消費者にとっては、従来のように複数のサイトを横断して検索する手間が省けるわけです。販売事業者にとっては、広告費をかけてSEOやECモール内ランキングを上げる必要がなく、AIプラットフォーム内で商品が『最適』と判断されれば自然に購入につながります」(小平氏)
米調査会社ガートナーは「2026年までにオンライン購買の30%がAIエージェント経由で行われる」と予測している。もしこれが現実になれば、数兆ドル規模の市場シェアが再編されることになる。
すでにAI検索エンジン「Perplexity」もショッピング機能を導入しているが、OpenAIのACPは一歩進んでいる。
Perplexityはあくまで外部ECサイトとリンクする形だが、ChatGPTは会話空間そのものを購買プロセスに変える。さらにオープンソースプロトコルによって販売者が「勝手に」接続できるため、エコシステムの広がりは格段に大きい。
言い換えれば「インターネットに商品ページを置くだけで、自動的にChatGPTが販売の窓口になってしまう」世界が来るということだ。
一方で、課題も多い。
・無意識決済のリスク
会話の流れで「じゃあそれ買う」と入力すれば即時決済される仕組みは、消費者保護の観点からリスクが高い。誤クリックや誤入力でも購入が成立してしまう可能性がある。
・補償・返品の責任問題
既存のECでは出店者やプラットフォームの規約に基づき返品や補償が整備されているが、AI経由の購入では「AIの提案ミス」の責任が誰にあるのかが不透明だ。
・決済情報・個人情報の漏洩リスク
AIサービスが購買履歴や決済情報を保持する以上、情報漏洩のリスクも高まる。特にLLMの学習データに誤って組み込まれるリスクは技術的課題として指摘されている。
これらを克服するためには、規制やガイドラインの整備が不可欠だろう。
ではアマゾンや楽天はどう動くのか。
「アマゾンはすでに自社生成AI『Amazon Q』を強化しており、検索から購入までの体験をAI主導に変えつつあります。楽天も独自の生成AI活用を打ち出し、会員基盤と楽天経済圏を活かしてユーザーを囲い込みにかかっています。
しかし、消費者が『最初にアクセスするのはAI』という習慣を身につければ、AIプラットフォームに主導権が移るのは避けられません。
特に日本市場は『楽天経済圏』と『Amazon依存』が二大柱ですが、AIが“中立の購買窓口”として普及すれば、消費者はモールを意識せず、AIが最適と判断した商品を購入するようになるでしょう」
AIによるショッピングは単なる新機能ではなく、ECのパラダイムを根本から変える可能性を秘めている。
従来は「検索エンジン → ECサイト → 決済」という流れだったのが、これからは「AIとの会話 → 直決済」となる。
このシフトが進めば、「検索エンジンが世界の入口」だった時代のように、「AIが購買の入口」を独占する時代が到来する。
ただし、普及の速度は「安心感」と「規制」に大きく依存する。補償やセキュリティが整備されなければ、消費者は既存ECに留まる可能性も高い。
いずれにせよ、AIによる“無摩擦購買”はもはや不可逆的な潮流であり、世界のEC事業者は対応を迫られることになる。
AIがECを飲み込むのか、それとも既存ECがAIを取り込み共存するのかーー。市場規模はすでに数兆ドル単位に上る。OpenAIとグーグルが仕掛けた「AIショッピング」は、テクノロジー業界の収益化フェーズ突入を告げる象徴的な一手だ。
この動きが本格化すれば、私たちが「どこで買うか」ではなく、「どのAIに任せるか」を選ぶ時代が、すぐそこに来ている。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部、小平貴裕氏/ITジャーナリスト)