【本編完結】人形と皇子

かずえ

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第十章 されど幸せな日々

68 お化けは色んな姿をしている  成人

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「ただいまー」
「たーいまー」

 執務室の戸を開けると、亀吉かめきちが元気に飛び込んでいった。

「おーちゃ。ちゅももいおった」

 まっすぐにおーちゃんの元へ向かう。
 部屋の色んな所から、おかえりなさい、と声がした。
 はーい、ただいま。
 緋色ひいろは……。いないな。竹光たけみつ鶴丸つるまるもいない。謁見かな。玉鶴たまつる松吉まつきちもいなかった。まあ、玉鶴たまつる松吉まつきちは、普段から書類の部屋にはあんまり居ない。

「おかえりなさいませ、若様。……ええっと。もう一回言うてもらえますか?」
「ちゅももいおった」
「ちゅも……? あっ、つごもり! つごもり、お前! 待っとったで。そこにもう、二人待たせとるんや。四人て聞いとるけど、ほんまに四人で来たか? これで全部なんやろな? まずは、そこに座れ。到着の挨拶をせえ。お前らは、ほんまにもう、なんで先にちゃんと挨拶しに来んのや。挨拶も無しにふらふらふらふらしとったら、不審者や思われるやろ。今、この城は、緋色ひいろ殿下んとこの精鋭部隊が守ってくださっとるんや。見つかったら、どんな怖い目ぇに合うことか。あの二人みたいに捕まるだけで済んだらまだええものの、」
「あー、兄上。兄上」
「なんや!」
「捕まるだけで済みました。怖い目ぇにも合うたけど」

 あは、とつごもりは横を向いたけど、じいやの姿はもうなかった。佐鳥さとりも、もういない。

「うええ。おらんし」
「あああ。見失うたぁ。もう無理ぃ」

 つごもり小望こもちが二人で頭を抱えている。

「何を言うとんや、何を」

 じいや達に会っていないおーちゃんには、何のことか分からないよね。俺と亀吉かめきち香月かづきでこの二人を捕まえられるわけないし。ていうか、おーちゃんの近くでぴしっと正座している、見たことない二人もつごもりの仲間か。誰に捕まったんだろ?

「隊長と小望こもちも捕まったんか。ほな、俺らが捕まってもしゃあないよな」
「ほんまや、しゃあない。厨房で料理人に捕まったんが間抜けやけど」

 村次むらつぐか。二人とも捕まえたのかな。捕まえそうだな。

「そやけど、なあ? あれ、ほんまに料理人かな」
「そんなわけないやろ。絶対、料理人の振りしとる兵士やて」
「料理人だよ」

 つい口を挟むと、ひえと二人は口を閉じた。俺の方を見て、慌てて正座したまま包拳礼をする。おお、西賀さいか国の人は皆、俺のことを知ってくれているなあ。西中さいちゅう国の人は、知っていても知らないふりをしたり本当に知らなかったりして、俺に挨拶をしない人が多かったのに。
 ふふ、嬉しい。
 緋色ひいろの伴侶って知ってくれているのが嬉しい。
 今、この部屋に緋色ひいろがいなくても、ちゃんと緋色ひいろの伴侶への挨拶をしてくれるのが嬉しい。
 
「こんにちは。村次むらつぐはねえ、料理人なんだよ。美味しいよ」
「あれが、料理人……」
「お化け屋敷やん……」

 前にも、誰かが離宮のことをそう言っていたな。才蔵さいぞうだったっけ? 
 俺たちが家族で来たら、ここもお化け屋敷になっちゃったか。そうかあ。
 つごもりは、先に座っていた二人の隣に座って背筋を伸ばす。小望こもちもいつの間にか、ちゃんとその横に座っていた。

各務原かがみはらつごもり以下四名。到着致しました」
「挨拶が遅い! ええか! 到着したらまずは、」
「兄上。説教は殿たちへの挨拶の後でええかな」

 このままでは、殿や緋色ひいろ殿下に挨拶せんうちに日が暮れる、っていうのはぼそって呟いていた。
 まだ朝だから、流石に日は暮れないと思うよ?

「挨拶の段取りつけてくる。逃げるなよ」
「はいはい」
「はい、は一回でええ」
「はーい」

 何度もこちらを振り返りながら、おぼろは部屋を出て行った。

「はあ。説教長そうやな」
「かなんな……」
「どーじょ」
「え? あ、どーも?」
「あ、ありがとう、ございます?」
「ん」

 あっという間に足を崩した四人の前に、末良すえよしが玩具の湯のみを運んできて置いていった。
 上手になってきたなあ。
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