人形と皇子

かずえ

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第二章 人として生きる

32 成人 20

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「で?」
「何?」
「王城の敷地内の建物が一つ瓦礫になった件の説明。赤虎せきとら東院とういん家の五人の怪我についての説明。父上は、どうすれば許してもらえるのか聞いてこい、と仰せだ。分からないままでは、処分の下しようがない。研究者二人の顔が腫れてたのは、本人たちが当然の罰ですと言ったので不問」
赤虎せきとらは何て?」
「私があの馬鹿の話を聞くとでも?」
「ああ、はい」

 座る姿勢が疲れてきた。緋色ひいろに体を全部預けると大事なミックスジュースが飲みにくい。でも、ゆっくり飲みたい。ああ、美味しい。

「おっと、疲れてきたか。飲んでしまえ」

 緋色ひいろが上手に抱え直してくれる。ふふーん。美味しいねー。ちょっとずつ飲むんだ。

「お前の嫁が可愛い過ぎて、話に集中できん。ベッドに置いてこい」
「無理。今、一人で座れてない。こうしてないと、ジュースが飲めない」
「その状態で、あの反応の速さか。恐ろしいな。最速もここにいるってことか」
「何だ、それ。赤虎せきとらも言ってたらしいけど。最強二人揃えて医者と戦闘人形ドール隠して何を企んでる、とか何とか」
「知らんのか。常陸丸ひたちまるが今、最強で利胤としたねがその前の最強だろう。そして、お前が最高に恐ろしい最恐。そこに最速が加わったよ。そりゃ、警戒するだろう」
「最恐って何だよ。俺は戦争で疲れたから、好きなものに囲まれてのんびり過ごしたいだけ。集めた訳じゃない」
「じいじが強い」

 ん? 何? 朱実あけみ殿下、びっくりした顔してどうしたの?

「じい様、強いよな。俺、全然敵わないですよ」

 緋色ひいろの座るソファの後ろに立っている常陸丸ひたちまるが言う。普段着だから、あんまり護衛っぽくない。

利胤としたねまだそんなに強いの? っていうか、喋った。何これ、可愛いな。こっちおいで。兄様が抱っこしてやろう」
 
 朱実あけみ殿下が、すごい笑顔で手を広げてる。え? なんで。困ってしまって緋色ひいろの顔を見上げる。

「誰が渡すか。俺のだって言ってるだろう。兄様って何だよ」
「こないかあ。残念」

 何だか緋色ひいろとよく似た人だなあ。緋色の方がだいぶ格好いいけど、似てる。
 体が重くて辛い。限界。疲れた。それでも離さなかったコップが手から取られて机に置かれる。
 そうだ、一つだけ聞きたいことが。

「嫁って何?」

 うとうとしながら聞く。

「結婚した相手の呼び方」
緋色ひいろは俺の嫁」

 ぶはっ、と朱実あけみ殿下が吹き出した。
 向かい合う形に抱き直してくれながら緋色ひいろが言う。

「俺は成人なるひとの旦那様」
緋色ひいろは俺の旦那様」

 よろしい、と言いながらぽん…ぽん…と背中を叩く大きな手に、意識が飛んでいく。
 緋色ひいろは俺の旦那様。
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