人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

34 成人 21

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成人なるひとに、重大任務を与える」

 常陸丸ひたちまるが大真面目に言った。俺は、サイズの大きくなった自分のベッドの上である。座って絵本を読んでいたので、とりあえずそのまま背筋を伸ばして敬礼する。
 ろくに歩けもしないけど、できますか、隊長。

乙羽おとわを元気にしてほしい」

 俺が首を傾げている間に、ぼんやりした様子の乙羽おとわを連れてきた。顔色が悪くて目が赤く腫れている。常陸丸ひたちまる乙羽おとわをソファに座らせると、その前に膝をついて目線を合わせた。

乙羽おとわ。俺は緋色ひいろさまのお供で出掛けなくちゃならない。成人なるひとと留守番しててくれ」

 乙羽おとわはこっくり頷いた。常陸丸ひたちまるはぎゅっと乙羽おとわの手を握ると、立ち上がって出ていく。最後にもう一度、俺の方を向いて、頼む、と言った。
 乙羽おとわに会うのは二日ぶり。俺はベッドから下りて、ソファに歩く。ひょこ、ひょこと右足は引きずってしまう。

乙羽おとわ

 乙羽の横に座って声をかける。乙羽は、ぼんやりとこちらを向いた。

「ジュース、飲む?」
 
 俺が言うと、乙羽はこっくり頷いた。俺はまたひょこひょこ歩いて冷蔵庫を開ける。広末ひろすえの作ってくれたミックスジュースが、片手でも開けやすい入れ物に入って置いてある。好きなときに飲んでいいって作ってくれた、大事なジュース。
 コップに入れて、ストローも差す。今日も、きれいな色。ミックスジュースは、幸せの味がする。
 乙羽おとわの手に持たせると、びっくりしたように目を見開いた。

「……なる?」

 コップと俺の顔を見比べて、ぱちぱちと瞬きをする。

「美味しいよ」

 と言うと、うん、と言いながらミックスジュースを一口飲んだ。

「ほんとだ。美味しい」

 そう言って、もう一口。飲んでるうちに、目に涙が溜まっていく。ぽろぽろと泣きながら、乙羽おとわはジュースを飲み干した。
 コップを置いて、乙羽は俺に抱きついてくる。俺も右手を乙羽の背中に回した。

「姉は死んだのに、私はミックスジュースを飲んで美味しいと言う」

 ぐすぐす泣きながら、乙羽は言う。

「姉は死んだのに、私は生きている」

 乙羽の背中をぽん、ぽんとしてみる。

「二条美羽みはねは死んだ」
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