1
件
「セレナは悪くない。君が少し我慢すればいい」
侯爵夫人のエリザベスは、夫の従姉妹であるセレナに、何をされても夫は彼女を庇った。
エリザベスの大切なものを壊されても。
夫婦の時間を邪魔されても。
身に覚えのないことで責められても。
夫を愛していたエリザベスは、いつか彼が自分を選んでくれると信じて耐え続けた。
そんなある日、エリザベスは妊娠する。
愛する人との子供。
これでようやく、本当の家族になれる――そう思っていた。
だが、セレナはエリザベスの妊娠を知ると、あからさまに敵意を向けるようになった。
そしてある日、彼女の悪意によって、エリザベスは大切な我が子を失う。
泣き崩れるエリザベスに、夫がかけた言葉は――
「……子供は、まだ早いと思っていた。
それに、子などまたつくればいい」
その瞬間、エリザベスの中で何かが切れた。
「……そうですか」
もう、この人のために耐える必要はない。
夫の家を出たエリザベスは、行く場所を失い、実家へ戻る。
けれど、そこでも待っていたのは冷たい言葉だった。
「夫婦喧嘩に実家を巻き込むな」
「お前にも悪いところがあったんだろう」
そして彼女は、実家からも追い出された。
雨の降る夜。
ひとり彷徨う私の前に、一台の馬車が止まる。
そこから降りてきたのは――
幼い頃からずっと憧れていた、十二歳年上の公爵。
エリザベスの初恋の人、アダムだった。
「……エリザベス?」
もう誰にも必要とされないと思っていた私を、彼だけが迷わず手を差し伸べる。
「行く場所がないのなら、俺の屋敷へ来ればいい」
これは、愛する夫に捨てられ、すべてを失った令嬢が、かつての初恋の人に救われ、もう一度幸せを掴む物語。
そして――
自分が何を失ったのかを知った元夫の、遅すぎる後悔が始まる。
文字数 3,534
最終更新日 2026.08.25
登録日 2026.08.25
1
件