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「ボースハイト伯爵。レフィーナに謝罪をしていただけますか?妻も…かなり怒っているようですしね」
「それならば、ドロシー様に謝罪いたしましょう。確かに侍女を貶すと言うことは主であるドロシー様をも貶すということ…。いやはや、失念していましたな。申し訳ない」
アングイスがドロシーに謝罪する。しかし、その謝罪は言葉だけで、本心では悪いと思っていない事などすぐに分かった。
それに、一番謝らなければならないはずのレフィーナの方などチラリとも見ていない。
身を寄せてくる令嬢など振り払って、レフィーナの側に行きたい。父親だと言い張るのなら、一発くらい殴っても構わないだろうか、などと本気で考え始める。
「…さぁ、ヴォルフ。いい加減、婚約者は決まったかね」
レオンとの会話を身勝手に終わらせて、アングイスが話しかけてくる。
ヴォルフはそんなアングイスの言葉に返事もせず、無表情に見返した。反抗的なヴォルフの態度にアングイスが肩をすくめる。
「…やれやれ。まだ分からんのかね。そこの女を愛してるなどという感情など、一時的なものだ。貴族になるなら貴族と結婚しなければならない。いい加減、使えない女は捨てろ」
今日、初めて会ったというのに、身勝手なものだ。今までこの男は自分の存在など気にもとめていなかっただろうに。おそらく何か裏があるのだろう。
まぁ、そんな物は何だって良いが。ヴォルフの中にはこの男の息子になるという選択肢など存在しないのだから。
レオンの制止のするような視線にヴォルフは、もう一度感情を抑え込んだ。
「……ボースハイト伯爵。どうやらレフィーナに謝罪する気も無さそうですし…これ以上は流石に許容できませんね。即刻、そこの令嬢達と共に立ち去って頂きたい」
「レオン殿下。これは私と息子との問題です。正直、口を出して頂きたくありませんな。それに、先程からそこの侍女を庇っておいでのようですが…舞踏会の時にはそこの侍女への態度は素っ気なかったではないですか。ドロシー様のお気に入りとはいえ、レオン殿下がそこまで謝罪を求める必要があると思えませんがね」
「……確かに、少し気持ちの整理が付かなくて素っ気なくしていましたが…」
ピリピリとした空気の中で、レオンが俯いて短く息を吐き出す。再びアングイスに視線を向けた時、レオンはすっきりとした表情を浮かべていた。
その表情にヴォルフはレオンがなぜここまで自分を制止していたのかが分かった。レオンにはアングイスを黙らせられる手があるのだ。
レオンは晴れやかな表情のまま、口を開く。
「…全く、母上がここまで予想していたとしたら、恐ろしいね」
「は?」
「あの書類とペンをここに」
「はい、かしこまりました」
「レオン殿下…、もしかして…」
「あぁ。待たせたね、ドロシー。…いつまでもグチグチしていたら情けないだろう?レフィーナも許すし…、婚約者として気付く事も止める事も出来なかった、その情けない事実をしっかり受け止めるよ」
ふっとレオンがドロシーに笑いかける。ドロシーの表情がぱっと明るくなって、彼女はレフィーナの方に視線を移した。
ヴォルフにもレオンの言う書類が何の事か分かる。ここに来た初日に教えてくれた、レフィーナの身分を回復する物だろう。レフィーナを見れば、状況が飲み込めないのか、戸惑った表情を浮かべている。
やがてレオンの従者が言い付けられた物を持って来た。それを受け取ったレオンは書類をテーブルに広げて、さらさらと何かを書き込んだ。
状況が掴めずにいたアングイスが何か閃いたように、深い笑みを浮かべる。
「もしや、ヴォルフの騎士の任を解く書類ですかな?…いやぁ、さすがレオン殿下。よく分かっていらっしゃる」
「まぁ!では、ヴォルフ様は正式に貴族になるのですわね!」
「あんな身分落ちした女を捨てる時ですわ!」
アングイスの言葉に勢いを得たのか、取り囲んでいる令嬢が今まで以上にヴォルフに馴れ馴れしく抱きつてきた。よほどレフィーナより自分達の方がヴォルフにふさわしいと思っているのだろう。ヴォルフからすれば、一番嫌いなタイプだ。
レフィーナを好きになる前だったのなら、吐き気まで感じている事だろう。
レフィーナのおかげで、今は過去に囚われなくなった。彼女を好きになって良かったと心からそう思う。ヴォルフがレフィーナを捨ててまで得たいと思う物など、この先もずっとないだろう。
そんな風に考えているとレオンが書き終えたようで、それをアングイスに差し出した。アングイスは書類を受け取って目を通し始める。
「何ですかな。……王太子妃専属侍女レフィーナ。国王ガレン=アゼス=ベルトナと以下5名の名において…アイフェルリア公爵家に……戻る事を許可する………?」
意味を理解してアングイスがざぁっと顔を青くさせる。そして、震える手で書類をテーブルに置いた。
ヴォルフがテーブルに置かれた書類に視線を移せば、アングイスが読んだ文面の下に5名のサインが見えた。
王妃のレナシリアやドロシーはもちろん、ドロシーの父のルイス侯爵やアイフェルリア公爵のサインもある。そして、一番最後にレオンのサインが書かれていた。
「それならば、ドロシー様に謝罪いたしましょう。確かに侍女を貶すと言うことは主であるドロシー様をも貶すということ…。いやはや、失念していましたな。申し訳ない」
アングイスがドロシーに謝罪する。しかし、その謝罪は言葉だけで、本心では悪いと思っていない事などすぐに分かった。
それに、一番謝らなければならないはずのレフィーナの方などチラリとも見ていない。
身を寄せてくる令嬢など振り払って、レフィーナの側に行きたい。父親だと言い張るのなら、一発くらい殴っても構わないだろうか、などと本気で考え始める。
「…さぁ、ヴォルフ。いい加減、婚約者は決まったかね」
レオンとの会話を身勝手に終わらせて、アングイスが話しかけてくる。
ヴォルフはそんなアングイスの言葉に返事もせず、無表情に見返した。反抗的なヴォルフの態度にアングイスが肩をすくめる。
「…やれやれ。まだ分からんのかね。そこの女を愛してるなどという感情など、一時的なものだ。貴族になるなら貴族と結婚しなければならない。いい加減、使えない女は捨てろ」
今日、初めて会ったというのに、身勝手なものだ。今までこの男は自分の存在など気にもとめていなかっただろうに。おそらく何か裏があるのだろう。
まぁ、そんな物は何だって良いが。ヴォルフの中にはこの男の息子になるという選択肢など存在しないのだから。
レオンの制止のするような視線にヴォルフは、もう一度感情を抑え込んだ。
「……ボースハイト伯爵。どうやらレフィーナに謝罪する気も無さそうですし…これ以上は流石に許容できませんね。即刻、そこの令嬢達と共に立ち去って頂きたい」
「レオン殿下。これは私と息子との問題です。正直、口を出して頂きたくありませんな。それに、先程からそこの侍女を庇っておいでのようですが…舞踏会の時にはそこの侍女への態度は素っ気なかったではないですか。ドロシー様のお気に入りとはいえ、レオン殿下がそこまで謝罪を求める必要があると思えませんがね」
「……確かに、少し気持ちの整理が付かなくて素っ気なくしていましたが…」
ピリピリとした空気の中で、レオンが俯いて短く息を吐き出す。再びアングイスに視線を向けた時、レオンはすっきりとした表情を浮かべていた。
その表情にヴォルフはレオンがなぜここまで自分を制止していたのかが分かった。レオンにはアングイスを黙らせられる手があるのだ。
レオンは晴れやかな表情のまま、口を開く。
「…全く、母上がここまで予想していたとしたら、恐ろしいね」
「は?」
「あの書類とペンをここに」
「はい、かしこまりました」
「レオン殿下…、もしかして…」
「あぁ。待たせたね、ドロシー。…いつまでもグチグチしていたら情けないだろう?レフィーナも許すし…、婚約者として気付く事も止める事も出来なかった、その情けない事実をしっかり受け止めるよ」
ふっとレオンがドロシーに笑いかける。ドロシーの表情がぱっと明るくなって、彼女はレフィーナの方に視線を移した。
ヴォルフにもレオンの言う書類が何の事か分かる。ここに来た初日に教えてくれた、レフィーナの身分を回復する物だろう。レフィーナを見れば、状況が飲み込めないのか、戸惑った表情を浮かべている。
やがてレオンの従者が言い付けられた物を持って来た。それを受け取ったレオンは書類をテーブルに広げて、さらさらと何かを書き込んだ。
状況が掴めずにいたアングイスが何か閃いたように、深い笑みを浮かべる。
「もしや、ヴォルフの騎士の任を解く書類ですかな?…いやぁ、さすがレオン殿下。よく分かっていらっしゃる」
「まぁ!では、ヴォルフ様は正式に貴族になるのですわね!」
「あんな身分落ちした女を捨てる時ですわ!」
アングイスの言葉に勢いを得たのか、取り囲んでいる令嬢が今まで以上にヴォルフに馴れ馴れしく抱きつてきた。よほどレフィーナより自分達の方がヴォルフにふさわしいと思っているのだろう。ヴォルフからすれば、一番嫌いなタイプだ。
レフィーナを好きになる前だったのなら、吐き気まで感じている事だろう。
レフィーナのおかげで、今は過去に囚われなくなった。彼女を好きになって良かったと心からそう思う。ヴォルフがレフィーナを捨ててまで得たいと思う物など、この先もずっとないだろう。
そんな風に考えているとレオンが書き終えたようで、それをアングイスに差し出した。アングイスは書類を受け取って目を通し始める。
「何ですかな。……王太子妃専属侍女レフィーナ。国王ガレン=アゼス=ベルトナと以下5名の名において…アイフェルリア公爵家に……戻る事を許可する………?」
意味を理解してアングイスがざぁっと顔を青くさせる。そして、震える手で書類をテーブルに置いた。
ヴォルフがテーブルに置かれた書類に視線を移せば、アングイスが読んだ文面の下に5名のサインが見えた。
王妃のレナシリアやドロシーはもちろん、ドロシーの父のルイス侯爵やアイフェルリア公爵のサインもある。そして、一番最後にレオンのサインが書かれていた。
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