真柴さんちの野菜は美味い

晦リリ@9/10『死に戻りの神子~』発売

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「どうしても受け取ってもらえないか」
『お、俺には不相応です。持っていても使わないし…飾るのも、割れるのが怖いので…』
「陶器なんだから、いつかは割れるさ。それに、俺が君に贈ったんだ。壊れようが長持ちしようが、俺は構わないよ」
『それは……い、いえ、いえ、違います。もう送ってこないで下さいと言ったはずです』
「そうは言われても、君の家の前に咲いてる花を生けたら似合うだろうなと思ったんだ。摘んでもいいものなら、あれを飾ってみてくれないか」
『あれは野草です! じゅ、じゅじゅ、十五万円もする花瓶なんですよね? 野草でも確かにきれいな花ですけど、不釣り合いですから! ……じゃなくて! そうじゃなくて、お願いですからもう郵送はしないでください』
「でも俺は、毎日は君のところに行けないんだ。本当なら毎日でも会いに行って、俺がどれだけ君をつがいにしたいか囁きたいし、どれだけこの気持ちが真剣かわかってほしい。でも俺にも仕事がある。だから、せめて君への想いの証としてプレゼントを贈っているんだ。世の恋人たちだってそうだろ? 記念日だけじゃなく、相手にあうものを見つけて買ってしまう。それを贈る。自然なことじゃないか」
『それがこ、ここ、恋人、なら、自然かもしれません。でも、俺はあなたとは』
「阿賀野徳磨だ。あなた、なんて他人行儀な」
『赤の他人です!』
「今はそうかもしれないが、俺は決めてるんだ。俺は、君を、つがいにする。君は俺のためのオメガなんだ」
 ガチャン!とひどい音がして通話が切れる。
 ランチタイムを終え、社員たちが各々社屋へ戻ってくるのを曇りひとつない社長室の窓から眺めながら、阿賀野はツーツーと通信が遮断された音だけを響かせるスマートフォンをスリープモードに移行させた。
 愛を素直に囁くのは悪いことではないと、異国生まれの母は言っていたし、阿賀野自身もそう思っている。なのでまったく恥ずかしくはなかったが、あれやこれやと様々な手練手管でどうにか聞き出した電話をかけては、最終的に円満ではない切られ方をする日々がここのところは続いていた。
 けれどもメールだけだった先週までと比べれば、大分前進している。
 今日は五分も会話が続いたと、まるで初めての恋に浮かれる小学生のような心持ちでふんふんと鼻歌など歌いながらなんとはなしに窓の外を眺めたままでいると、背後でコンコンとノックの音が響いた。
「須藤です、戻りました」
 入室の許可などとくには取らず、とりあえずと言った様子で声を掛けて入ってきた須藤は、はいどうぞとクリアファイルに挟まったいくつかの書類を出した。
「会計課から上がってきた先月の収支報告書。こっちがやきとり居酒屋徳鳥で、こっちがパティスリー・エクラ…って、やだ、なに? にやにやしちゃって」
「真柴君と話をしていた」
「今日の進捗は?」
「三歩進んで二歩下がる感じだな」
「退いてないだけマシなのかしらね」
「一週間前はメールだったのが、今じゃ電話だ。大進歩だろ」
「そうね。はいはい、それじゃあ大進歩した社長さん、どうせ週末は多馬村に行くんでしょ? それまでには仕事をちゃんと片付けてくださいね」
 働け働けとファイルやらフォルダやらをバサバサと積み重ねられ、まるで空気でも読んだように、仕事用のパソコンのデスクトップにはメールを受信した旨の通知があがった。
 予定よりも時間はかかっているが、真柴には近付けている。
(難しい仕事の方がやりがいがある)
 まだ誰も開拓していない新しい事業を展開する時のような、開いた店がSNSやメディア、口コミで一気に広まっていくときのわくわく感のような、そんな高揚感がある。
 難しいほど攻略のしがいはあるし、無理難題だろうが、それをクリアする自信も実力もある。
 来週からは少し戦法を変えてみようかと上機嫌で鼻歌など歌いながら処理を待つファイルを開く上司の姿に須藤は呆れ顔で肩をすくめたが、当の本人は気付いているのかいないのか、軽快に書類の承認欄にサインを走らせた。



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