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第18話 側近たちの変化
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私がライオネル公爵の執務を手伝うようになってから、彼の側近たちと顔を合わせる機会も増えてきた。ヴァルテンベルク公爵家には、代々仕える優秀な家臣たちが数多くいる。その中でも、特に公爵の信頼が厚く、常に彼の傍に控えているのが、軍務総長のゲルハルト将軍と、内政顧問のエルンスト様だった。
ゲルハルト将軍は、熊のように大柄で、顔にはいくつもの戦傷が刻まれた、いかにも歴戦の勇士といった風貌の男性だ。その眼光は鋭く、声も大きい。私が初めて執務室で彼に会った時など、まるで尋問でもするかのような厳しい視線を向けられ、思わず身が竦んでしまったほどだ。
一方、エルンスト様は、細身で神経質そうな印象の文官で、いつも銀縁の眼鏡の奥から、人を分析するような冷たい目で私を見ていた。彼の言葉は常に理路整然としていて、無駄がない。そして、どこか私を試すような、意地の悪い質問を投げかけてくることもあった。
彼らにとって、私はおそらく「公爵閣下がお側に置かれている、よく分からない異国の元婚約破棄令嬢」程度の認識だったのだろう。私の能力に対しても、当然ながら懐疑的だったに違いない。公爵が私に意見を求める様子を見ても、最初のうちは「また公爵閣下のお気まぐれか」とでも言いたげな、冷ややかな空気が漂っていた。
(まあ、仕方ないわよね……。実績も何もないのだから……)
私は、彼らのそんな態度にもめげず、ただ黙々と公爵から与えられた仕事に取り組んでいた。いつか、認めてもらえる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。それでも、今自分にできることを精一杯やるだけだ、と。
変化の兆しが見え始めたのは、やはり孤児院の件が成功を収めてからだった。あの報告書は、公爵だけでなく、側近たちの間でも回覧されたらしい。
ある日、執務室で公爵と次の案件について話し合っていると、珍しくゲルハルト将軍が会話に加わってきた。
「ほう、アリアナ嬢のその視点は、なかなか面白いな。確かに、兵站の効率化においても、現場の声を吸い上げる仕組みは重要だ。机上の計算だけでは見えてこない問題も多いからな」
以前の彼なら、私の意見など鼻で笑っていたかもしれない。けれど、その時の彼の口調には、ほんの少しだが、私の考えを認めようとする響きが含まれていた。
エルンスト様も同様だった。私が提出した、ある地域の税収に関する分析レポートを読んだ後、彼は珍しく私に直接声をかけてきたのだ。
「……ベルンシュタイン嬢。このレポートの、特に過去の判例との比較分析の部分は、非常に興味深い。どのような資料を参考にされたのか、後で詳しく聞かせてもらっても?」
その言葉は、相変わらずどこか刺々しい響きはあったものの、以前のようなあからさまな軽蔑の色は消えていた。むしろ、私の知識や分析能力に対して、純粋な関心を示しているようにさえ感じられた。
もちろん、彼らが私を完全に認めてくれたわけではないだろう。けれど、少なくとも「ただのお飾りではないかもしれない」くらいには、思ってくれるようになったのかもしれない。それは、私にとって大きな進歩だった。
公爵邸という、厳格で、実力主義の世界の中で、私はほんの少しずつだけれど、自分の足で立つ場所を確保し始めている。それは、マーサが言ってくれた「お嬢様の価値を理解してくださる方が必ずいらっしゃいます」という言葉が、現実になりつつある証なのかもしれない。
そんなある日、ライオネル公爵が、私に思いがけない提案をしてきた。
「アリアナ。近々、北部の鉱山地帯と、いくつかの地方都市を視察する予定がある。……君も、同行しないか?」
それは、私がこの公爵邸に来て以来、初めて受ける「屋敷の外」への誘いだった。
ゲルハルト将軍は、熊のように大柄で、顔にはいくつもの戦傷が刻まれた、いかにも歴戦の勇士といった風貌の男性だ。その眼光は鋭く、声も大きい。私が初めて執務室で彼に会った時など、まるで尋問でもするかのような厳しい視線を向けられ、思わず身が竦んでしまったほどだ。
一方、エルンスト様は、細身で神経質そうな印象の文官で、いつも銀縁の眼鏡の奥から、人を分析するような冷たい目で私を見ていた。彼の言葉は常に理路整然としていて、無駄がない。そして、どこか私を試すような、意地の悪い質問を投げかけてくることもあった。
彼らにとって、私はおそらく「公爵閣下がお側に置かれている、よく分からない異国の元婚約破棄令嬢」程度の認識だったのだろう。私の能力に対しても、当然ながら懐疑的だったに違いない。公爵が私に意見を求める様子を見ても、最初のうちは「また公爵閣下のお気まぐれか」とでも言いたげな、冷ややかな空気が漂っていた。
(まあ、仕方ないわよね……。実績も何もないのだから……)
私は、彼らのそんな態度にもめげず、ただ黙々と公爵から与えられた仕事に取り組んでいた。いつか、認めてもらえる日が来るかもしれないし、来ないかもしれない。それでも、今自分にできることを精一杯やるだけだ、と。
変化の兆しが見え始めたのは、やはり孤児院の件が成功を収めてからだった。あの報告書は、公爵だけでなく、側近たちの間でも回覧されたらしい。
ある日、執務室で公爵と次の案件について話し合っていると、珍しくゲルハルト将軍が会話に加わってきた。
「ほう、アリアナ嬢のその視点は、なかなか面白いな。確かに、兵站の効率化においても、現場の声を吸い上げる仕組みは重要だ。机上の計算だけでは見えてこない問題も多いからな」
以前の彼なら、私の意見など鼻で笑っていたかもしれない。けれど、その時の彼の口調には、ほんの少しだが、私の考えを認めようとする響きが含まれていた。
エルンスト様も同様だった。私が提出した、ある地域の税収に関する分析レポートを読んだ後、彼は珍しく私に直接声をかけてきたのだ。
「……ベルンシュタイン嬢。このレポートの、特に過去の判例との比較分析の部分は、非常に興味深い。どのような資料を参考にされたのか、後で詳しく聞かせてもらっても?」
その言葉は、相変わらずどこか刺々しい響きはあったものの、以前のようなあからさまな軽蔑の色は消えていた。むしろ、私の知識や分析能力に対して、純粋な関心を示しているようにさえ感じられた。
もちろん、彼らが私を完全に認めてくれたわけではないだろう。けれど、少なくとも「ただのお飾りではないかもしれない」くらいには、思ってくれるようになったのかもしれない。それは、私にとって大きな進歩だった。
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そんなある日、ライオネル公爵が、私に思いがけない提案をしてきた。
「アリアナ。近々、北部の鉱山地帯と、いくつかの地方都市を視察する予定がある。……君も、同行しないか?」
それは、私がこの公爵邸に来て以来、初めて受ける「屋敷の外」への誘いだった。
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