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第十章 されど幸せな日々
67 まずはご挨拶 成人
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執務室の手前で、西中国の使用人の着物を着た女の人二人が後ろから追いついてきた。
「た、隊長? 隊長が捕まっ……」
一人が晦を見て絶句する。
晦の仲間?
俺が晦を見上げると、
「うちの者です」
って、晦は頷いた。それから、
「小望。無事か」
って、晦のことを隊長って言った人に声を掛けた。二人の女の人は、見た目は二人とも似た感じ。体が、大きくもなく小さくもなく、顔付きも印象に残りにくい。小望って呼ばれた人のほうが若いなって、そう思うだけ。
ん? あれ?
「全然、無事やないです。めっちゃ怖いです。この方、めっちゃ怖いです」
小望が口を開くと印象の薄さが消えて、はっきりと顔が分かってきた。似ていると思った二人は、全然似ていないことに気付く。
「奇遇やな。俺も今、めっちゃ怖い思いをしとる」
「いいえ。隊長よりうちの方がめっちゃ怖い思いしとります。絶対です。この方、何の気配もなくうちの首元に手を当てて、こんにちは、って言いはったんですよ。もうあかん、思いました」
「そりゃまた……」
晦が小望の隣に目を向けると、その女の人はにこりと笑った。
あ、やっぱり。目の前で見ても、すぐには分からなかったよ。
「佐鳥」
「はい、成人殿下、若様、義父上もご機嫌麗しゅう。お散歩ですか?」
頭を下げたのは、やっぱり佐鳥だ。すごい。よく知っている人なのに、目の前に来てもすぐには気付けないなんて。
「へ? え? あ、ああ、失礼いたしました!」
小望は慌てて包拳礼を取る。
「各務原小望が、成人殿下にご挨拶申し上げます。怪しい者やありません。晦さまの配下です。こんな格好をしとりますが各務家にお仕えしとります。ほんまです。ご挨拶が遅れまして誠に申し訳ございません。あの、ほんまに怪しい者やないです」
「あ、うん。こんにちは、小望。成人です。怪しい者じゃないんだね。分かった」
何回も言うから、うんうんと頷いておいた。怪しい人だなんて思ってないよ。怪しい人を、じいやや佐鳥は俺の前に連れてきたりしない。俺も、なんとなく分かるし。
「よ、良かったです。命拾いを致しました……」
小望は、ふう、と息を吐いた。
「あ、包拳礼はもういいよ」
「ありがとうございます。あの、若様もこんにちは。香月と、成人殿下の護衛の方もこんにちは」
「こんちは」
「こんにちは。いらっしゃい、小望」
「ふむ。こんにちは。よい胆力じゃ」
「へ?」
「分かりますか、義父上。もうあかんとか言っておりますがこの娘、私の手からきっちり急所を外してみせました」
「ほう」
佐鳥の言葉に、じいやはまた、にこりと笑った。
ひええ、と呟いた小望は、晦に向かって声を潜めて話し出す。
「隊長、なんやめっちゃ怖いです。ほんまに怖いです。大体、あれや。隊長が、まずは城の内部を把握しようなんて言うたからあかんのや。ちゃんと先に殿や次期様、朧さまへ挨拶しとったら、こんな怖い思いせんですんだやろに」
「お前かて、それええですね、って言うとったやろが」
ご挨拶大事。
「た、隊長? 隊長が捕まっ……」
一人が晦を見て絶句する。
晦の仲間?
俺が晦を見上げると、
「うちの者です」
って、晦は頷いた。それから、
「小望。無事か」
って、晦のことを隊長って言った人に声を掛けた。二人の女の人は、見た目は二人とも似た感じ。体が、大きくもなく小さくもなく、顔付きも印象に残りにくい。小望って呼ばれた人のほうが若いなって、そう思うだけ。
ん? あれ?
「全然、無事やないです。めっちゃ怖いです。この方、めっちゃ怖いです」
小望が口を開くと印象の薄さが消えて、はっきりと顔が分かってきた。似ていると思った二人は、全然似ていないことに気付く。
「奇遇やな。俺も今、めっちゃ怖い思いをしとる」
「いいえ。隊長よりうちの方がめっちゃ怖い思いしとります。絶対です。この方、何の気配もなくうちの首元に手を当てて、こんにちは、って言いはったんですよ。もうあかん、思いました」
「そりゃまた……」
晦が小望の隣に目を向けると、その女の人はにこりと笑った。
あ、やっぱり。目の前で見ても、すぐには分からなかったよ。
「佐鳥」
「はい、成人殿下、若様、義父上もご機嫌麗しゅう。お散歩ですか?」
頭を下げたのは、やっぱり佐鳥だ。すごい。よく知っている人なのに、目の前に来てもすぐには気付けないなんて。
「へ? え? あ、ああ、失礼いたしました!」
小望は慌てて包拳礼を取る。
「各務原小望が、成人殿下にご挨拶申し上げます。怪しい者やありません。晦さまの配下です。こんな格好をしとりますが各務家にお仕えしとります。ほんまです。ご挨拶が遅れまして誠に申し訳ございません。あの、ほんまに怪しい者やないです」
「あ、うん。こんにちは、小望。成人です。怪しい者じゃないんだね。分かった」
何回も言うから、うんうんと頷いておいた。怪しい人だなんて思ってないよ。怪しい人を、じいやや佐鳥は俺の前に連れてきたりしない。俺も、なんとなく分かるし。
「よ、良かったです。命拾いを致しました……」
小望は、ふう、と息を吐いた。
「あ、包拳礼はもういいよ」
「ありがとうございます。あの、若様もこんにちは。香月と、成人殿下の護衛の方もこんにちは」
「こんちは」
「こんにちは。いらっしゃい、小望」
「ふむ。こんにちは。よい胆力じゃ」
「へ?」
「分かりますか、義父上。もうあかんとか言っておりますがこの娘、私の手からきっちり急所を外してみせました」
「ほう」
佐鳥の言葉に、じいやはまた、にこりと笑った。
ひええ、と呟いた小望は、晦に向かって声を潜めて話し出す。
「隊長、なんやめっちゃ怖いです。ほんまに怖いです。大体、あれや。隊長が、まずは城の内部を把握しようなんて言うたからあかんのや。ちゃんと先に殿や次期様、朧さまへ挨拶しとったら、こんな怖い思いせんですんだやろに」
「お前かて、それええですね、って言うとったやろが」
ご挨拶大事。
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