82 / 97
82
しおりを挟む
「馬鹿な…一度落ちた身分が戻るなどあり得ない!」
アングイスは青ざめた顔のまま、絞り出すように声を出した。レオンはそんなアングイスに静かな口調で言葉を返す。
「…普通はそうですね。レフィーナは確かに令嬢として相応しくない行動をし、ドロシーにも暴言を吐いていました。…しかし、一度も手は出していない」
「…だからといって…」
「レフィーナを公爵家に戻すのは簡単な話ではありません。…国王や王妃は勿論、元婚約者であった私や被害者であったドロシー。そしてドロシーの父であるルイス侯爵。レフィーナを公爵家から追放したアイフェルリア公爵。レフィーナに関わっていたそれらの人々の、同意のサインがなければ、ね」
レオンの言葉を聞きながらヴォルフはレフィーナに視線を移す。レフィーナは今起こっている事に驚いているようだ。それもそうだろう。一度落ちた身分が戻るなど聞いたことがない。
レオンがアングイスから視線を外して立ち上がり、レフィーナの方に向き直った。
「レフィーナ。……君は、君が望めばいつでも公爵家に戻る事が出来る。仮に貴族に戻らないとしてもアイフェルリア公爵家の娘として、名を名乗ることは許されるだろう」
「…レ、オン殿下…、でも、私は…レオン殿下にも、ドロシー様にも…酷いことを、したのに…」
緋色の瞳を揺らしながらレフィーナがそう言えば、レオンは優しい笑みを浮かべた。それからレオンはテーブルに置かれた書類を手に持つと、レフィーナへと差し出す。
「そうだね。…だから、それを含めて私達は君を許したんだよ。…レフィーナ=アイフェルリア」
「名、前…」
侍女になってからは名乗る事も呼ばれる事も許されなかった姓が、レオンの口から紡がれた。
レフィーナはそれを聞いてぐっと唇を噛み締めている。その表情は涙をこらえているものだった。また公爵家との繋がりが出来て嬉しいのだろう。
これでレフィーナは両親にいつでも会えるようになったのだから。
レフィーナはレオンから書類を受け取り、大切そうに胸に抱いた。
「…ありがとうございます」
レフィーナの礼にレオンが頷く。そして、レオンはくるりとアングイスの方へ向き直った。
「これでレフィーナはただの侍女ではなくなりましたよ、ボースハイト伯爵」
「そ、そうですな…。公爵家、公爵家ですか!よかったな、ヴォルフ!公爵家のご令嬢ならば、お前に相応しいではないか!」
動揺していたアングイスがぱっと笑みを浮かべて、そんな事を言いだした。あれだけレフィーナを侮辱していた事も忘れてしまったようだ。
そんなアングイスにレオンがため息をついて、口を開く。
「やれやれ…呆れたね。ヴォルフ、もう好きにしなよ。…よく我慢したね」
その言葉を聞いた瞬間に、ヴォルフはまとわり付いていた令嬢達の腕を振り払った。レフィーナに身分が戻った事にショックを受けていたのか、令嬢達は軽い衝撃にも耐えられず、地面に尻餅をついた。
ヴォルフは呆然と見上げてくる令嬢達に冷めた視線を向けてから、アングイスへ鋭い視線を投げる。レオンから許しは出たが、流石に暴力を加える訳にはいかない。
だが、この男を黙らせるくらいは出来る。
「…先程から私が貴方の息子だとおっしゃっていますが、証拠でもあるのですか」
「は?そんなの、当たり前だろう。こんなに姿が似ているのだから、親子に決まっているだろう!」
確かにヴォルフ自身もアングイスと容姿が似通っているとは思う。しかし、容姿が似ているからと言って、親子だという証拠にはならない。
そんな物は否定してしまえばそれまでだ。
「他人のそら似では?別に髪色も瞳も珍しい色ではありませんし」
「…なら、母親の名前を言おう。スフェアだろう?お前の母親は私の屋敷でメイドをしていたんだ。子供が出来たから追い出したが」
母親の名前はアングイスの言う通り、スフェアだ。母親が元々プリローダの出身という事を考えても、この男が父親だという可能性は高いだろう。認める気はないが。
ヴォルフはいつも違う男を連れていた母親を思い出す。そして、口端を歪めて笑った。
「あいにくですが、母は男好きでしてね。貴方以外にも関係を持っていたでしょうね。それだけでは私が貴方の息子だという事にはなりませんよ」
「なっ…!いいのか…?私の息子にならなければ、そこの公爵令嬢とは一緒になれないんだぞ!貴族は貴族としか、結婚出来ないのだからな!」
アングイスが勝ち誇ったような表情を浮かべた。確かに貴族は貴族としか結婚できない。だが、もう自分の中で答えは決まっているのだ。
今更そんな事を言われても動揺などしない。
ヴォルフはアングイスから目を逸らさず、静かに話す。
「……それがなにか?」
「なんだと…?結婚、したくないのか?そこの令嬢と!」
「えぇ、勿論したいですよ」
「だったら、お前に残された道は私の息子として、貴族になることだろう!」
「いいえ。そんなものにならずとも…俺はレフィーナの両親が許してくれるまで…何回でも説得して頭を下げるだけです。レフィーナと結婚できるまで、俺は諦めませんから」
レフィーナと結婚するのに、この男の息子という肩書など必要ない。もしレフィーナの両親に反対されたとしても、ここで断った事をヴォルフが後悔する事などないだろう。
アングイスは青ざめた顔のまま、絞り出すように声を出した。レオンはそんなアングイスに静かな口調で言葉を返す。
「…普通はそうですね。レフィーナは確かに令嬢として相応しくない行動をし、ドロシーにも暴言を吐いていました。…しかし、一度も手は出していない」
「…だからといって…」
「レフィーナを公爵家に戻すのは簡単な話ではありません。…国王や王妃は勿論、元婚約者であった私や被害者であったドロシー。そしてドロシーの父であるルイス侯爵。レフィーナを公爵家から追放したアイフェルリア公爵。レフィーナに関わっていたそれらの人々の、同意のサインがなければ、ね」
レオンの言葉を聞きながらヴォルフはレフィーナに視線を移す。レフィーナは今起こっている事に驚いているようだ。それもそうだろう。一度落ちた身分が戻るなど聞いたことがない。
レオンがアングイスから視線を外して立ち上がり、レフィーナの方に向き直った。
「レフィーナ。……君は、君が望めばいつでも公爵家に戻る事が出来る。仮に貴族に戻らないとしてもアイフェルリア公爵家の娘として、名を名乗ることは許されるだろう」
「…レ、オン殿下…、でも、私は…レオン殿下にも、ドロシー様にも…酷いことを、したのに…」
緋色の瞳を揺らしながらレフィーナがそう言えば、レオンは優しい笑みを浮かべた。それからレオンはテーブルに置かれた書類を手に持つと、レフィーナへと差し出す。
「そうだね。…だから、それを含めて私達は君を許したんだよ。…レフィーナ=アイフェルリア」
「名、前…」
侍女になってからは名乗る事も呼ばれる事も許されなかった姓が、レオンの口から紡がれた。
レフィーナはそれを聞いてぐっと唇を噛み締めている。その表情は涙をこらえているものだった。また公爵家との繋がりが出来て嬉しいのだろう。
これでレフィーナは両親にいつでも会えるようになったのだから。
レフィーナはレオンから書類を受け取り、大切そうに胸に抱いた。
「…ありがとうございます」
レフィーナの礼にレオンが頷く。そして、レオンはくるりとアングイスの方へ向き直った。
「これでレフィーナはただの侍女ではなくなりましたよ、ボースハイト伯爵」
「そ、そうですな…。公爵家、公爵家ですか!よかったな、ヴォルフ!公爵家のご令嬢ならば、お前に相応しいではないか!」
動揺していたアングイスがぱっと笑みを浮かべて、そんな事を言いだした。あれだけレフィーナを侮辱していた事も忘れてしまったようだ。
そんなアングイスにレオンがため息をついて、口を開く。
「やれやれ…呆れたね。ヴォルフ、もう好きにしなよ。…よく我慢したね」
その言葉を聞いた瞬間に、ヴォルフはまとわり付いていた令嬢達の腕を振り払った。レフィーナに身分が戻った事にショックを受けていたのか、令嬢達は軽い衝撃にも耐えられず、地面に尻餅をついた。
ヴォルフは呆然と見上げてくる令嬢達に冷めた視線を向けてから、アングイスへ鋭い視線を投げる。レオンから許しは出たが、流石に暴力を加える訳にはいかない。
だが、この男を黙らせるくらいは出来る。
「…先程から私が貴方の息子だとおっしゃっていますが、証拠でもあるのですか」
「は?そんなの、当たり前だろう。こんなに姿が似ているのだから、親子に決まっているだろう!」
確かにヴォルフ自身もアングイスと容姿が似通っているとは思う。しかし、容姿が似ているからと言って、親子だという証拠にはならない。
そんな物は否定してしまえばそれまでだ。
「他人のそら似では?別に髪色も瞳も珍しい色ではありませんし」
「…なら、母親の名前を言おう。スフェアだろう?お前の母親は私の屋敷でメイドをしていたんだ。子供が出来たから追い出したが」
母親の名前はアングイスの言う通り、スフェアだ。母親が元々プリローダの出身という事を考えても、この男が父親だという可能性は高いだろう。認める気はないが。
ヴォルフはいつも違う男を連れていた母親を思い出す。そして、口端を歪めて笑った。
「あいにくですが、母は男好きでしてね。貴方以外にも関係を持っていたでしょうね。それだけでは私が貴方の息子だという事にはなりませんよ」
「なっ…!いいのか…?私の息子にならなければ、そこの公爵令嬢とは一緒になれないんだぞ!貴族は貴族としか、結婚出来ないのだからな!」
アングイスが勝ち誇ったような表情を浮かべた。確かに貴族は貴族としか結婚できない。だが、もう自分の中で答えは決まっているのだ。
今更そんな事を言われても動揺などしない。
ヴォルフはアングイスから目を逸らさず、静かに話す。
「……それがなにか?」
「なんだと…?結婚、したくないのか?そこの令嬢と!」
「えぇ、勿論したいですよ」
「だったら、お前に残された道は私の息子として、貴族になることだろう!」
「いいえ。そんなものにならずとも…俺はレフィーナの両親が許してくれるまで…何回でも説得して頭を下げるだけです。レフィーナと結婚できるまで、俺は諦めませんから」
レフィーナと結婚するのに、この男の息子という肩書など必要ない。もしレフィーナの両親に反対されたとしても、ここで断った事をヴォルフが後悔する事などないだろう。
26
あなたにおすすめの小説
私が王子との結婚式の日に、妹に毒を盛られ、公衆の面前で辱められた。でも今、私は時を戻し、運命を変えに来た。
MayonakaTsuki
恋愛
王子との結婚式の日、私は最も信頼していた人物――自分の妹――に裏切られた。毒を盛られ、公開の場で辱められ、未来の王に拒絶され、私の人生は血と侮辱の中でそこで終わったかのように思えた。しかし、死が私を迎えたとき、不可能なことが起きた――私は同じ回廊で、祭壇の前で目を覚まし、あらゆる涙、嘘、そして一撃の記憶をそのまま覚えていた。今、二度目のチャンスを得た私は、ただ一つの使命を持つ――真実を突き止め、奪われたものを取り戻し、私を破滅させた者たちにその代償を払わせる。もはや、何も以前のままではない。何も許されない。
【完結済】破棄とか面倒じゃないですか、ですので婚約拒否でお願いします
紫
恋愛
水不足に喘ぐ貧困侯爵家の次女エリルシアは、父親からの手紙で王都に向かう。
王子の婚約者選定に関して、白羽の矢が立ったのだが、どうやらその王子には恋人がいる…らしい?
つまりエリルシアが悪役令嬢ポジなのか!?
そんな役どころなんて御免被りたいが、王サマからの提案が魅力的過ぎて、王宮滞在を了承してしまう。
報酬に目が眩んだエリルシアだが、無事王宮を脱出出来るのか。
王子サマと恋人(もしかしてヒロイン?)の未来はどうなるのか。
2025年10月06日、初HOTランキング入りです! 本当にありがとうございます!!(2位だなんて……いやいや、ありえないと言うか…本気で夢でも見ているのではないでしょーか……)
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
婚約破棄で、おひとり様になれるはずだったのに!?
パリパリかぷちーの
恋愛
主人公ルシアン・ヴァイオレットは、「悪役令嬢」として振る舞う孤独愛好家の公爵令嬢。念願だった第一王子アランとの婚約破棄を言い渡されると、内心では歓喜し、大都会の喧騒から逃れて森の奥の廃墟同然の別荘へと引きこもる。ルシアンの目的は、誰にも邪魔されない至高の静寂ライフを満喫することだった。
しかし、彼女の理想郷にはすでに先客がいた。それは、無口で無愛想だがハイスペックな謎の男、キース。実は彼は、王国の裏社会を統べる『影の英雄』と呼ばれる辺境伯であり、ルシアンの孤高の姿に心奪われた重度の隠れファンだった。
婚約破棄された人たらし悪役令嬢ですが、 最強で過保護な兄たちと義姉に溺愛されています
由香
ファンタジー
婚約破棄のその日、
悪役令嬢リリアーナは――弁明すら、しなかった。
王太子と“聖女”に断罪され、すべてを失った彼女。
だがその裏で、王国最強と名高い三人の兄と、
冷静沈着な義姉が、静かに動き始めていた。
再検証によって暴かれる“聖女の嘘”。
広場で語られる真実。
そして、無自覚に人を惹きつけてしまう
リリアーナの優しさが、次々と味方を増やしていく――。
これは、
悪役令嬢として断罪された少女が、
「誰かの物語の脇役」ではなく、
自分自身の人生を取り戻す物語。
過保護すぎる兄たちと義姉に溺愛されながら、
彼女は静かに、そして確実に幸せへ向かっていく。
はじめまして、旦那様。離婚はいつになさいます?
あゆみノワ@書籍『完全別居の契約婚〜』
恋愛
「はじめてお目にかかります。……旦那様」
「……あぁ、君がアグリア、か」
「それで……、離縁はいつになさいます?」
領地の未来を守るため、同じく子爵家の次男で軍人のシオンと期間限定の契約婚をした貧乏貴族令嬢アグリア。
両家の顔合わせなし、婚礼なし、一切の付き合いもなし。それどころかシオン本人とすら一度も顔を合わせることなく結婚したアグリアだったが、長らく戦地へと行っていたシオンと初対面することになった。
帰ってきたその日、アグリアは約束通り離縁を申し出たのだが――。
形だけの結婚をしたはずのふたりは、愛で結ばれた本物の夫婦になれるのか。
★HOTランキング最高2位をいただきました! ありがとうございます!
※書き上げ済みなので完結保証。他サイトでも掲載中です。
実は家事万能な伯爵令嬢、婚約破棄されても全く問題ありません ~追放された先で洗濯した男は、伝説の天使様でした~
空色蜻蛉
恋愛
「令嬢であるお前は、身の周りのことは従者なしに何もできまい」
氷薔薇姫の異名で知られるネーヴェは、王子に婚約破棄され、辺境の地モンタルチーノに追放された。
「私が何も出来ない箱入り娘だと、勘違いしているのね。私から見れば、聖女様の方がよっぽど箱入りだけど」
ネーヴェは自分で屋敷を掃除したり美味しい料理を作ったり、自由な生活を満喫する。
成り行きで、葡萄畑作りで泥だらけになっている男と仲良くなるが、実は彼の正体は伝説の・・であった。
婚約破棄に、承知いたしました。と返したら爆笑されました。
パリパリかぷちーの
恋愛
公爵令嬢カルルは、ある夜会で王太子ジェラールから婚約破棄を言い渡される。しかし、カルルは泣くどころか、これまで立て替えていた経費や労働対価の「莫大な請求書」をその場で叩きつけた。
「殿下、人違いです」どうぞヒロインのところへ行って下さい
みおな
恋愛
私が転生したのは、乙女ゲームを元にした人気のライトノベルの世界でした。
しかも、定番の悪役令嬢。
いえ、別にざまあされるヒロインにはなりたくないですし、婚約者のいる相手にすり寄るビッチなヒロインにもなりたくないです。
ですから婚約者の王子様。
私はいつでも婚約破棄を受け入れますので、どうぞヒロインのところに行って下さい。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる