勘当された悪役令嬢は平民になって幸せに暮らしていたのになぜか人生をやり直しさせられる

千環

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第二部(アレク編)

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 アレクがお兄様達の訓練に来られる日。私はお兄様達と一緒に訓練場でアレクを待っていた。
 夕食にお誘いするためだ。あわよくば、少しだけでもお話しできればという気持ちもある。

「アニー。お前、アレキサンダー卿に一目惚れしたのか?」

 お兄様の心底いらないお言葉に対し、ニコラスがアワアワとしている。

「お兄様、そういうことは気付いていても敢えて言わないのがマナーだと思いませんか?」

「マナーなどという言葉がお前の口が出るなんて笑うしかない」

「私は! 確かにアレキサンダー様をお慕いしておりますが! 横から口を挟まないでくださいませ!」

「よし! 絶対に捕まえろ! 俺も援護する!」

「えっ」

 私とニコラスが同時に口にした。
 からかうために聞いてきたのだと思ったら、応援するためだったらしい。

 どうやら私の子を養子に、という計画が今もお兄様の中で生きていて、それが憧れの騎士様との子になればとんでもなく嬉しいと、そういうことらしかった。

「頑張れ、アニー! お前は少しばかり生意気だが見た目は悪くない」

「えっ、私って見た目悪くないんですか!?」

 悪人ヅラだと思っていたけれど……。

「何を言う。黒髪も青い瞳も高貴な色だし、肌も白いし、目は少しキツめだがそれだって悪くない。太っても痩せてもいないし、特に貶す点は無いと思うぞ」

「そうですそうです! お綺麗にお育ちになると思います!」

 なんてこと……!
 長年ジュディスお母様に貶されて育ち、使用人におかしな美意識を植え付けられ、私が虐げてしまった男爵令嬢の可憐な容姿と比べて、私は貴族社会では美しくないという評価になると思い込んでいた。
 そりゃ、平民の中に入れば綺麗な方だという自覚はあったけれど。

「お兄様、ニコラス! 私、頑張りますわ! 必ずやアレキサンダー様の婚約者の座をこの手に!!」

「その意気だ! スタングロム侯爵家の後継にアレキサンダー卿の血を!」

「いやそれは別にお兄様のお子でいいではありませんか」

「よくない!! 頼む! お前とアレキサンダー卿の息子なんて楽しみで堪らないんだ! 頼むよ!」

「いや……」

 と、さらに断りを入れようとしたところでノヴァック公爵家の馬車がやってくるのが見えた。ピタッと喋るのを止め、ビシッと姿勢を正す。
 そして、三人で視線だけを合わせて頷き合う。養子云々は一先ず置いておいて、とにかく親密にならねば。

 馬車からアレクが降りてくる。私達の姿を認めて、クスッと笑った。
 ダメ。格好良すぎる。好き。

「アレキサンダー卿、本日はどうぞよろしくお願いいたします」

 お兄様が美しいボウアンドスクレープで挨拶する。それを手で制して『そんな畏まった挨拶は抜きにしよう』と言うアレクがまた格好良い。
 今日は訓練のために服装も先日と違ってワイルドだが、それがもう本当に心の底から格好良い。素敵。

「アドリアーナ嬢、今日も見学か?」

「はい。一時間ほど拝見したいと思っております。……あの、ぜひアニーと」

「あぁ、アニー。それでは俺のことはアレクと呼んでくれ。長ったらしい名だろう?」

「あっ、ありがとうございます、アレク様。本日、と言いますか、今後……こちらへ来てくださった折には夕食を共にいかがでしょう」

「いいのか?」

「はい! あの、まだまだ勉強中の身ではありますが、一生懸命お作りいたします!」

「君が? 料理を?」

「はい!」

「なるほど。ちなみに今日は何を?」

「ハンバーグです!」

「そうか、それは楽しみだ。ありがとう、アニー。ぜひ頂くよ」

「はいっ!!」

 大きな声で返事をしたら『元気だな』と言って頭をポンと撫でてくれた。
 本当に、格好良いが過ぎる。
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