固まるから、複数の鉱石を一緒に身につけていても、その辺りの想像があやふやになって同時発動することはないようだった。
 ちなみにその鉱石実験では、同じ色の鉱石を二、三個持っていても、発動する力が増幅するということもなかった。また、鉱石の大きさも発動する力には影響しない。
 同じ種類の鉱石で発動結果に差が生じたのは、鉱石に含まれる不純物の量によるものだ。不純物の少ない鉱石のほうが、威力に優れていた。
 だから今回は、これまで集めたものの中で最も不純物の少ない鉱石を用意した。
 シエナ先生お墨付きの、最上級品だ。
 かわひもの編み込みを終えると、バランスを見ながらそこに鉱石を通していく。
 穴をあけるところが一番大変だったので、ここまで来たら簡単なものだ。
 小さな砂の鉱石から始まって、氷、闇、風、火、中央が吸引、火、土、闇、霧、そしてまた最後に砂。
 太陽のモチーフのネックレスに入れたオレンジ色の光の鉱石と、白い石の指輪に埋め込まれている水の鉱石は代わりがないので、それらは入れなかった。

「できた」

 うん。センスがいいかどうかはわからないけど、まぁ良しとしよう。
 一心不乱に布に針を通していたトーマは、俺の言葉を聞いて顔を上げる。

「できたの? わぁ、いいね」
「ありがとう。トーマのも、もうすぐ完成しそうだね。リボンがいっぱい付いてて可愛い」

 俺が微笑むと、トーマは照れたように笑う。

「へへ。ありがとう。でも時間ぎりぎりまで作業するつもり。カイルのももうすぐできるみたい。さっきちょっとだけのぞいたけど、かっこいいんだよ」

 カイルを見れば、焼きごてを入れ終えて、金具を取り付ける段階にきているようだった。
 確かに、模様が手の込んだウェスタンベルトみたいでカッコイイ。
 だが、当のカイルは微妙な顔をしていた。

「派手……じゃないですかね?」

 そこまで多くの模様が入っているわけではないのだが、カイルは派手に感じるようだ。

「そんなことないよ」

 俺とトーマが笑顔で否定する。
 その時、俺の肩を叩く者がいた。レイだ。

ほどき終わった?」

 聞くと、レイはやはりどこか不思議そうな様子で、先ほどより複雑にこんがらがったかわひも団子を俺に見せた。

ほどいてたら、余計にこんがらがったんだけど……」

 ……何で。

ほどいてあげるよ」

 ため息交じりにそう言って、俺は差し出されたかわひも団子を手に取った。



 5


【フィル~フィル~】

 顔にペシペシと羽のれる感触がして、俺は「ん~」とうなる。
 うっすら目を開けると、薄暗い景色の中でコハクが俺をのぞき込んでいた。
 またか……。

「コハク、まだ朝じゃないよ……」

 またコハクのいたずらかと思い再び目を閉じると、今度は耳たぶを小さなくちばしつついてくる。

「ちょっ! わかったよ。それ、くっ、くすぐったいんだって」

 俺はその攻撃を避けるため、慌てて起き上がった。
 それから「よし、起こした!」とばかりに、フンスと勝利の鼻息をつくコハクを捕まえる。
 俺はチョンとコハクのくちばしを、指でつついた。

「あのね、コハク。朝起こしてくれるのは、とってもありがたいんだけど。今日は休息日でね。学校がお休みなの。だから……」

 優しくいていると、その言葉も終わらないうちに、コハクはピッと窓を指し示す。

「……窓? 窓に何かあるの?」

 コックリと頷くコハクに、俺は息を一つ吐いてベッドから抜け出す。
 その動きに、俺のかたわらで寝ていたテンガが頭を持ち上げた。

【もう朝っすかぁ?】

 まだ眠そうに前足で顔をこするので、俺はそんなテンガの頭を優しくでた。

「まだ寝ててもいいよ」

 本当は、俺もまだ眠っていたかったんだけどなぁ。
 苦笑しながら、ベッドの脇にかけていたカーディガンを肩に羽織る。
 ステア王国は、もう冬に入っていた。ホタルがいるので部屋は暖かいのだが、ホタルの能力範囲外に出るととても寒い。
 ちなみにこのカーディガンは、アルフォンス兄さんからもらったものだ。前にステラ姉さんからマフラーと手袋をもらったと手紙に書いたら、これを編んで送ってくれた。
 そう……、このカーディガンを編んだのだ。
 カーディガンとともに、添えられていた手紙には――
『寒いステア王国で、体調など崩していないかい?
 ホタルがそばにいるといっても、やはり心配なのでこれを送ります。
 以前、別の物を編んであげたことがあったよね。
 フィルも加工の授業を取っていると聞いたけど、私もステア王立学校にいた頃、加工の授業を受けていて、そこで編み物を習得したんだよ。
 少し模様にってしまったから、出来上がるのが遅くなってしまったけれど、これからくる寒い冬の助けになればいいな。
 これを着てマクリナ茶を飲んで、今度の冬期の長期休みに元気に戻ってきてくれることを楽しみにしているよ』
 ……なんてことが書かれていた。
 これはもちろん、何枚もの手紙の中から、ほんの一部を抜粋したものである。
 相変わらずブラコン街道まっしぐら……。
 まぁ、カーディガンに、ハートやら『ラブリーフィル』的な文字が編まれてないだけマシか。
 カーディガンは淡いグリーンと白の毛糸で、とても綺麗ながく模様が編み込まれていた。配色もデザインも素晴らしいものだ。
 これは、もしかしなくてもステラ姉さんへの対抗心だろうか?
 そしてこのカーディガンを見て、改めてアルフォンス兄さんの器用さに驚く。
 本当に何でもできるんだな。ステラ姉さんは小さい頃から編み物を習っていたし、ティリア国の皇太子と婚約してからより一層練習したらしく、上手なのは知ってるんだけど……。
 アルフォンス兄さんは授業で習っただけなのに、本当にすごい。
 いや、ステア王立学校の授業は職人養成も含まれているから、技術レベルはもともと高いけどさ。アルフォンス兄さんは、特に技術レベルの高い高等部に通っていたんだし。
 けど、それにしたって、このクオリティ……。
 その高い技術を使う相手が、弟だというのがどうも悲しい。
 この手紙にも書いてあるように、もらった編み物は実家にもある。アルフォンス兄さんが長期休みで帰って来た時に、俺やレイラ姉さんに編み物で作ったぬいぐるみをくれたのだ。
 あれも、相当クオリティが高かった。
 俺は別にぬいぐるみが好きというわけではなかったが、その編みぐるみの毛糸がモフモフでざわりがよかったので枕元に置いて寝ていた。そうしたら、アルフォンス兄さんは毎年くれるようになったのだ。
 いつかやめさせないと、コクヨウたちプラス編みぐるみで俺が埋もれることになるだろう。
 でも、くれる時のあの顔を見ちゃうと、なかなか断りにくいんだよなぁ。
 羽織ったカーディガンのがらを見ながら、眉間にしわを寄せてうなる。

【フィ~ル~】

 ねたようなコハクの声に、俺はハッとした。

「あぁ、ごめんごめん。窓だよね」

 俺はベッドの上で「プン!」とそっぽを向いたコハクを抱き上げ、指ででてなだめる。
 すると、なぜかコハクの頬の羽毛が少ししっとりしていた。
 不思議に思いつつ、コハクを肩に乗せて窓辺に向かう。
 窓は、白くくもっていた。だが窓の下の方に、小さな丸い跡がついている。どうやら、コハクが窓に顔をつけてのぞいていたらしい。
 あぁ、だから羽毛が濡れてたのか。
 俺は手で窓をこすって、外をのぞく。
 窓の外は……白銀の世界だった。

「雪だ」

 転生してから初めての雪だ。ステア王国に来て、初めて見る雪でもある。夜のうちから降ったのか、結構積もっているようだった。

【白いの!】

 コハクが鼻息荒く、窓の外を指す。
 そうか。コハクはこれを教えたかったのか。

「そうだね。雪って言うんだよ」
【ゆき! ゆき!】

 相当嬉しいのか、窓の外を見ながら、体を上下に伸び縮みさせる。
 コハクの種族の出身地は、砂漠の多いナハル国だし、グレスハート国も温暖な気候で雪が降ることはないもんな。

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