プーマは“中国企業”になるのか?2750億円出資が揺らす世界スニーカー覇権

 プーマの欧米販売網とアンタのアジア支配力が融合すれば、地理的空白はほぼ埋まる。今回の出資は、世界制覇への“ラストピース”との見方もある。

「中国ブランド」時代の到来

 アンタだけではない。Li-Ning(李寧)、361°、回力(ワーリアー)など、中国ブランドの層は厚い。テクノロジー開発力、国内巨大市場、政府支援という三位一体の構造は、かつての日本電機メーカー全盛期を彷彿とさせる。

「スポーツブランドは文化産業でもあります。資本の流れは単なる企業買収にとどまらず、価値観の発信源がどこにあるかという問題に直結する」(同)

 プーマの“跳ねる豹”がロゴのままでも、その経営判断が北京や上海の資本論理に強く影響される未来は、決して非現実的ではない。

日本勢の逆襲:テックと「聖域」

 この大再編のなかで、存在感を増しているのが日本勢だ。

アシックス:プレミアム・ランニングへの集中

 アシックスは「シリアスランナー」へ経営資源を集中。欧州の一部市場でシェア首位を奪取し、DTC強化によって利益率を大幅改善した。

「アシックスの強みは人体工学データの蓄積です。単なる厚底ではなく、怪我予防とパフォーマンス向上を両立させる設計思想がある」(同)

 流行ではなく、テクノロジーに根ざした価値創出。それがブランドの再評価につながった。

ミズノ:競技者という“聖域”の死守

 ミズノは野球、陸上、バレーボールなど「道具」としての信頼が重要な領域で強固な基盤を維持。部活動やトップアスリートとの結びつきは、巨大資本でも容易には崩せない。

「ミズノはマス市場ではなく“ガチ層”を取る戦略。価格競争ではなく、信頼の積み重ねで勝負している」(同)

問われる「ブランドの魂」

 スポーツ用品業界は今、「規模の経済を追う中国ジャイアント」「再起を図る欧米老舗」「技術的聖域を守る日本勢」の三極構造へと移行しつつある。

 消費者は何を選ぶのか。巨大資本によって再編された名門か。それとも足元の体験を支えるテクノロジーか。

 2026年現在、スポーツビジネスは単なるファッション産業ではない。国家戦略、サプライチェーン、データテクノロジー、そして文化的影響力が交錯する巨大産業である。

 プーマの株主名簿の変化は、その象徴的な一歩にすぎない。数年後、世界の若者が履くスニーカーの裏には、どの国の資本と思想が刻まれているのか――。その答えは、いま静かに書き換えられつつある。

(文=BUSINESS JOURNAL編集部)