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第八章 郷に入っては郷に従え
68 優しい旦那さま 成人
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「それは聞けないな、祈里」
俺は、ちょっとびっくりして緋色を見る。広末と村次の欲しい物は、仕入れろ、とか、調べろ、とか、話を通しておけ、好きにしろって言ったのに、祈里のは駄目なの?
「普段着る服には全く使用できない、と言ったな。ということは、今のところ着物の生地としてしか使用できないということだ。うちは、こちらより更に着物を使用することが少ない。こちらでも使い切れない品を持ち帰り、ただ飾ってどうする?」
「は、はい!」
祈里が、ばっと包拳礼をして頭を下げた。
「殿下の、おっしゃる通りでございます」
「頭は上げろ。食事中だ」
「はい」
祈里は、きゅと口を結んで緋色の方を向いて顔を上げた。
「駄目だ、と言っているんじゃない。使い道のない品は要らんというだけだ」
「はい」
「生活の様式が変われば、使用されなくなる道具がある。どんなに素晴らしい技術も、使い道がなければ、消えるのは当たり前だと思わないか」
「そう、ですね……」
「使い道があればいい?」
しょんぼりしてしまった祈里を助けたくて、緋色に聞いてみる。欲しい生地や糸があれば、お給料で買える値段なら自分でどんどん買っちゃう祈里が、緋色にお願いして持って帰りたいって言うんだから、きっと物凄く高いんじゃないかな。そして、祈里のお給料で買えなくても欲しいくらい、凄い物なんだろう。俺が買ってあげれたらいいんだけど、俺のお給料では、そんなに高いものは無理だ。
使い道がないから消えるって言うんなら、何か使い道を考えてみればいいんじゃない?
「もちろん。使い道があるなら買うといい。本来、生産者がそれを考えるべきだ。技術が廃れるのを、着物を着る者が減ったから仕方ない、と指をくわえて見ているようなら、それまでのことだろう?」
「そうか」
うん。そうか。着物を着る人が減って売れなくなったのなら、着物じゃない売れるもので使えないか考えないといけない。考えていないのなら、それでおしまいなのは当たり前か。
「生地は、飾りではない……」
祈里が、真剣な顔でぶつぶつ言った。あ、考えてる顔だ。祈里の大好きな、服のことを考えてる時の顔。俺は、こういう時の祈里が好き。一生懸命何かをしてる人の顔が好きだ。
「何ができるか、試せるだけの生地は買ってやる。涼乃絵に、土産を頼まれているからな」
「は、はい!」
祈里は、いつもの元気な声でお返事をした。
着物のために作られた上等な生地で、何ができるか楽しみ。何もできなかったら、その生地は最後の飾りになるのかな。
それでも、そのまま消えるよりずっといい。たくさん他の使い道を考えてもらえて、幸せだったに違いない。
その機会をくれる緋色は、やっぱりとても優しい。
俺は、ちょっとびっくりして緋色を見る。広末と村次の欲しい物は、仕入れろ、とか、調べろ、とか、話を通しておけ、好きにしろって言ったのに、祈里のは駄目なの?
「普段着る服には全く使用できない、と言ったな。ということは、今のところ着物の生地としてしか使用できないということだ。うちは、こちらより更に着物を使用することが少ない。こちらでも使い切れない品を持ち帰り、ただ飾ってどうする?」
「は、はい!」
祈里が、ばっと包拳礼をして頭を下げた。
「殿下の、おっしゃる通りでございます」
「頭は上げろ。食事中だ」
「はい」
祈里は、きゅと口を結んで緋色の方を向いて顔を上げた。
「駄目だ、と言っているんじゃない。使い道のない品は要らんというだけだ」
「はい」
「生活の様式が変われば、使用されなくなる道具がある。どんなに素晴らしい技術も、使い道がなければ、消えるのは当たり前だと思わないか」
「そう、ですね……」
「使い道があればいい?」
しょんぼりしてしまった祈里を助けたくて、緋色に聞いてみる。欲しい生地や糸があれば、お給料で買える値段なら自分でどんどん買っちゃう祈里が、緋色にお願いして持って帰りたいって言うんだから、きっと物凄く高いんじゃないかな。そして、祈里のお給料で買えなくても欲しいくらい、凄い物なんだろう。俺が買ってあげれたらいいんだけど、俺のお給料では、そんなに高いものは無理だ。
使い道がないから消えるって言うんなら、何か使い道を考えてみればいいんじゃない?
「もちろん。使い道があるなら買うといい。本来、生産者がそれを考えるべきだ。技術が廃れるのを、着物を着る者が減ったから仕方ない、と指をくわえて見ているようなら、それまでのことだろう?」
「そうか」
うん。そうか。着物を着る人が減って売れなくなったのなら、着物じゃない売れるもので使えないか考えないといけない。考えていないのなら、それでおしまいなのは当たり前か。
「生地は、飾りではない……」
祈里が、真剣な顔でぶつぶつ言った。あ、考えてる顔だ。祈里の大好きな、服のことを考えてる時の顔。俺は、こういう時の祈里が好き。一生懸命何かをしてる人の顔が好きだ。
「何ができるか、試せるだけの生地は買ってやる。涼乃絵に、土産を頼まれているからな」
「は、はい!」
祈里は、いつもの元気な声でお返事をした。
着物のために作られた上等な生地で、何ができるか楽しみ。何もできなかったら、その生地は最後の飾りになるのかな。
それでも、そのまま消えるよりずっといい。たくさん他の使い道を考えてもらえて、幸せだったに違いない。
その機会をくれる緋色は、やっぱりとても優しい。
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