【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第四章 西からの迷い人

27 病室は良い匂い  成人

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「そばにいて……」

 壱臣いちおみの小さな小さな声。
 力の入らない半助はんすけの手が、壱臣いちおみの服を握った。返事は聞こえなかったけど、もちろんいいに決まってるよね。
 だって半助はんすけは、おみを探してたんだから。

「失礼します。点滴を外しますね」

 生松いくまつの声に二人は離れた。壱臣いちおみが手拭いで顔をごしごし拭いている。
 生松いくまつが心配そうに半助はんすけの左腕に手を伸ばす。管を付けたままたくさん動かしたから、針を差した所から血が出てしまっている。生松いくまつは丁寧に針を外して、ガーゼを貼った。

「ご飯は食べさせてもらってくださいよ」

 生松いくまつは自分で食べるつもりだった半助はんすけを止めて、スプーンを壱臣いちおみに渡す。
 ええ。俺がやるのに。

成人なるひと。後は壱臣いちおみさんに任せましょ?」
成人なるひと君、うちが来れんときはお願いしてええか」

 壱臣いちおみがベッド横の椅子に座って笑う。

「いや、俺は自分で……」
半助はんすけ。せっかく成人なるひと君が言うてくれてるんやから」
「…………」

 良い匂いが部屋中に漂った。保温バッグに入れてきた雑炊からは、まだほわほわと湯気が出てるみたいだ。
 壱臣いちおみ半助はんすけの口にスプーンを運ぶのを、じっと見てた。
 熱くない?
 スプーンを口に入れた半助はんすけの頬が嬉しそうに緩む。
 美味しいって言ってるみたいに。
 壱臣いちおみ半助はんすけも何も言わずにその作業を続けてた。

成人なるひと。そんなにじっと見てたら食べにくいでしょう。一度、部屋を出ましょう」

 ええ?
 上手な食べさせ方の勉強中なのに。
 緋色ひいろ力丸りきまるが熱出したら、俺が食べさせてあげるんだー。おでこにタオル乗せて冷やして看病してあげるの。村次むらつぐもね。

「何かこう、この表情かおはまた緋色ひいろ殿下が聞いちゃいけないことを考えているような……」

 生松いくまつがぶつぶつ言いながら俺の手を握って部屋を出ようとしたとき、ばたばたとうるさい足音が廊下に響いた。

「病院の廊下は静かにしなさい」
「あ、ここかな。壱臣いちおみさん、居ます?」

 扉を開けながら生松いくまつが言うと、右足を引きずった村次むらつぐが飛び込んできた。
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