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第17話 小さな成果
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ライオネル公爵との議論の日々が始まってから、数週間が過ぎた。私は相変わらず緊張の連続だったけれど、それでも少しずつ、自分の意見を述べることに慣れてきていた。公爵は、どんな些細な提案にも真剣に耳を傾け、その論理的な思考と鋭い洞察力で、私の考えをさらに深めてくれる。それは、まるで高度な知的なゲームをしているような、刺激的で充実した時間だった。
ある日、私が以前提案した「孤児院の運営マニュアル整備と、地域ボランティアとの連携強化」に関する案が、公爵の鶴の一声で、首都ヴァルテンシュタットの一部の孤児院で試験的に導入されることになった。
(本当に……採用されたんだわ……)
クラウス執事からその知らせを聞いた時、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。エスタードでは、いくら有益だと思われる提案をしても、それが実際に形になることなどほとんどなかったからだ。ましてや、私のような、何の権力もない者の意見が、これほど迅速に採用されるなんて。
マニュアルの草案作りは、私が中心となって行うことになった。公爵は「君のやりやすいように進めて構わない」と言ってくれたが、もちろん私一人でできることではない。公爵は、彼の部下である数名の有能な文官を私の補佐につけてくれた。彼らは最初こそ、私のような若い異国の女性の指示を受けることに戸惑いを見せていたが、私が具体的な知識と熱意をもって仕事に取り組む姿を見て、次第に協力的な態度を示してくれるようになった。
孤児院の現状を把握するため、実際にいくつかの施設を訪問もした。そこで見たのは、献身的に働く職員の方々の姿と、それでもなお解決しきれない多くの問題――人手不足、物資の不足、そして何よりも、子供たちの心のケアの難しさだった。
私は、職員の方々や子供たちから直接話を聞き、それを元に、より実践的で、温かみのある運営マニュアルの作成を目指した。食事や衛生管理といった基本的なことから、子供たちの学習支援、心のケア、そして将来の自立支援に至るまで。さらに、地域のパン屋さんや洋服屋さん、退職した元教師の方々などに協力を呼びかけ、ボランティアとして孤児院の運営に関わってもらう仕組みも提案した。
数週間後、ようやく完成したマニュアルと連携システムが、試験的に運用を開始された。私は、期待と不安が入り混じった気持ちで、その結果を見守っていた。
そして、さらに数週間が過ぎた頃。クラウス執事が、私の部屋を訪ねてきた。
「アリアナ様、素晴らしい知らせがございます」
そう言って彼が見せてくれたのは、試験導入先の孤児院の院長先生からの、公爵宛ての報告書だった。そこには、新しいマニュアルとボランティア制度のおかげで、孤児院の運営が大幅に改善されたこと、子供たちの表情が以前よりもずっと明るくなったこと、そして何よりも、地域の人々との温かい交流が生まれたことなどが、感謝の言葉と共に綴られていた。
「……本当に……良かった……」
報告書を読み終えた時、私の目からは、知らず知らずのうちに涙が溢れていた。それは、悲しみの涙ではなく、温かい、喜びの涙だった。自分のささやかな努力が、誰かの役に立てた。その実感が、私の胸をいっぱいにした。
その夜の夕食の席で、ライオネル公爵は、私にその報告書の内容を伝え、静かに言った。
「アリアナ。君の尽力に感謝する。……見事な成果だ」
その言葉は、いつものように淡々としていたけれど、その奥には確かな賞賛の色が込められているように感じられた。私は、頬を染めながらも、しっかりと彼の目を見て答えた。
「いえ……私一人の力ではございません。公爵様のご理解と、補佐してくださった方々、そして何よりも、孤児院の皆様と地域の方々のご協力があってこそです」
「謙遜は美徳だが、時には自分の功績を正当に評価することも必要だ」
そう言って、公爵はほんの少しだけ、口元に笑みを浮かべたように見えた。その珍しい表情に、私の心臓が小さく跳ねる。
この小さな成功体験は、私にとって大きな自信となった。私は、決して無力ではない。私にも、誰かのためにできることがあるのだ。その確信が、私をさらに前へと進ませる力となってくれた。
そして、この一件は、公爵邸の中で私を見る周囲の目にも、少しずつ変化をもたらし始めていた。
ある日、私が以前提案した「孤児院の運営マニュアル整備と、地域ボランティアとの連携強化」に関する案が、公爵の鶴の一声で、首都ヴァルテンシュタットの一部の孤児院で試験的に導入されることになった。
(本当に……採用されたんだわ……)
クラウス執事からその知らせを聞いた時、私は信じられない気持ちでいっぱいだった。エスタードでは、いくら有益だと思われる提案をしても、それが実際に形になることなどほとんどなかったからだ。ましてや、私のような、何の権力もない者の意見が、これほど迅速に採用されるなんて。
マニュアルの草案作りは、私が中心となって行うことになった。公爵は「君のやりやすいように進めて構わない」と言ってくれたが、もちろん私一人でできることではない。公爵は、彼の部下である数名の有能な文官を私の補佐につけてくれた。彼らは最初こそ、私のような若い異国の女性の指示を受けることに戸惑いを見せていたが、私が具体的な知識と熱意をもって仕事に取り組む姿を見て、次第に協力的な態度を示してくれるようになった。
孤児院の現状を把握するため、実際にいくつかの施設を訪問もした。そこで見たのは、献身的に働く職員の方々の姿と、それでもなお解決しきれない多くの問題――人手不足、物資の不足、そして何よりも、子供たちの心のケアの難しさだった。
私は、職員の方々や子供たちから直接話を聞き、それを元に、より実践的で、温かみのある運営マニュアルの作成を目指した。食事や衛生管理といった基本的なことから、子供たちの学習支援、心のケア、そして将来の自立支援に至るまで。さらに、地域のパン屋さんや洋服屋さん、退職した元教師の方々などに協力を呼びかけ、ボランティアとして孤児院の運営に関わってもらう仕組みも提案した。
数週間後、ようやく完成したマニュアルと連携システムが、試験的に運用を開始された。私は、期待と不安が入り混じった気持ちで、その結果を見守っていた。
そして、さらに数週間が過ぎた頃。クラウス執事が、私の部屋を訪ねてきた。
「アリアナ様、素晴らしい知らせがございます」
そう言って彼が見せてくれたのは、試験導入先の孤児院の院長先生からの、公爵宛ての報告書だった。そこには、新しいマニュアルとボランティア制度のおかげで、孤児院の運営が大幅に改善されたこと、子供たちの表情が以前よりもずっと明るくなったこと、そして何よりも、地域の人々との温かい交流が生まれたことなどが、感謝の言葉と共に綴られていた。
「……本当に……良かった……」
報告書を読み終えた時、私の目からは、知らず知らずのうちに涙が溢れていた。それは、悲しみの涙ではなく、温かい、喜びの涙だった。自分のささやかな努力が、誰かの役に立てた。その実感が、私の胸をいっぱいにした。
その夜の夕食の席で、ライオネル公爵は、私にその報告書の内容を伝え、静かに言った。
「アリアナ。君の尽力に感謝する。……見事な成果だ」
その言葉は、いつものように淡々としていたけれど、その奥には確かな賞賛の色が込められているように感じられた。私は、頬を染めながらも、しっかりと彼の目を見て答えた。
「いえ……私一人の力ではございません。公爵様のご理解と、補佐してくださった方々、そして何よりも、孤児院の皆様と地域の方々のご協力があってこそです」
「謙遜は美徳だが、時には自分の功績を正当に評価することも必要だ」
そう言って、公爵はほんの少しだけ、口元に笑みを浮かべたように見えた。その珍しい表情に、私の心臓が小さく跳ねる。
この小さな成功体験は、私にとって大きな自信となった。私は、決して無力ではない。私にも、誰かのためにできることがあるのだ。その確信が、私をさらに前へと進ませる力となってくれた。
そして、この一件は、公爵邸の中で私を見る周囲の目にも、少しずつ変化をもたらし始めていた。
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