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一章 役立たず王女、島流しにされる
⑤
しおりを挟む「ペッペッ……しょっぱっ! やっぱり飲み水には無理よね。どうしましょう」
せめてバケツのような備品や果物くらい置いてくれたっていいではないか。
というより、何もできないのだから島にまで送り届けてくれてもいいのにと思わずにはいられなかった。
飢えに苦しませたかったのか、嫌がらせなのかはわからない。
(飢えは苦しいもの……杏珠だった時に経験しているからよくわかるわ)
空腹は耐え難いものがある。
無力で何もできなかった杏珠の子ども時代と今のどうにもできない状況が重なっていく。
怒りや悔しさが込み上げてきて、メイジーは思わず大声で叫ぶ。
「く~~やぁ~しいいぃっ~~~~ばっかやろおぉぉっ!」
肩を上下させて、荒く呼吸を繰り返す。
普段からほとんど声を出さなかったメイジーの喉奥はヒリヒリと痛んだ。
これ以上は体力を使っても意味はないとなんとか心を落ち着かせた。
(よし……今は生き残ることだけ考えるわよ!)
メイジーは邪魔な袖を破る。
布の山にまた加わるドレスの残骸。
今は日焼けを気にしている場合ではない。
(何かないと間違いなく死ぬ……! 必死に探せば何かあるはず!)
メイジーは腕で漕ぎながら浮いているものを拾いに向かう。
欲しいのはオールのような流木なのだが、重たくて使えそうなものは海の底に沈んでしまう。
軽い木は浮いているが脆くて使えない。
(体力なさすぎ……! 汗をかいたら水分がもったいないわ)
休憩のためにドレスを傘がわりにしながら腕を休める。
今のところ突破口は見出せない。
進んでも進んでも水平線が見える。
地図もないのでどこに行けばいいのかすらわからない。
(これ以上、どうしろっていうのよ……! もうっ)
行き場のない苛立ちに足に力がこもる。
地団駄を踏んでしまったため、木がバキリと嫌な音が立てる。
「うそでしょう……っ!」
小さな船に穴が空いてしまい、メイジーは慌てて元ドレスだった布を詰め込んだ。
なんとか水が溢れてこないようにドレスの生地を詰め込む。
(ドレスって万能だったのね……)
船が沈まなければなんとか一安心である。
そしてかなり痛んだ木材でできているようだ。
(……神経を使うわ。でも頑張らないといけないわね)
ふと、横に木材が流れてくる。
手で漕いでなんとか木材に手を伸ばした。
今度はオールに使えそうだ。メイジーは余った布を木の先端に巻き付けていく。
「即席オールの完成よ……!」
メイジーは空に布を巻いた木を掲げた。
これで腕よりは確実に前に進めるだろう。
(ここじゃない場所へ……前へ進まないと!)
メイジーは腕を動かさして必死に前に進んだ。
太陽や空に浮かぶ星に向かって前へ、前へと。
それから拾えるものは何でも拾った。
穴の空いた入れ物、何も入っていない瓶は海水で洗って取っておく。
こんな絶望的な状況の中で、唯一運がよかったと言えるのが雨が降ったこと。
入れ物にドレスの切れ端を詰めて、瓶になんとか雨水を貯めていく。
この際、綺麗とか汚いとかはどうでもよかった。
少しでも生き延びるためならなんだってやる。
(水確保……! これで少しは生き延びられる)
それからメイジーはヒラヒラと浮かんでいる海藻も集めていた。
火を入れることはできないが、なんとか食べられないかと味を確かめる。
大体は生臭いが、稀に匂いが少ないものもある。
空腹は最大の調味料というが、浮いている海藻でなんとか空腹を凌ぐことができた。
腹痛になることはなかったが、塩っ辛くて美味しいものではないので大量に食べられないのが難点だ。
何より飲める水が限られている。
そして太陽の光が降り注ぐ海の上で火照って赤くなる肌をひんやりと冷やしてくれた。
長時間、肌に張り付かせておくと痒くなるので短時間にはなるが気休めにはなった。
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