【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第五章 それは日々の話

156 母の決意  赤璃

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「……九条くじょう先生が、診ていらっしゃるのだろう、と思っていました」
生松いくまつが?何故?」
「……九条先生は、どんな病にも対応なさる方ですから」

 お茶を啜って、少し落ち着いた白威しろいの視線の先には、なるがいた。
 冷えていないオレンジジュースに不満げな顔を見せていたけれど、私たちが話しているうちに飲み終えたようだ。小さなコップに八分目。以前、普段、客に使用する大きめのコップに、半分より少なく入っているのを見た時にしょんぼりしていたから、頬に傷を負っても下がらなかった侍女の朝桐あさぎりが工夫を凝らしたのだろう。
 あまり量が多いと腹を下すし、水分が足りなくても体調を崩す。冷たい食べ物や飲み物が大好きだが、もちろん、望むままに渡していたらお腹の具合によろしくない。といって、極度の猫舌は、少し熱いくらいの飲み物や食べ物でも舌を火傷してしまう。なるは、何とも面倒な客だ。
 朝桐あさぎりは、なるが来ると分かっていると必ず手を挙げて部屋の中の担当になる。前触れもなく来たときなどは、なるべく部屋の近くで仕事できるように、他の侍女と代わってもらうこともあるようだ。
 今も楽しそうに微笑みながらソファの横に跪いて、温かいみたらし団子の入った皿を、なるが食べやすいように机から持ち上げてやっている。

「熱い?」
「大丈夫ですよ。湯気が出ていないでしょう?」

 私と白威しろいの前に置いてある団子は未だ、ふわりと微かに湯気を上げているが、なるに差し出されているものに湯気は見えない。温めすぎないように、朝桐あさぎりが指示して作らせたのだろう。
 それでもなるは、何となく温かいことを感じて、ふーふーと息を吹きかけてから半分かじる。なるに出すにしては大きい団子だと思っていたが、なるの小さな口は、ちゃんと団子をかじりとれる力を手に入れたらしい。
 ふんわりと温かい団子がお気に召したのだろう。小さな顎を動かして、美味しそうに噛んでいる。

「なるは、元気よ。最近は」
「ああ、いえ。不躾でした。すみません」

 なるを、もともとは戦闘人形ドールだと知って珍しがっているのか、色んな所が欠けた体で動くのが興味深いのか。ずっと観察していた白威しろいの視線が私に戻った。

「以前、内臓の動きが非常に鈍く、危ぶまれていたとお聞きしましたので、その、つい」
生松いくまつと交流が?」
「はい。たまに、病院の方へ手伝いに参りますのでその折に」

 生松いくまつが常駐しているのは、敷地内にある使用人向けの病院だ。使用人の急病や怪我に対応しているそこも、皇宮医の管轄であるはずだが、引き受け手がおらず、緋色ひいろのもとから派遣の形で勤めている。
 この医師は、皇宮医が避ける業務をしっかりこなしているらしい。
 お腹がふくれて、瞼の重くなってきたなるを見ながら、私も団子を持ち上げる。
 今日は、良い拾い物をした。切り捨てるばかりじゃなく、見極める目も持たなければならない立場は、時々酷く疲れるけれど。
 ねえ、聞こえる?
 お腹の子に心のうちで話してみる。
 あなたの御代が少しでも良いものになるように、母は頑張ってみるわ。
 
 
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