下出部町内漫遊記

月芝

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093 利用マナー遵守のお願い

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 表紙が壊れていたり、背表紙の一角が浮いていたり、ページがほつれていたり、紙が濡れてふやけていたり、何かを零したせいでシミがついていたり、落書きや折り目、なかには真っ二つに裂けているモノまで……
 悲痛な姿にて、まるで本たちが泣いているかのよう。
 ここにはボロボロに傷ついている本たちが集められている。

「なによこれ、ひどい……」
「本を粗末に扱うだなんて」

 わたしとジンさんがおもわずそう口にすれば、文花も「まったくよね」と腰に手を当て柳眉を寄せる。

「図書館の本は公共の品でみんなの共有財産。だから大切に読まなくてはいけないのに、近頃ときたらマナーの悪い利用者が増えているのよ」

 借りた本を乱雑に扱う。
 返却時にそのことを指摘されて注意を受けると、逆切れして怒鳴り散らす輩もいるんだとか。
 さらには悪質なケースだといくつもの図書館をはしごしては、無差別に大量の本をビリビリに破いたり、破壊して回っては悦に浸る迷惑な阿呆もいる。
 もはやイタズラの範疇を越えており本当に意味がわからない。

 本好きの文花は明らかに憤慨しており、自称・頭脳派のジンさんもまた怒っており、カクさんもこれには「けしからん!」と奥歯をギリギリ噛みしめる。
 一枝さんも小さな頬を膨らませてはプリプリしており、ムーさんもブルルと震えては賛同の意を表明していた。

 ……と、まぁ、みんなの憤りもわからなくはないけれど、ひとまず脇へ置いておき。
 肝心の『青のスーラ』の在庫なのだが、返却後にここに回されたということは、そういう意味にて。

「えーと……あったわ、これね」

 文花が探し出してくれた二冊目の『青のスーラ』の本。
 待望のご対面だが、わたしの第一印象は「ごつい」である。
 児童書っぽいのを想像していたんだけど、実物は辞書ぐらいもあった。いざという時にはたぶん鈍器に使えるじゃないかな。
 そんな本の表紙にはムーさんを先頭にして、背後に大勢の人たちがいるイラストが書かれてある。
 みんなこの物語に登場するキャラクターたちなのだろうけど、これだと誰がムーさんの想い人なのか、ちょっとわからない。
 当人にも確認してもらったけど、やはり《わからない》とのことであった。
 本は一見するとキレイで修繕が必要なようには見えない。
 けど表紙をめくった奥の見返しの部分に『ページ破れ、水濡れアリ。本は大切に読みましょう』と印字されたシールが貼ってあった。

 とはいえこの時点ではまだまだ、わたしたちは余裕顔であった。
 だってページが欠けていたとて、全体からすればごく一部だろう。知りたい情報の箇所がすべて破れているなんてわけがないもの。
 水濡れにしたってそうだ。紙がふやけてカピカピに乾いていたとしても、文字が判読できないほどではあるまい。

 楽観視し、きっとたいしたことはないと見くびっていた。
 しかし、いざ本のページをパラパラとめくるうちに、みるみる顔が青くなってゆく。
 大丈夫そうに見えたのは外観だけで、中はけっこうひどい有り様だったからだ。

「ウソでしょう! ここも、ここも、ここも、ページが飛んでるじゃない」
「こっちの染みもひどいな。飲みかけのコーヒーでもぶちまけたのか?」
「むむむ、文字がぼやけておるなぁ。これではもうまともに読めんぞ」
「あーっ、ここ、ページが半分破けてる」

 修繕どころか廃棄処分レベルの破損具合。
 とてもではないが読書どころではない。
 これはもはや古文書の解読に近い作業となりそう。

「ムーさん、どうかな? 何か思い出した?」

 せめて物語のどの辺に探し物があるのか。
 序盤、中盤、終盤なりとも目星がつけばありがたい。
 なにせ『青のスーラ』本ときたら、かなりぶ厚いもので千ページを越えているんだもの!

《……う~ん、たぶん前の方のような気がするんだが》

 と自信なさげなムーさん。
 実際に本にうにょんと触手をのばして触れてみても、ピンと閃くことはないらしい。
 とにもかくにもムーさんの言葉を信じて、わたしたちは額をつき合わせては、前の方からざっと本を流し読みしていくことにしたんだけど……

「うわ、なによこの黒塗り!」
「ボールペンで書きなぐっているから消せんぞ」
「う~む、ここまでいくともはや悪意を感じるな」
「もしかしてムーさんの記憶があやふやなのって、これが原因じゃないのかい?」

 表向きはキレイなままで、裏でこそっと。
 誰の仕業か知らないけれども、底意地の悪さにわたしたちはムッキー!


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