【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第八章 郷に入っては郷に従え

67 背筋を伸ばして  祈里

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 あ、あ、あ、あ、味がしない……。
 わいわいとお話しながら、で夕食を囲んでいる。全員、当たり前のような顔で、少し豪華な夕食を囲んでいる。皆様、美味しそうに食べていらっしゃる。分かります。美味しいんだろうことは分かります。想像していたより普通の食事で、少しほっとしています。
 でも。でも!
 緋色ひいろ殿下と御一緒のお食事なんて、緊張で震えが止まらない。私、きちんとした食事作法なんて知らないんだけれど、何か失敗していないかな。大丈夫かな……。あああ。初めての異国のお食事なのに、もったいない。でも、味わっている余裕がない。
 緋色ひいろ殿下、お噂では聞いていたけれど、本当にこうして、使用人と食卓を囲んでいらっしゃるんですね……。
 
祈里いのりも、欲しいものあった?」

 料理人の方々のお話はいつの間にか済んでいて、成人なるひとさまの声が私の耳に届く。

「ひゃ、ひゃい」

 成人なるひとさまとは、いつも一緒におやつを食べているのだからそれほど緊張することはないと思うのだけれど、なんというか、場違いな所にいる気がしてならないのだ。だって、席の場所もおかしい。料理人のお二方と私の席が、緋色ひいろ殿下と成人なるひとさまに、とても近い。何故……?

「ん、んん。あの、欲しいもの……?」
「ああ。うちの方で見たことの無い生地や糸、技術で欲しいものがあれば言え。涼乃絵すずのえに、頼まれているからな」

 はっ。そうだ、涼乃絵すずのえさま!我らが室長は仰った。
 祈里いのり。楽しんでおいでね、と。
 はい。はい、涼乃絵すずのえさま。そうでした。
 成人なるひとさまが、一番心穏やかに身を任せられる貴女を衣装の着付け係にご指名くださったのだから、自信を持って、背筋を伸ばして、堂々と私たちの代表として参加してらっしゃい、と仰ってくださったのだ。
 そうだ。
 このお食事が始まるまで、私はその言葉を胸に、堂々とこのお城の衣装係の方にお話を伺っていたのだった。

「あの。お着物用の織りものに素晴らしい品がありました。けれど、複雑な技術で仕上がりに時間がかかり値が張る上、豪華な着物を着る方が少なくなってきて売れず生活できないということで、作れる方がどんどん少なくなっているそうです。今のところ、普段着る服には全く使用出来そうにない織りものなのが難点ですが、技術が廃れるのは惜しいです。少しづつでも、お城の予算で、仕入れて差し上げることができますでしょうか」
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