手放したのは、貴方の方です

空月そらら

文字の大きさ
46 / 60

第46話 自業自得の果て

しおりを挟む
レオンハルト殿下が失意のうちにガルディアを去ってから、数ヶ月が過ぎた。彼の歪んだ執着から解放された私は、ライオネル様との穏やかで幸せな日々を満喫し、間近に迫った結婚式の準備に胸を躍らせていた。

そんなある日、クラウス執事が、私に一枚の報告書を差し出した。それは、ガルディアの情報部がまとめた、エスタード王国の最新の国内情勢に関するものだった。

「アリアナ様、あまり気分の良いものではないかもしれませんが、念のためお目通しを……」

クラウスさんの言葉に、私は少しだけ眉を顰めながらも、その報告書を受け取った。そして、そこに書かれていた内容に、私は言葉を失った。

エスタード王国は、まさに凋落の一途を辿っていたのだ。

レオンハルト殿下は、ガルディア訪問で完全に自信を喪失したのか、帰国後はほとんど政務を顧みなくなり、自室に引きこもって酒浸りの日々を送っているという。当然、国政はさらに混乱し、アリアナという有能な補佐役を失ったツケが、あらゆる面に噴出していた。

経済は悪化の一途を辿り、物価は高騰、失業者は溢れ、民衆の不満は日に日に高まっている。貴族たちは、そんな状況を顧みることなく、相変わらず派閥争いに明け暮れ、私腹を肥やすことしか考えていない。かつて私が必死に支え、取り繕ってきた国のシステムは、もはや崩壊寸前だった。

そして、レオンハルト殿下の評判は、地に落ちていた。「愚王」「国を滅ぼす者」「アリアナ様を手放した最大の愚か者」――民衆の間では、そんな痛烈な批判が公然と囁かれているという。かつての婚約者候補であったイザベラ嬢も、国の傾きを察して早々に彼のもとを去り、より裕福な別の貴族に乗り換えたらしい。まさに、自業自得の結末と言えるだろう。

(……マーサは、大丈夫かしら……)

報告書を読みながら、私の胸に真っ先に浮かんだのは、エスタードに残してきた唯一の味方、老侍女マーサのことだった。彼女のような善良な人々が、国の混乱によって苦しんでいるのではないかと思うと、胸が痛んだ。

故郷がこのような状況に陥っていることを知るのは、決して気分の良いものではない。けれど、同時に、私はどこか冷静に、この事態を受け止めている自分にも気づいていた。

(これも……彼らが選んだ道なのだわ……)

レオンハルト殿下も、エスタードの貴族たちも、そして多くの民衆も、私という存在を軽んじ、その価値を認めようとしなかった。その結果が、今のこの状況なのだ。私がどれだけ心を痛めたところで、もう私にできることは何もない。

私は、静かに報告書を閉じると、窓の外に広がるヴァルテンシュタットの美しい街並みを見つめた。ここが、私の新しい故郷。私が愛し、愛される場所。

エスタードのことは、もう過去として心の奥にしまい込もう。そして、私は前を向いて、このガルディアで、ライオネル様と共に、新しい未来を築いていくのだ。

そう決意を新たにすると、私の心は不思議と軽くなっていた。故郷への最後の感傷を振り切り、私は未来へと視線を向けた。そこには、輝かしい光が満ち溢れているように感じられた。
しおりを挟む
感想 9

あなたにおすすめの小説

婚約破棄されたので田舎で猫と暮らします

たくわん
恋愛
社交界の華と謳われた伯爵令嬢セレスティアは、王太子から「完璧すぎて息が詰まる」と婚約破棄を告げられる。傷心のまま逃げるように向かったのは、亡き祖母が遺した田舎の小さな屋敷だった。 荒れ果てた屋敷、慣れない一人暮らし、そして庭に住みついた五匹の野良猫たち。途方に暮れるセレスティアの隣には、無愛想で人嫌いな青年医師・ノアが暮らしていた。 「この猫に構うな。人間嫌いだから」 冷たく突き放すノアだが、捨て猫を保護し、傷ついた動物を治療する彼の本当の姿を知るうちに、セレスティアの心は少しずつ惹かれていく。 猫の世話を通じて近づく二人。やがて明かされるノアの過去と、王都から届く縁談の催促。「完璧な令嬢」を脱ぎ捨てた先に待つ、本当の自分と本当の恋——。

【完結】悪役令嬢は折られたフラグに気が付かない〜王子たちは悪役令嬢の平穏を守れるのか!?〜【全23話+おまけ2話】

早奈恵
恋愛
エドウィン王子から婚約破棄されて、修道院でいじめ抜かれて死んでしまう予知夢を見た公爵令嬢アデリアーナは、男爵令嬢のパナピーアに誘惑されてしまうはずの攻略対象者との出会いを邪魔して、予知夢を回避できるのか試そうとする。 婚約破棄への道を自分で潰すつもりなのに、現実は何だか予知夢の内容とどんどんかけ離れて、知らないうちに話が進んでいき……。 宰相インテリ子息、騎士団長の脳筋子息、実家を継ぐために養子になったわんこ系義弟、そして婚約者の王太子エドウィンが頑張る話。 *リハビリに短編を書く予定が中編くらいになってしまいましたが、すでにラストまで書き終えている完結確約作品です。全23話+おまけ2話、よろしくお願いします。 *短い期間ですがHOTランキング1位に到達した作品です。

【完結】廃墟送りの悪役令嬢、大陸一の都市を爆誕させる~冷酷伯爵の溺愛も限界突破しています~

遠野エン
恋愛
王太子から理不尽な婚約破棄を突きつけられた伯爵令嬢ルティア。聖女であるライバルの策略で「悪女」の烙印を押され、すべてを奪われた彼女が追放された先は荒れ果てた「廃墟の街」。人生のどん底――かと思いきや、ルティアは不敵に微笑んだ。 「問題が山積み? つまり、改善の余地(チャンス)しかありませんわ!」 彼女には前世で凄腕【経営コンサルタント】だった知識が眠っていた。 瓦礫を資材に変えてインフラ整備、ゴロツキたちを警備隊として雇用、嫌われ者のキノコや雑草(?)を名物料理「キノコスープ」や「うどん」に変えて大ヒット! 彼女の手腕によって、死んだ街は瞬く間に大陸随一の活気あふれる自由交易都市へと変貌を遂げる! その姿に、当初彼女を蔑んでいた冷酷伯爵シオンの心も次第に溶かされていき…。 一方、ルティアを追放した王国は経済が破綻し、崩壊寸前。焦った元婚約者の王太子がやってくるが、幸せな市民と最愛の伯爵に守られた彼女にもう死角なんてない――――。 知恵と才覚で運命を切り拓く、痛快逆転サクセス&シンデレラストーリー、ここに開幕!

「醜い」と婚約破棄された銀鱗の令嬢、氷の悪竜辺境伯に嫁いだら、呪いを癒やす聖女として溺愛されました

黒崎隼人
恋愛
「醜い銀の鱗を持つ呪われた女など、王妃にはふさわしくない!」 衆人環視の夜会で、婚約者の王太子にそう罵られ、アナベルは捨てられた。 実家である公爵家からも疎まれ、孤独に生きてきた彼女に下されたのは、「氷の悪竜」と恐れられる辺境伯・レオニールのもとへ嫁げという非情な王命だった。 彼の体に触れた者は黒い呪いに蝕まれ、死に至るという。それは事実上の死刑宣告。 全てを諦め、死に場所を求めて辺境の地へと赴いたアナベルだったが、そこで待っていたのは冷徹な魔王――ではなく、不器用で誠実な、ひとりの青年だった。 さらに、アナベルが忌み嫌っていた「銀の鱗」には、レオニールの呪いを癒やす聖なる力が秘められていて……?

【完結】辺境伯令嬢は新聞で婚約破棄を知った

五色ひわ
恋愛
 辺境伯令嬢としてのんびり領地で暮らしてきたアメリアは、カフェで見せられた新聞で自身の婚約破棄を知った。アメリアは真実を確かめるため、3年ぶりに王都へと旅立った。 ※本編34話、番外編『皇太子殿下の苦悩』31+1話、おまけ4話

本物聖女の力は無力でした ――見世物レベルの聖女のおかげで婚約破棄されました――**

鷹 綾
恋愛
魔法が存在しないと信じられていた世界に、 突如として現れた「本物の聖女」。 空中浮遊、瞬間移動、念動力―― 奇跡を披露した平民の少女は、たちまち市民の熱狂を集め、 王太子はその力に目を奪われる。 その結果、 王太子の婚約者だった公爵令嬢アストリアは、 一方的に婚約を破棄されてしまった。 だが、聖女の力は―― ・空中浮遊は、地上三十センチ ・瞬間移動は、秒速一メートル ・念動力は、手で持てる重さまで 派手ではあるが、実用性は乏しい。 聖女の力は、見世物レベル。 少なくとも、誰もがそう判断していた。 それでも人々は喝采し、 権威は少女を縛り、 「聖女」という立場だけが一人歩きしていく。 そんな中、婚約破棄された公爵令嬢アストリアは、 ある違和感に気づき始める。 ――奇跡よりも、奪われているものがあることに。 派手な復讐はない。 怒鳴り返しもしない。 けれど静かに、確実に、 “正しさ”は明らかになっていく。 見世物にされた奇跡と、 尊厳を取り戻す少女たちの物語。 ---

【完結】聖女になり損なった刺繍令嬢は逃亡先で幸福を知る。

みやこ嬢
恋愛
「ルーナ嬢、神聖なる聖女選定の場で不正を働くとは何事だ!」 魔法国アルケイミアでは魔力の多い貴族令嬢の中から聖女を選出し、王子の妃とするという古くからの習わしがある。 ところが、最終試験まで残ったクレモント侯爵家令嬢ルーナは不正を疑われて聖女候補から外されてしまう。聖女になり損なった失意のルーナは義兄から襲われたり高齢宰相の後妻に差し出されそうになるが、身を守るために侍女ティカと共に逃げ出した。 あてのない旅に出たルーナは、身を寄せた隣国シュベルトの街で一人の騎士と運命的な出会いをする。 【2024年3月16日完結、全58話】

【完結】ルイーズの献身~世話焼き令嬢は婚約者に見切りをつけて完璧侍女を目指します!~

青依香伽
恋愛
ルイーズは婚約者を幼少の頃から家族のように大切に思っていた そこに男女の情はなかったが、将来的には伴侶になるのだからとルイーズなりに尽くしてきた しかし彼にとってルイーズの献身は余計なお世話でしかなかったのだろう 婚約者の裏切りにより人生の転換期を迎えるルイーズ 婚約者との別れを選択したルイーズは完璧な侍女になることができるのか この物語は様々な人たちとの出会いによって、成長していく女の子のお話 *更新は不定期です *加筆修正中です

処理中です...