【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

28 そばにいるだけでいい  成人

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「あ、いた。壱臣いちおみさん、休憩時間終わってます。」
「え、わあ。しもた。村次むらつぐ君、ごめん。」
「作業始める前に呼びに来た方がいいと思って。」
「わざわざ来てくれたんか、ありがとう。」
「ここにいるだろうって分かってたから。」
「ほな、行こ。成人なるひと君、片付け頼んでええか。」

 もちろん。
 俺は大きく頷いた。

村次むらつぐ。次の休みはいつですか?」

 生松いくまつ村次むらつぐの腕を掴んで止めている。

「え?休み?明後日。」
「では、その日に病院に来なさい。朝の九時。」
「え?なんで?」
「真剣に足の治療をしましょう。」
「え?もう大丈夫だけど。」
「来なかったら、入院させます。」
「はあ?」
「立ちっぱなしの仕事で、だいぶ足に負担がかかっている。もっと自分の体を大事にしなさい。」
「…………。」
村次むらつぐ君、行くで。」
「先生、俺、仕事。」
「いいですか。来なかったら入院ですよ。」

 二人はばたばたと行ってしまった。
 俺は生松いくまつの手を離して半助はんすけのベッドに近付く。
 雑炊、まだ残ってる?食べさせてあげる。

「はは……。仕事か。」

 ぐったりとベッドにもたれた半助はんすけが、ぼそっと呟いた。

「寝る?」

 雑炊はほとんど食べ終わっていたから、保温バッグに片付ける。半助はんすけはずるずると自分でベッドに横になった。

「居場所あるやん……。ちゃんと自分で……。」
壱臣いちおみのご飯はおいしーからね。」

 半助はんすけがふっと息を吐く。

「せやろ?」
「また食べれるね。」
「……俺なんかおらんでも、一人でちゃんと生きてるやん。」

 ん?
 でも、あんなにこにこの壱臣いちおみは初めて見たよ。

「二人の方がいいよ。」
「役に立てへんのに?」
「一緒にいるのが仕事。」
「はは……。なんやそれ。」
「ほんとだよ。」
「そんなもんか。」
「うん。」

 俺は、右手で半助はんすけの左手を握った。

「いいなあ、左手。」
「俺は右の方が使い勝手が良かったけどな。」
「指輪は左手の薬指だから。」
「は?」
「俺、左手なくて悲しかった。」

 半助はんすけは俺の薬指をまじまじと見る。

「結婚…指輪?」
「ほんとは左手だって。」
「へえ……。」

 緋色ひいろとお揃いの指輪。誓いの証。
 左手に、つけたかったんだ。

「誓いの証か。いいな……。」

 半助はんすけは俺の指輪を指でなぞりながら呟いた。眠そう。ご飯を食べるのも泣くのも疲れるからね。

「今度一緒にお買い物に行こう?」
「金も、ねえ……。何もねえな、俺は。」

 目が閉じかけている。
 何もなくないよ。
 壱臣いちおみは、そばにいてって言ってた。
 その言葉だけは、ずっと半助はんすけのもの。
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