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1:第一王子の定位置
しおりを挟むそう誓って早や数年───…
特にラルドとの間に進展があったわけでもなく、刻々と浪費されていく時間。元々両親譲りの美貌はここ数年でさらに磨きをかけ、オメガとは言え第一王子である僕にそろそろフィアンセでも、という宰相からの進言をうっとうしくかわす日々に飽き飽きしてしまう。
口うるさい宰相はそう言うが、この国のトップであるお父様とお母様が「ジェイドの好きにすればいい」と言ってくれているのが唯一の救い。
有り難くお言葉に甘え、今日も今日とて日々の日課へと繰り出している。
決まった曜日の決まった時刻に向かう、僕のお気に入りの場所。そこには一見、何の変哲もないとある大木が青々と生い茂っている。
が、別に目的は木ではない。そこからちょっと顔を出せば眼下に広がる騎士団の練習風景。
それを眺められる大木の後ろが僕の定位置だった。
数いる騎士の組み合いの中でもいちだんと目を引くそこには、向かってくる騎士の剣を軽々と受け、げきを飛ばすラルドの姿。もちろんそれが僕のお目当て。
王妃の護衛という重要な任務の合間の限られたラルドの自由時間。その時間を使って元騎士団長であった彼はかつての部下たちの訓練に付き合い汗を流している。そんな大切な時間の邪魔にならないよう、その場所から眺めるこの時間が至福のひとときだった。
「……あ、いまどさくさに紛れてラルドの肩に触れたやつ、大罪。はぁい、顔覚えたよ。減給減給」
時たまそう呟いては人には到底見せられないメモを着々と積み重ねながら王室お抱え騎士団の練習風景を邪魔にならないよう見守り、幸せな時間を過ごしている時だった───
「あ、またアイツ……減給じゃダメだな、クビにしよ」
「ねぇ兄さん?このままじゃ王室から優秀な騎士がいなくなっちゃうよ」
「───っ!?」
いつから背後に居たのか、頭一つ上の方から降ってきた聞き慣れた不意打ちの声に無様にも飛び上がりつつ勢いよく振り返る。
そこには想像通り、常日頃何を考えているかわからない無表情を張り付けた実の弟───ニックスがじとっと僕を見下ろしていた。
「はぁ、毎日毎日よくもまぁ飽きないねぇ?いい加減そろそろ諦めなよ。あの堅物男が兄さんに手を出すわけないんだから」
「……うるさい。あぁ~もうっ!重いおもぉい!頭に顎を乗せるな!引っ付くなぁ!」
「ん~顎を乗せるのに丁度いい」
「きぃぃっ!」
歳下だというのに兄に断りもなくひと周りもふた周りも大きく育った弟に背後からのしかかられ、フラフラになりながら大木に手を付き耐える。
「こんな所までわざわざ嫌味言いに来たわけ?」
「まさか。父様が呼んでる、王宮へ戻ろ」
「……やだ、まだ眺めてたいもん」
「どうせ夕食の時には一緒なんだからその時好きなだけ眺めればいいでしょ」
「……お母様の従者してるラルドはヤ」
首に回るニックスの両腕にぶくっと埋もれながら呟く言葉はお母様の前では絶対に吐き出すことの出来ない本音。
ラルドは今も昔もお母様のそばにいる。
専属護衛騎士として───もしくはそのお役目以上に、いついかなる時も命を賭してお母様を守る、それが永遠の使命であるかのように、お母様を見守るラルドの目がそう語っている。
「お母様にはお父様っていう運命がいるのに……ズルい」
「かわいいなぁ、兄さんは。俺でいいじゃん」
僕の首に巻き付く腕の力がぎゅっと強まる。いつも飄々とした弟の珍しい様子に、頭に感じる重みに抗いながら無理やり視線をあげた。
「は?何言ってるの、ニックスは弟じゃん。冗談言ってないでさっさと僕の代わりにフィアンセ決めてお父様達を安心させてよ」
「……はぁ、ムカつく」
「ん?何か言った?」
「なーにも。さ、戻りますよ~」
「あ、こらっ抱き上げるな!自分で歩ける!」
「はいはい、危ないから暴れない~」
果たしてどちらが年上なのか、と疑われてもおかしくないやり取り。きぃぃっと騒がしい声を張り上げ力いっぱい暴れても、非力なオメガではアルファの弟には敵わない。
どうどうとなだめられながら、泣く泣くその場から引き剥がされた。
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