1,293 / 1,325
第十章 されど幸せな日々
84 やさしい話し方
しおりを挟む
「あのう。失礼ながら申し上げます……」
壱臣が、そっと声を上げた。優しく話そうとしているのかもしれない。俺もさっき、雫石母さまが怖くないように話そう、って考えたもん。でも、壱臣はそんなことしなくても声が優しい。話し方も優しい。そこに居るだけでふわふわと優しい感じがする。壱臣のことが怖かったら、雫石母さまが話せる人はきっともうどこにもいない。
「今はもう夕刻で、夕食までそれほどの時間がありません。この時間から夕食の人数を変更されるいうのは、あまりに大変なお申し出やと思われます。皇城のお料理は、陛下と皇妃殿下のお口に合うようにすでに繊細な味の調整がなされとるので、その同じ料理の材料を更に二人分増やして、緋色殿下と成人く……成人殿下の口に合うように調整するんは難しいです」
緋色が頷くのを見て、壱臣は続けた。しっかり包拳礼をしながら言った。料理の話だから、すらすらとたくさん話している。
母さまの濡れた大きな目が、ぱちぱちと瞬いた。
「あの。それと、うちでは、うちの父、ええっと、養い親が、緋色殿下と成人殿下、それに、うちや乙羽さまや半助、常陸丸の好物をたくさん作って待ってくれとります。久しぶりやから、きっとたくさん作ってくれとるはずです。成人く……殿下は、それを楽しみにしてくれとりました。皇妃殿下のお誘いをお受けすると、それが食べられんくなるんです。だから、今日、皇妃殿下と緋色殿下、成人殿下がお食事を共にするんはできんのやと、そういうお話で……」
「う。うう……」
母さまがまた、顔を手で覆って泣き出したように見えたので、壱臣の優しい声はどんどん小さくなっていった。
何か泣くような話があったかな。とても分かりやすい説明だったけれども。
「私、私はただ、家族で食事を、と。それだけ。それだけなのに」
ひく、ひく、と泣きながら告げられた言葉。家族、家族か……。俺の知っている家族は、一緒に暮らしている仲良しな人。だから、雫石母さまは、俺たちの誰の家族でもない。だけど、一緒に暮らしていなくても仲良くなくても、血の繋がりのある人は家族なんだと聞いたから、雫石母さまと血の繋がりのある緋色が雫石母さまの家族なんだってことは知っている。伴侶も家族になるから、俺も家族。
でも、一緒に暮らしていない家族は、食事を一緒にしようと急に言っても難しい。だって、俺たちの家では、源さんがもう俺たちの好きな料理を作って待ってくれている。
雫石母さまの家では、雫石母さまや父さまが食べやすい食事が準備されている。
「母さま。俺たちは住んでいるのが別のおうちだからさ。だから、ええっと、先触れとか、あの、なんだろ? 約束? 約束かな? うん、約束をしてから、一緒にご飯食べよう?」
怖がらせないように喋るのって難しい。これで合っているのか分からないし。末良や亀吉に喋るみたいにすればいいのかな? いや、でも、二人を相手にした時のやさしく、っていうのは、知っていることの少ない二人にも分かりやすくってことだ。今考えているやさしく、とちょっと違うような気がする。
可愛い二人の前では思わずにこにこして優しい顔になるのは、当たり前の事だし。
「そんなこと言って、緋色さんはどうせ断るじゃないの」
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「もう二度と、共に食事をする者の食べ方、飲み方が汚いなどと口にしない、突然泣き出したり不機嫌になったりしない、と誓約書を書いて頂けるのなら考えます」
壱臣が、そっと声を上げた。優しく話そうとしているのかもしれない。俺もさっき、雫石母さまが怖くないように話そう、って考えたもん。でも、壱臣はそんなことしなくても声が優しい。話し方も優しい。そこに居るだけでふわふわと優しい感じがする。壱臣のことが怖かったら、雫石母さまが話せる人はきっともうどこにもいない。
「今はもう夕刻で、夕食までそれほどの時間がありません。この時間から夕食の人数を変更されるいうのは、あまりに大変なお申し出やと思われます。皇城のお料理は、陛下と皇妃殿下のお口に合うようにすでに繊細な味の調整がなされとるので、その同じ料理の材料を更に二人分増やして、緋色殿下と成人く……成人殿下の口に合うように調整するんは難しいです」
緋色が頷くのを見て、壱臣は続けた。しっかり包拳礼をしながら言った。料理の話だから、すらすらとたくさん話している。
母さまの濡れた大きな目が、ぱちぱちと瞬いた。
「あの。それと、うちでは、うちの父、ええっと、養い親が、緋色殿下と成人殿下、それに、うちや乙羽さまや半助、常陸丸の好物をたくさん作って待ってくれとります。久しぶりやから、きっとたくさん作ってくれとるはずです。成人く……殿下は、それを楽しみにしてくれとりました。皇妃殿下のお誘いをお受けすると、それが食べられんくなるんです。だから、今日、皇妃殿下と緋色殿下、成人殿下がお食事を共にするんはできんのやと、そういうお話で……」
「う。うう……」
母さまがまた、顔を手で覆って泣き出したように見えたので、壱臣の優しい声はどんどん小さくなっていった。
何か泣くような話があったかな。とても分かりやすい説明だったけれども。
「私、私はただ、家族で食事を、と。それだけ。それだけなのに」
ひく、ひく、と泣きながら告げられた言葉。家族、家族か……。俺の知っている家族は、一緒に暮らしている仲良しな人。だから、雫石母さまは、俺たちの誰の家族でもない。だけど、一緒に暮らしていなくても仲良くなくても、血の繋がりのある人は家族なんだと聞いたから、雫石母さまと血の繋がりのある緋色が雫石母さまの家族なんだってことは知っている。伴侶も家族になるから、俺も家族。
でも、一緒に暮らしていない家族は、食事を一緒にしようと急に言っても難しい。だって、俺たちの家では、源さんがもう俺たちの好きな料理を作って待ってくれている。
雫石母さまの家では、雫石母さまや父さまが食べやすい食事が準備されている。
「母さま。俺たちは住んでいるのが別のおうちだからさ。だから、ええっと、先触れとか、あの、なんだろ? 約束? 約束かな? うん、約束をしてから、一緒にご飯食べよう?」
怖がらせないように喋るのって難しい。これで合っているのか分からないし。末良や亀吉に喋るみたいにすればいいのかな? いや、でも、二人を相手にした時のやさしく、っていうのは、知っていることの少ない二人にも分かりやすくってことだ。今考えているやさしく、とちょっと違うような気がする。
可愛い二人の前では思わずにこにこして優しい顔になるのは、当たり前の事だし。
「そんなこと言って、緋色さんはどうせ断るじゃないの」
はあ、と緋色はため息を吐いた。
「もう二度と、共に食事をする者の食べ方、飲み方が汚いなどと口にしない、突然泣き出したり不機嫌になったりしない、と誓約書を書いて頂けるのなら考えます」
1,924
あなたにおすすめの小説
【完結】愛執 ~愛されたい子供を拾って溺愛したのは邪神でした~
綾雅(りょうが)今年は7冊!
BL
「なんだ、お前。鎖で繋がれてるのかよ! ひでぇな」
洞窟の神殿に鎖で繋がれた子供は、愛情も温もりも知らずに育った。
子供が欲しかったのは、自分を抱き締めてくれる腕――誰も与えてくれない温もりをくれたのは、人間ではなくて邪神。人間に害をなすとされた破壊神は、純粋な子供に絆され、子供に名をつけて溺愛し始める。
人のフリを長く続けたが愛情を理解できなかった破壊神と、初めての愛情を貪欲に欲しがる物知らぬ子供。愛を知らぬ者同士が徐々に惹かれ合う、ひたすら甘くて切ない恋物語。
「僕ね、セティのこと大好きだよ」
【注意事項】BL、R15、性的描写あり(※印)
【重複投稿】アルファポリス、カクヨム、小説家になろう、エブリスタ
【完結】2021/9/13
※2020/11/01 エブリスタ BLカテゴリー6位
※2021/09/09 エブリスタ、BLカテゴリー2位
【完結】愛されたかった僕の人生
Kanade
BL
✯オメガバース
〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜〜
お見合いから一年半の交際を経て、結婚(番婚)をして3年。
今日も《夫》は帰らない。
《夫》には僕以外の『番』がいる。
ねぇ、どうしてなの?
一目惚れだって言ったじゃない。
愛してるって言ってくれたじゃないか。
ねぇ、僕はもう要らないの…?
独りで過ごす『発情期』は辛いよ…。
【完結】最強公爵様に拾われた孤児、俺
福の島
BL
ゴリゴリに前世の記憶がある少年シオンは戸惑う。
目の前にいる男が、この世界最強の公爵様であり、ましてやシオンを養子にしたいとまで言ったのだから。
でも…まぁ…いっか…ご飯美味しいし、風呂は暖かい…
……あれ…?
…やばい…俺めちゃくちゃ公爵様が好きだ…
前置きが長いですがすぐくっつくのでシリアスのシの字もありません。
1万2000字前後です。
攻めのキャラがブレるし若干変態です。
無表情系クール最強公爵様×のんき転生主人公(無自覚美形)
おまけ完結済み
普段「はい」しか言わない僕は、そばに人がいると怖いのに、元マスターが迫ってきて弄ばれている
迷路を跳ぶ狐
BL
全105話*六月十一日に完結する予定です。
読んでいただき、エールやお気に入り、しおりなど、ありがとうございました(*≧∀≦*)
魔法の名手が生み出した失敗作と言われていた僕の処分は、ある日突然決まった。これから捨てられる城に置き去りにされるらしい。
ずっと前から廃棄処分は決まっていたし、殺されるかと思っていたのに、そうならなかったのはよかったんだけど、なぜか僕を嫌っていたはずのマスターまでその城に残っている。
それだけならよかったんだけど、ずっとついてくる。たまにちょっと怖い。
それだけならよかったんだけど、なんだか距離が近い気がする。
勘弁してほしい。
僕は、この人と話すのが、ものすごく怖いんだ。
【完結】お義父さんが、だいすきです
* ゆるゆ
BL
闇の髪に闇の瞳で、悪魔の子と生まれてすぐ捨てられた僕を拾ってくれたのは、月の精霊でした。
種族が違っても、僕は、おとうさんが、だいすきです。
ぜったいハッピーエンド保証な本編、おまけのお話、完結しました!
おまけのお話を時々更新しています。
ご感想欄 、うれしくてすぐ承認を押してしまい(笑)ネタバレ 配慮できないので、ご覧になる時は、お気をつけください!
トェルとリィフェルの動画つくりました!
インスタ @yuruyu0 絵もあがります
Youtube @BL小説動画
プロフのWebサイトから、どちらにも飛べるので、もしよかったら!
名前が * ゆるゆ になりましたー!
中身はいっしょなので(笑)これからもどうぞよろしくお願い致しますー!
そばかす糸目はのんびりしたい
楢山幕府
BL
由緒ある名家の末っ子として生まれたユージン。
母親が後妻で、眉目秀麗な直系の遺伝を受け継がなかったことから、一族からは空気として扱われていた。
ただ一人、溺愛してくる老いた父親を除いて。
ユージンは、のんびりするのが好きだった。
いつでも、のんびりしたいと思っている。
でも何故か忙しい。
ひとたび出張へ出れば、冒険者に囲まれる始末。
いつになったら、のんびりできるのか。もう開き直って、のんびりしていいのか。
果たして、そばかす糸目はのんびりできるのか。
懐かれ体質が好きな方向けです。
身代わりにされた少年は、冷徹騎士に溺愛される
秋津むぎ
BL
第13回BL大賞奨励賞頂きました!
応援ありがとうございます!
魔力がなく、義母達に疎まれながらも必死に生きる少年アシェ。
ある日、義兄が騎士団長ヴァルドの徽章を盗んだ罪をアシェに押し付け、身代わりにされてしまう。
死を覚悟した彼の姿を見て、冷徹な騎士ヴァルドは――?
傷ついた少年と騎士の、温かい溺愛物語。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる