【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第三章 幸せの行方

67 成人 69

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 目が覚めたら、優しそうな女の人が、少し不安げにこちらを見ていた。ものすごく肌触りのいい布団に寝ている。思わず、すりと頬をこすりつけた。
 ありゃ、気持ちいい。
 すり、すりとしていると、気持ちよくてまた、寝られそう。
 くす、と笑う気配がして、ぽん…ぽん…と女の人に背中を叩かれた。
 …………誰?
 ここ、どこ?
 じいやの気配がするけど、出てこないってことは、安全な場所なんだろう。

「なるひとちゃん。もう少し寝ますか?」

 優しい声が聞いてくる。
 名前を知ってるの?
 俺は、じっと女の人の顔を見てみた。知らない人だなあ。何となく、朱実あけみ殿下に似てる。緋色ひいろはね、もうちょっと格好いいから。

「私は、雫石しずくと言います。初めまして。知らないところで、驚いたでしょう?すぐに、緋色ひいろさんが迎えに来ますから、私と待っていましょうね」

 ゆっくりと説明してくれた。迎えに来るってことは、緋色ひいろが、雫石しずくさんに俺を預けたってことだ。寝ているのを預けるのだから、きっと緋色ひいろの好きな人なんだろう。

成人なるひとです。こんにちは」

 俺は、起き上がって挨拶をした。昼に人と出会ったら、こんにちは、と言うことを青葉あおばに教えてもらった。

「はい。こんにちは。お利口ねえ。何か飲みますか?」 
 
 寝起きなので喉は渇いているけど、いいのかな?

「え、と。あの」
「お水?」

 すぐに、部屋の中にいた女の人が動いて、隣の部屋から水を持ってきた。どうぞ、と渡される。あんまり冷たくない水だった……。

「ありがと」

 ちょっとだけ飲んで返す。
 ん?と雫石しずくさんが首を傾げた。

「ジュースもあるわよ」

 でも、広末ひろすえのじゃないと飲めないからなあ。
 んー、と曖昧に言ってると、ジュースも出てきた。
 あれ? いつものミックスジュースと色が一緒だ。じー、とコップを見てると、口元にストローが当てられた。ちょっと吸ってみる。
 あれ?いつものと一緒。
 嬉しくなって、ずるずる飲んだ。うふ。美味しい。

「あら。良かった」

 雫石しずくさんに持たせたままだった。慌てて受け取ろうと右手を伸ばす。
 
「どうぞ」
「ありがと……」

 顔を上げた先に、水の入った入れ物があった。中に、赤と白の何かが動いている。右へ行ったと思ったら、左へひらひら、またひっくり返って右へ、ふよーと行く。口がぱくぱくと動いている。
 うわー。何これ。

「金魚、好き?」

 金魚。こいつは、金魚って言うのか。

「餌、あげる?」

 踏み台が出されて、入れ物の上の穴から、ぽろぽろした粒を入れた。
 踏み台から降りて、見てみる。
 ぱく。
 わあ、食べた。
 ぱく、ぱく。
 わあ、食べてる。
 おおー、すごいね。
 
「なるひとちゃん、こっちにいらっしゃい。ずっと立っていたら疲れるでしょ?」

 雫石しずくさんが金魚の前に揺り椅子を持ってきて座った。おいで、と手を出してくれる。
 いいのかな?
 困っていたら、部屋にいる女の人が、俺を抱いて、雫石しずくさんの膝の上に座らせてくれた。力持ちだねえ。
 きゅっと抱っこしてもらうと、気持ちいい。そして、金魚が目の前に。
 面白くて、ずっと見てた。これも、生きてるんだなあ。ご飯、食べたなあ。

「お世話になりました」

 緋色ひいろの声が、急に聞こえてびっくりした。
 
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