【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
236 / 1,325
第四章 西からの迷い人

26 こぼれた言葉  壱臣

しおりを挟む
「雑炊、作ってきたんや。食べてくれるか……?」

 逞しかった腕が、すっかり細くなっている。いつも一つにまとめていた艶やかな長髪は、ぱさぱさと枕の上に散っていた。けた頬。顔色は悪いのに少し頬が赤いのは、熱があるんやろうか。

生松いくまつに点滴外してもらう。」 

 成人なるひと君が、とてとてと歩いて部屋を出ていった。
 勢いで来てしもたけど、半助はんすけはもう、置いていったうちの顔なんて見とうなかったらどうしよ。息して動いてるのが分かったら、ほっとして不安ばかりが浮かんでくる。思ってたより酷い体の状態が、すべてうちの所為やと思たら……。

「食べ、ます……。」

 微かな声に、びくっと震えてしまう。
 赤く潤んだ目が、こちらを見ていた。
 
「そ、そうか。うん。座らんとな。」

 ベッドに乗り上げて、背中に腕を入れ抱き起こす。ぐらぐらする体を支えて、何とか背中に枕を挟んだ。

ぬくいな。」
おみは冷えてる。寒うないか?」
「寒うなかったことなんて無いよ。」

 ずっと一人。
 迷惑をかけへんように、人から離れて。
 その温もりに寄りかからんようにすぐに離れようとすると、半助はんすけの左腕が背中に回った。
 弱々しく引き寄せられて戸惑う。

半助はんすけ?」
「なんで二本あるうちに、こうせえへんかったんやろ……。」

 ぬくい。あかん。離せんくなる。迷惑に……。
 
おみ。俺が怖いんか。」

 首を横に振る。
 怖いわけない。そんなわけない。
 離そうとして戻された両手が、どうしたらよいのかと宙に浮いている。胸がくっついて、ぬくい。

おみ。」

 耳元で優しい声。そこで囁かれるのはいつだって、心が冷たくなるような言葉だった。
 
 早う消えろ。
 まだ生きとったんか。

「あかん。」
おみ?」

 早う離れんとあかん。もう、心はそれを願うてしもている。
 
「何があかんの?」
ぬくいのを知ったらまた、欲しなる、から、離して……。」
「嫌や。」
「頼む……。うちはもう……。」

 部屋の扉が開く音。
 成人なるひと君が帰ってきた。

「はん、す、け……。」
おみ。怖ない。怖ないで。」

 いつの間にか震えていた背中をぎこちない腕が撫でる。

「怖い。半助はんすけが、またおらんようになるのが怖い……。」

 自分が離れたくせに。

「ずっと一緒にいたら怖くない?」
成人なるひと君……。」

 小さな手がうちの背中に加わって、なだめるように優しく叩く。
 あかんよ。
 温もりを増やしたらあかん。

おみ。まだ俺にできることはあるか?」

 あるよ。
 半助はんすけにしかできんこと。

「そばにいて……。」
しおりを挟む
感想 2,498

あなたにおすすめの小説

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

【完結】好きな人の待ち受け画像は僕ではありませんでした

鳥居之イチ
BL
———————————————————— 受:久遠 酵汰《くおん こうた》 攻:金城 桜花《かねしろ おうか》 ———————————————————— あることがきっかけで好きな人である金城の待ち受け画像を見てしまった久遠。 その待ち受け画像は久遠ではなく、クラスの別の男子でした。 上北学園高等学校では、今SNSを中心に広がっているお呪いがある。 それは消しゴムに好きな人の前を書いて、使い切ると両想いになれるというお呪いの現代版。 お呪いのルールはたったの二つ。  ■待ち受けを好きな人の写真にして3ヶ月間好きな人にそのことをバレてはいけないこと。  ■待ち受けにする写真は自分しか持っていない写真であること。 つまりそれは、金城は久遠ではなく、そのクラスの別の男子のことが好きであることを意味していた。 久遠は落ち込むも、金城のためにできることを考えた結果、 金城が金城の待ち受けと付き合えるように、協力を持ちかけることになるが… ———————————————————— この作品は他サイトでも投稿しております。

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

4人の兄に溺愛されてます

まつも☆きらら
BL
中学1年生の梨夢は5人兄弟の末っ子。4人の兄にとにかく溺愛されている。兄たちが大好きな梨夢だが、心配性な兄たちは時に過保護になりすぎて。

陰キャな俺、人気者の幼馴染に溺愛されてます。

陽七 葵
BL
 主人公である佐倉 晴翔(さくら はると)は、顔がコンプレックスで、何をやらせてもダメダメな高校二年生。前髪で顔を隠し、目立たず平穏な高校ライフを望んでいる。  しかし、そんな晴翔の平穏な生活を脅かすのはこの男。幼馴染の葉山 蓮(はやま れん)。  蓮は、イケメンな上に人当たりも良く、勉強、スポーツ何でも出来る学校一の人気者。蓮と一緒にいれば、自ずと目立つ。  だから、晴翔は学校では極力蓮に近付きたくないのだが、避けているはずの蓮が晴翔にベッタリ構ってくる。  そして、ひょんなことから『恋人のフリ』を始める二人。  そこから物語は始まるのだが——。  実はこの二人、最初から両想いだったのにそれを拗らせまくり。蓮に新たな恋敵も現れ、蓮の執着心は過剰なモノへと変わっていく。  素直になれない主人公と人気者な幼馴染の恋の物語。どうぞお楽しみ下さい♪

【完結】君のことなんてもう知らない

ぽぽ
BL
早乙女琥珀は幼馴染の佐伯慶也に毎日のように告白しては振られてしまう。 告白をOKする素振りも見せず、軽く琥珀をあしらう慶也に憤りを覚えていた。 だがある日、琥珀は記憶喪失になってしまい、慶也の記憶を失ってしまう。 今まで自分のことをあしらってきた慶也のことを忘れて、新たな恋を始めようとするが…

処理中です...