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2:第一王子と家族団らん(1)
しおりを挟む結局、ニックスに抱えられたまま広い王宮内を進んでいく。
いくら懇願しようとも僕の要求はことごとくスルーされ、すれ違う使用人全てにくすくす笑われ恥ずかしさにも程がある。せめてもの抵抗としてニックスの肩口に顔を埋め、誰からも見られないようにするのが精一杯な僕をクスッと笑う弟が憎らしい。
どさくさに紛れガブッとひと口噛んでやった。
───が、効果はいまひとつのようだ。悔しい!
やっとの事で辿り着いた目的地の前で下ろされ、久々の地面の感触を味わう暇もなく、開いた扉の奥に待ち受けていたのは、お父様のみならずお母様もお揃いだった。
相変わらず仲のいい二人。
広い室内にいくつもあるソファにわざわざ並んで座り、お父様自らフォークを握りお母様にスイーツを与える光景を息子二人はしばしその場で黙って佇み見守っていた。
「んん~っ!おいひ~クオーツ次、次そっち」
「はいはい、ラズが好きそうだなって思って取り寄せてみたけど正解だったね」
「大正解~さすがクオーツ。ラズ様大好きクラブの名誉会長なだけある」
「ふふ、何その嬉しい役職、初めて聞いた。国王辞めてその役職に就こうかな」
「……お前は本気でやりかねないから勘弁してください」
成人した子供が二人もいるとは思えない若々しい見た目同様、会話の内容もいつまで経っても仲睦まじい両親のやり取り。これが日常茶飯事。僕たち兄弟はこれを見て育ってきた。
だからこそ、番という関係性に憧れてしまう。
「あっ、ジェイド、ニックス!やっと来た~おいでおいで、二人も座って!一緒にお茶にしよ」
やっとの事で僕たちに気付きパッとお日様の笑顔を向けるお母様の口元には可愛らしい白いクリームが。
「ラズ、付いてるよ」
「へ……」
言うや否や優雅な指の動きでクリームを拭い取り自然な動作で自分の口元へ持っていくとそのままひと舐め。そんなお父様の行動を、お母様をはじめ僕たちも一緒になってぽかんと見守った。
「うん、甘い」
「ぐぇ~~ゲロ甘~~」
お父様からの愛情たっぷりな視線を独り占めするお母様はお腹いっぱいですとゲンナリして早く早くと僕たちに手招きしていた。
呼ばれるがまま二人揃ってソファに歩み寄るものの、お父様、実の息子達に対して「邪魔するな」っていう視線はやめてください……。
◆◇◆◇◆
昼間から全員で集まってゆっくりできるなんて久しぶりだね、と上機嫌なお母様の笑顔を見ているこっちまでにこにこが伝染していると、お母様の側近であるマリンが慣れた手つきで全員分の新しい飲み物を運んできた。
どうやらこの突然のお茶会はお母様が主催らしい。
ほわりと湯気をたてる目の前に置かれたカップに手を伸ばし、ひと口こくりと喉を潤したタイミングで「ジェイド」と呼ばれる。
「はい、お父様」
「一応確認だけど、先日話したあの件。そろそろ先方に何かしらのリアクションを返さないといけない」
呼ばれたのはそれでか、とすぐに察すると持っていたカップをソーサーに戻す。主催はお母様ではあるものの、用があるのはお父様で間違いなかった。
つい先日も宰相が持ってきた縁談の申し入れ。その返事をいま問われている。
真正面からお父様の視線を受ける。
「今回もお断りでお願いします。僕には心に決めた人がいるので」
実の息子である僕ですら、お父様を目の前にすると迫力で負けそうになる。国王の威厳とその美しさ、その両方が相まって長年近隣諸国とはうまくやっていけているのだ。
それでも、ぐっと視線に強い意志を込め、真正面から見つめ返すこと数秒───先に折れたのはお父様だった。
ふっ、と苦笑をもらしたお父様はやれやれと首をふると「わかったよ」とひと言。たったそれだけでいつの間にか張っていた肩がストンと落ちる。
よかった…まだわがままは通用した。
お父様は僕の顔に弱い。
なぜなら愛するお母様にそっくりだから。
僕たち二人のやり取りを黙って見守っていたお母様とニックスも安心したのか止まっていた時が動き出すかのように家族団らんは再開した。
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