【本編完結】人形と皇子

かずえ

文字の大きさ
1,294 / 1,325
第十章 されど幸せな日々

85 口の端のご飯粒  成人

しおりを挟む
 ああ、そうか。それが、緋色ひいろの嫌なこと。母さまにされて嫌なことなんだ。
 俺が一緒に食事をした時に、母さまが急に怒り出したり泣き出したりしたことはなかったけれど、緋色ひいろが一緒に食事をした時にはあったんだ。今みたいに。
 優しく言っても、何も言わなくても泣いちゃうようなこと。怒る時もあった? そうだ。あの日。父さまや母さま、朱実あけみ殿下と赤璃あかりさまも一緒にご飯を食べた帰りに緋色ひいろが泣いたあの日。緋色ひいろは父さまに言っていた。母上が、俺の食べ方が汚いと言った後でたくさん食べる練習をさせられたけれど、これでいいと誰も言ってくれないから、汚い食べ方が直っているのか分からない、って。練習した後とする前で何が違うのかも分からないから、余計に、これでいいのか分かっていないのだって。
 緋色ひいろの食べ方は、綺麗だ。緋色ひいろと暮らし始めるまでちゃんとした食事をしてこなかった俺には、どんな形の食べ方が正解かなんて分からないのだけれど、そんな俺が見ても綺麗だ。その緋色ひいろの食べ方を見て、食べ方が汚いから嫌な気分になるって言うのなら、ちゃんとした練習をしていない俺となんてとても一緒に食べられない。緋色ひいろは、俺が雫石しずく母さまに急に怒られたりしないように約束をもらってくれるつもりなのかな。緋色ひいろが、人に怒られるような食べ方をする事なんてないんだから。

「俺の食べ方が下手くそだから、ごめんね」

 俺が言うと、緋色ひいろはびっくりしてこちらを見た。

「え? なるは上手よ?」

 乙羽おとわの声。

「だって俺、お茶碗持てない」
「持てないなりに上手に食べようと頑張ってるじゃない。半助はんすけも。できない事はしょうがないんだし、できる範囲で頑張っていたら充分よ。小さな子ども達もね、頑張って自分で食べているだけでもう、とっても素敵だった。私、末良すえよし亀吉かめきちさまが一生懸命に食べている様子が可愛くて仕方なかったわ。お口の端に付いてしまうご飯粒も可愛くて」
「ふふっ」

 ご飯粒を色んな所に付けながら、もりもり食べる亀吉かめきち。まだあまり上手に手を動かせないけれど、自分でやるって言う。可愛い。色んな所にこぼれても、それを駄目だとか嫌だって言う人なんていない。末良すえよしは食べることが大好きだから、二歳にしては食べるのがとても上手だけれども、お箸はまだ使えない。そして、やっぱりこぼしたり落としたりはしてしまう。でも、上手だね、って皆言う。
 そうか。
 俺はこぼしたりはほとんどしないし、お箸も使えるから、そんなに下手くそでもないか。
 
「母上はご病気で、そういった小さな子どもならではの仕草すら、時々カンに触られると聞いています。俺も成人なるひとも、普段とても自由に食事をしているから、母上の求める形を常にとる事はできない。だから、食事は別に取るのが互いの為だと俺は思う。だが、母上が、それでも俺たちと共に食事をすることを望まれるというのなら、その時、俺たちの食事態度が母上の意に沿わなかったからといって取り乱さない、という約束が欲しい。俺は、母上が取り乱す様子を見るのが嫌なんです。ましてや、それが俺の所為だと言われるのがとても苦痛です。母上。俺の言う事は何か間違っていますか?」
しおりを挟む
感想 2,500

あなたにおすすめの小説

【完結】愛されたかった僕の人生

Kanade
BL
✯オメガバース 〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜 お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。 今日も《夫》は帰らない。 《夫》には僕以外の『番』がいる。 ねぇ、どうしてなの? 一目惚れだって言ったじゃない。 愛してるって言ってくれたじゃないか。 ねぇ、僕はもう要らないの…? 独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。 ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー ✻改稿版を他サイトにて投稿公開中です。

公爵家の末っ子に転生しました〜出来損ないなので潔く退場しようとしたらうっかり溺愛されてしまった件について〜

上総啓
BL
公爵家の末っ子に転生したシルビオ。 体が弱く生まれて早々ぶっ倒れ、家族は見事に過保護ルートへと突き進んでしまった。 両親はめちゃくちゃ溺愛してくるし、超強い兄様はブラコンに育ち弟絶対守るマンに……。 せっかくファンタジーの世界に転生したんだから魔法も使えたり?と思ったら、我が家に代々伝わる上位氷魔法が俺にだけ使えない? しかも俺に使える魔法は氷魔法じゃなく『神聖魔法』?というか『神聖魔法』を操れるのは神に選ばれた愛し子だけ……? どうせ余命幾ばくもない出来損ないなら仕方ない、お荷物の僕はさっさと今世からも退場しよう……と思ってたのに? 偶然騎士たちを神聖魔法で救って、何故か天使と呼ばれて崇められたり。終いには帝国最強の狂血皇子に溺愛されて囲われちゃったり……いやいやちょっと待て。魔王様、主神様、まさかアンタらも? ……ってあれ、なんかめちゃくちゃ囲われてない?? ――― 病弱ならどうせすぐ死ぬかー。ならちょっとばかし遊んでもいいよね?と自由にやってたら無駄に最強な奴らに溺愛されちゃってた受けの話。 ※別名義で連載していた作品になります。 (名義を統合しこちらに移動することになりました)

悪役令息を改めたら皆の様子がおかしいです?

  *  ゆるゆ
BL
王太子から伴侶(予定)契約を破棄された瞬間、前世の記憶がよみがえって、悪役令息だと気づいたよ! しかし気づいたのが終了した後な件について。 悪役令息で断罪なんて絶対だめだ! 泣いちゃう! せっかく前世を思い出したんだから、これからは心を入れ替えて、真面目にがんばっていこう! と思ったんだけど……あれ? 皆やさしい? 主人公はあっちだよー? ユィリと皆の動画をつくりました! インスタ @yuruyu0 絵も動画もあがります。ほぼ毎日更新 Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます。動画を作ったときに更新 プロフのWebサイトから、両方に飛べるので、もしよかったら! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー! ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!

番に見つからない街で、子供を育てている

はちも
BL
目を覚ますと、腕の中には赤ん坊がいた。 異世界の青年ロアンとして目覚めた「俺」は、希少な男性オメガであり、子を産んだ母親だった。 現世の記憶は失われているが、 この子を守らなければならない、という想いだけははっきりと残っている。 街の人々に助けられ、魔石への魔力注入で生計を立てながら、 ロアンと息子カイルは、番のいない街で慎ましく暮らしていく。 だが、行方不明の番を探す噂が、静かに近づいていた。 再会は望まない。 今はただ、この子との生活を守りたい。 これは、番から逃げたオメガが、 選び直すまでの物語。 *不定期連載です。

嫌われ者の長男

りんか
BL
学校ではいじめられ、家でも誰からも愛してもらえない少年 岬。彼の家族は弟達だけ母親は幼い時に他界。一つずつ離れた五人の弟がいる。だけど弟達は岬には無関心で岬もそれはわかってるけど弟達の役に立つために頑張ってるそんな時とある事件が起きて.....

【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺

福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。 目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。 でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい… ……あれ…? …やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ… 前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。 1万2000字前後です。 攻めのキャラがブレるし若干変態です。 無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形) おまけ完結済み

そばかす糸目はのんびりしたい

楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。 母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。 ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。 ユージンは、のんびりするのが好きだった。 いつでも、のんびりしたいと思っている。 でも何故か忙しい。 ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。 いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。 果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。 懐かれ体質が好きな方向けです。

【完結】悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃が始まる──! といいな!(笑) 本編完結しました! おまけのお話を時々更新しています。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 インスタ @yuruyu0 絵もあがります Youtube @BL小説動画 アカウントがなくても、どなたでもご覧になれます プロフのwebサイトから両方に飛べるので、もしよかったら! 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけですー! 名前が  *   ゆるゆ  になりましたー! 中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!

処理中です...