1
件
幕府に弓引いた少年たちは、縄をかけられた。
京へ向かう道は、あまりに長い。
将軍家の血を引く少年・足利春王丸とその弟・安王丸。
結城合戦の総大将の少年たちは、敗北の果てに捕らえられた。
戦に敗れた武士の子が、護送の道中で味わうのは、名誉の死ではなく、静かな屈辱だった。
武士の誇りを胸に抱く兄・春王丸。
生き抜くためには誇りすら手放す弟・安王丸。
過酷な旅路は、少年たちの尊厳と、兄弟の絆を徐々に引き裂いていく――
舞台は室町中期。
将軍・足利義教に反旗を翻した鎌倉公方・足利持氏は永享の乱で滅び、その遺児たちが結城の地に落ち延びた。
それから二年後、彼らは結城一族の力を借りて、旗を挙げる。
のちに「結城合戦」と呼ばれるこの関東の大乱は、少年たちの誇りとの戦いでもあった。
本作は、結城城落城の夜から始まる。
“敗者の旅路”の果てにあるのは生か死か――
静かに進んでいく護送の中で繰り広げられる心理劇。
敗軍の将として晒され、揺れ動く少年たちの心と、彼らを取り巻く人々の、生き様をリアルに描いた歴史小説である。
貧しい時代に甘えはなく、高潔な人間もいない。
少年たちの絶望の果てに見えるのは、希望かさらなる絶望か。
運命に縛られた少年たちの姿を描く、痛みと誇りの歴史心理劇。
[設定補足]
・春王丸(14歳)、安王丸(12歳)は史実より年齢を引き上げています。
・室町時代の文化や社会風俗(主従関係や身分差、捕虜の扱い、落城の様子、衆道、乱取りなどの文化・風習)を重視しています。
・現代とは価値観の異なる描写が含まれる場合がありますが、いずれも時代背景に基づく表現です。
・史実をベースにしたフィクションであり、一部オリジナルの設定を加えています。
・参考文献:『結城合戦絵詞』『永享記』ほか。
文字数 95,499
最終更新日 2025.06.23
登録日 2025.05.17
1
件