【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
51 / 1,325
第二章 人として生きる

33 緋色 19

しおりを挟む
「寝ちゃった。意外と話を聞いてるんだね」
「意外とってなんだ。成人なるひとは全部聞いてるよ」

 常陸丸ひたちまるが、ベッドから持ってきた薄めの毛布を、俺の腹の上で寝た成人なるひとの背中にかける。

「ベッドに置かないの? そのまま寝るの? 辛くない?」
「離すとぐずるから、しばらくこのまま寝かせてやるんだよ。……それで、なんだったっけ?」
赤虎せきとらは、緋色ひいろの嫁をさらって研究所に渡したってことで合ってる? で、怪我もさせた、と」
「ああ」
東院とういん家の護衛はそれに加担してたと」
「そうだな」
「……赤虎せきとらの怪我はお前か?」
「手の銃創は俺。足の骨は利胤としたね。じいは成人なるひとの護衛だからな。護衛対象に身の危険があれば、相手が皇族でも攻撃しても仕方ないよな」
「ふむ、緋色ひいろの嫁なら皇族に準ずる。いけるな。東院とういん家は話にならん。皇家筆頭護衛の任を解く」
朱実あけみ殿下!」

 朱実あけみの座るソファの後ろに立っていた東院とういん由狩ゆかりが悲鳴のような声を上げた。
 朱実あけみの手が動く。

「チャンスをやろう、由狩ゆかり。私を護れ」

 俺がポケットからナイフを出して投げる間に、ぱちりと目を開けた成人なるひとが物凄い力で俺をソファに引き倒し、上に被さった。ソファとローテーブルを一足飛びした常陸丸ひたちまるは、朱実あけみが俺に向けて構えた銃を叩き落としざま、動こうとしたばかりの由狩ゆかりに飛び蹴りを食らわし、朱実あけみの両腕を押さえて止まる。
 俺のナイフがかすったのだろう。朱実あけみの頬にうっすらと血が滲んだ。しまった、咄嗟に軌道を逸らすのが上手くいかなかったか。

「わ、朱実あけみ殿下、血が!」

 常陸丸ひたちまるが慌てている。
 う、う……と俺の上で成人なるひとが呻く。真っ青な顔で口を押さえた。慌てて抱き上げ洗面所へ連れていくと、さっき食べたものが全部出た……。
 せっかく栄養のあるものを食べたのに。
 ナイフ、当ててやれば良かった、と朱実あけみを睨むと両手を上げて頭を下げてきた。

「ごめん。まさかお嫁ちゃんが起きるとは思わなくて。本当に悪かった」

 常陸丸ひたちまるが呼んだ生松いくまつが白衣を羽織りながら走ってくる。すぐに朱実あけみの元へ行こうとするのを朱実あけみが制した。

成人なるひとから診よ」

 足の傷から血が滲んでいる。荒い息を吐いて、くったりと俺にもたれ掛かっていた。右腕一本で俺をソファに引き倒したのだ。どれだけの負荷がかかったことか。
 ベッドに寝かせようとすると、や、いや、と首を振る。

緋色ひいろさま、そのままで大丈夫です」

 生松いくまつは痛み止めを一本打って足の包帯を巻き直した。
 朱実あけみの頬のかすり傷にも丁寧に薬を塗りガーゼを当てる。

由狩ゆかり、私を護れと言った筈だが?」

 常陸丸ひたちまるの飛び蹴りで吹っ飛んでいた由狩ゆかりが胸を押さえて何とか起き上がった。診ようとする生松いくまつの手を振り払う。

「……格上を三人相手でした」
「一人は怪我をした寝ている子ども、もう一人はその子どもを抱えていて動けない。そして、私は先に仕掛けた」

 東院とういん由狩ゆかりが唇を噛んで俯く。

「実力で、また帰ってくるのを楽しみにしているよ」

 頬にガーゼを貼った朱実あけみが爽やかに笑った。
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...