もちろん課題も少なくない。最大の難点は「環境価値をどう数値化するか」だ。J-クレジットのようにCO2吸収量だけを基準にすれば簡潔だが、静岡市が重視するのは水の貯留機能や生態系保持など目に見えにくい価値である。これを第三者が認める形で評価・認証するのは容易ではない。
また、こうしたクレジットは必ずしも国の温室効果ガス削減目標に算入できるわけではない。そのため「どの企業が買うのか」「市場でどの程度の価値がつくのか」は不透明だ。担当者も慎重に語る。
「国の温室効果ガス削減量としてカウントできないため、どれだけ企業の関心を引き込めるかが成否を分けます」
静岡市は将来的に、今回の方法論を市内全域や民有林にも広げたい考えだ。すでに市有林だけでなく民有林での調査も予定されている。制度が成熟すれば、市民や地域企業が寄付や協賛を通じて参加する道も開けるだろう。
さらに、環境林が価値を持てば、観光や教育と連動する可能性もある。自然体験や環境教育の拠点として活用すれば、地域ブランド向上にもつながる。
静岡市の試みは、森林を「木材生産」から「環境資本」へと再定義する挑戦だ。気候変動対策の一環としてカーボンクレジットは注目されるが、静岡市の取り組みはそれを単なるCO?削減の道具にとどめない。
「生態系サービスの価値をどう社会に埋め込むか」という問いは、自治体や企業に共通する学びを与える。都市開発や産業振興だけでなく、地域資源を持続的に管理する仕組みをどう構築するか。そのモデルケースになる可能性がある。
静岡市の取り組みは、単なる森林政策の一環にとどまらず、「森林を環境資本としてどのように社会に位置づけ直すか」という大きな挑戦といえる。従来のように木材を生産して経済的価値を生む「循環林」だけではなく、公益的な機能を担う「環境林」にも光を当て、その価値を「カーボンクレジット」という新しい市場に乗せて可視化・収益化しようとしている。
この方針転換の背景には、森林整備にかかるコストや人手不足といった構造的課題がある。木材価格の下落や人件費の高騰により、森林の維持は補助金頼みになりがちだった。しかし、カーボンクレジットという仕組みを通じて「環境林が持つ水源涵養・災害防止・生物多様性保全といった機能」に市場価値を与えることができれば、整備のインセンティブを生み、補助金に頼らない持続可能な管理体制が可能になる。
また、クレジットの収益は森林所有者や地域に還元される見込みであり、企業がカーボンニュートラルの一環として購入することで「環境貢献の見える化」にもつながる。
この実証実験は「森林の公益的機能を資産化する」という点で先駆的であり、他の自治体や企業にとっても大きな示唆を与える。今後、環境林の整備やカーボンクレジットの市場形成が進めば、静岡市は「持続可能な森づくり」を先導するモデルケースとなりうるだろう。
つまり、この挑戦は「静岡市の森林を守る」だけではなく、「地域の未来を守る」ための一歩である。読者にとっては、環境価値をどう社会に埋め込み、持続可能性と経済性を両立させるかという普遍的なテーマを考えるきっかけとなるだろう。
(文=BUSINESS JOURNAL編集部)